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第4話【天玄に煌めく星の下で】

 異世界に来てから半日が経った。深夜になり、隣で熟睡しているルフトラグナを起こさないようにベルは起き上がった。


「…ん? どうした、眠れないか?」


 ロウソクの灯りひとつで武器の手入れをしていたグランツが、ベルが起きたことに気付いて手を止める。


「いやぁいろいろあってすっごく眠い…けど、いろいろ聞いておきたくて」


 この世界で生きるためには魔物という存在に詳しくなくてはならない。ベルはそう考えている。あの地竜のことも知っていれば、足が捕らわれることもなかっただろう。


「グランツさん、この世間知らずに教えてください。魔物のこと、世界のこと、そして魔王のことを」


「……わかった。ここで話してたらルフトラグナが起きてしまう。外に出よう」


 そう言うと2人は静かに外へ出ていく。一方、毛布に身を包んでいたルフトラグナは、その会話を聞いてうずくまっていた。


「ベルが…遠くに行っちゃう…」




* * *




 星々が輝き、夜空に一筋の光が通る。一際大きく明るい星はこの世界の月だろうか。


「ここには東西南北に4つ、大きな国がある。それぞれの国は互いに友好的で、助け合って暮らしている。そして交易の場に使うのが世界の中心とも言われている王国だ。その国の名は《ヴァルン王国》……入国するには“国渡(コクト)列車”に乗る必要がある」


 列車があるのかと思いながら、ベルはグランツの話を聞く。


「…君達の前に現れた騎士達はヴァルンの騎士団だろうな」


「どうしてルフトラグナを狙ってるんですか?」


「まぁ……金になるからだ。翼腕型の突然変異体、それを王国は天使と称している。そういった事は禁忌とされているのだが……理由は…現王がちょっとな」


「そうですか…いつか話をつけに行かないと」


「……そうだな」


 ベルの言葉に、グランツは星を見上げて呟いた。四国を繋ぐ《ヴァルン王国》は無くてはならない存在だ。国渡列車も王国の所有物であるため、王国に逆らえば交易が出来なくなってしまう。それ故に、ヴァルン現王の行動を強く言うことが出来ず、悪化していくばかりだった。


「王国は魔王討伐を言い訳に世界中から資材などをかき集めているが、それも今は埃を被ってるだろう……っと、魔物のことも知りたいんだったな、話が脱線してしまった」


 グランツはそう言うと話を戻し、魔物について語り始める。


「魔物には大きく分けて《竜種》、《亜人種》、《獣種》、《異種》が存在する。地竜は名の通り竜種に分類されるな。ルフトラグナは《亜人種》の翼腕型だろう。《獣種》は動物の姿形を模した魔物で、数的にはこちらが多い。《異種》というのは最近になって出てきた魔物で、一番身近なところだとスライム型か……まだ未知な部分が多い」


「基本的に四種族で分けられているんですね……覚えやすいです」


「ああ、ちなみにだが亜人種の中には友好的なやつもいる。妖精型のエルフや獣型のビーストだ。どの国も昔からこの二種族とは友好関係を築いている。……だが、一時期は“魔物なら魔王の居所を知っている”という噂が流れてな、あの時は騒がしかった」


 ベルはその話を聞いて、首を傾げる。


「えっ…と、魔王がどこに居るのかわからないんですか? 魔王城とか、そういうのは……?」


「わからない。何十年も前に全ての国の兵をかき集め、世界中を探し回ったが……世界地図が出来たこと以外に成果はないんだ。奴がどこに潜んでいるのか……せめて勇者が生きてさえいれば……」


「勇者が居たんですか!?」


「あぁ、世界地図が出来た辺りだったか、突然凄まじい力を持った少年が現れてな。昔のことだし俺もほとんど覚えていないが、彼は魔王と決着をつけると言ったっきり、二度と帰ってこなかった」


 その勇者がベルと同じ転生者であるかどうかはわからないが、やり方はわからずとも居場所を特定することは出来るということだ。それを証明してくれただけでもその勇者には感謝しなくてはならない。


「魔王がどこに居るのかもわからないまま、魔物の驚異に晒されている……そういえばあの地竜ってあの辺の主みたいな感じですか?」


「いや、数は少ないがこの森で同じようなやつを十数匹は俺が確認しているから主ではないだろう。群れのボスが居たとしても、あの地竜の大きさでは違う」


「あれで主じゃない……これはかなりハードモードだなぁ」


 ベルはブツブツとそう呟き、今後のことを考える。まず魔物を狩ることが出来るほどの力を付けなければならない。かつての勇者は敗北し、死亡したと考えていいだろう。


「……グランツさん。私に剣術を教えてくれませんか」


「何のために……?」


「私のためです。死にたくないですし、やらなきゃいけないですからね」


 今のところだが、“銃”がない以上は近距離戦闘になる。だがベルは剣なんて扱ったことがない。ナイフなら多少は使えるが、それだけではこの世界で生き抜くには厳しいと考えたのだ。


「自分のためか…君は魔王を倒す気でいるんだな、それも本気で」


「…はい」


「覚悟は───」


「とうのとっくに済ませてます。覚悟も決意もしてます。だからどうかお願いしますッ!」


 頭を下げ、右手を前へ突き出す。今日会ったばかりの人に、こんなことを頼むのは迷惑だとよくわかっている。だが、それでも生きる術を身に付けなくてはならない。直感だが、グランツに頼めば良い方向へ進む気がするのだ。つまり断れたらそこで終わり……ベルは内心不安に思いながらも、グランツの返答を待つ。


「ハァ……わかったわかった。2人揃ってそんな顔をするな」


「へ? 2人…?」


 ベルはグランツの言葉に、背後から気配がすることに気付いて振り向く。そこには月光に照らされる美しい天使の姿があった。


「る、ルフちゃん?」


「わたしも…たたかう……ベルが戦うのなら、わたしも着いていきます!」


「えっ、そ、それはぁ……」


「だめ…ですか?」


 ルフトラグナは瞳をうるうると涙目にして、ベルの顔を覗き込んでくる。


「うぐっ、ん……わかったよ、じゃあ一緒に行こう」


「……っ! やったぁ!」


 ピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ね、ルフトラグナは笑顔になる。


「となると、ルフトラグナには魔法の方を教えた方がいいな…どうしたものか」


「グランツさんは魔法使わない派ですか」


「全く使わないというわけではないが、俺が使えるのは肉体強化だけだ」


「どことなく参謀とかそんな感じがあるのに……意外と脳筋なんですね」


「に、苦手なんだ。……あと、これから長い付き合いになりそうだし、敬語はやめてくれ。あまり好きじゃない」


 グランツは微笑みながらそう言って、ベルと握手を交わす。


「……わかった。これからよろしくね! 師匠!」


「師匠もやめてくれ……とにかくもう寝るぞ。ベル、ルフトラグナ、朝になったら考えよう」


「「わかりました師匠!」」


 左手を上げて敬礼したベルとルフトラグナは、元気よく返事をすると小屋に戻って行った。


「──全く、仕方ない。あの人に来てもらうか」


 グランツはそう呟いて、2人の後を追うように小屋へ戻るのだった。

※亜人種・獣型のビーストは獣であるが人の形をしているため亜人種とします。獣種は完全に獣です。

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