第1話【鈴音転生 -Reincarnation- 】
音が聴こえる。
(6/8 修正)
───ああ、私は死んだのか。
意識が覚醒したポニーテールの少女“一条 鈴”は、そんなことを呑気に思いながら一番新しい記憶を手繰る。
かなり衝撃的だったのか、思い出そうとすると気分が悪くなり、吐き気がする。そう……確か、身体が弾け飛んで死んだのだ。それを思い出した瞬間、身体に感じないはずの痛みが違和感として残っている気がする。
「でも、死んだのならここはどこ……? もしかして実は生きていたりとか……は、しないか……」
鈴の魂は、ただ何も無い真っ暗な空間をゆっくりと流れるように彷徨う。永遠の無……ずっとこのままなのかと、不安感が増してくる。
しかしそんな不安をかき消すかのように、何も感じなかったはずの魂は突然、熱を感じ取る。無に流されていくその先には暖かい光があり、近づくに連れてどんどん眩しくなっていく。
「───ッ!?」
次の瞬間、光がカッと一層強くなって鈴は飛び起きる。
「ど、何処ここ……よくわかんないところからよくわかんないところに来ちゃったんだけど!? 」
ゆっくりと立ち上がって周囲を見渡し、状況を把握しようとするが……より一層わからなくなってくる。
鈴が立っているのは、何の変哲もない……とは言えない、見たこともない沢山の花が咲き誇っている場所、花園だ。指先がうっすらと若干透けて、下に咲く花々が覗ける。この身体は生身の肉体というわけではないらしい。
「あれかな、天国とかそういう場所? 綺麗な花だけど見たことないし……」
鈴はそう呟いてしゃがみ込むと、そっと指で花を撫でる。葉が揺れ、花弁がふわりと指をくすぐる。そんな、ほんの少しだけ心が安らいだ鈴に近付く影がひとつあった。
「私は《最果ての花園》と呼んでいます」
「ひゃい!? 私は花を愛でていただけで決して摘もうとかそんなことはしてないです思ってもないですだから許してくださいッ!」
突然背後から声がして、素早く立ち上がった鈴はとりあえず頭を下げて謝る。しかし鈴はすぐにその声を思い返すと、小さな女の子の声だった気がして恐る恐る顔を上げ、薄目で声の主の存在確認する。
「……はぁ、魂に異常はなさそうですね。言語も通常通り……完全修復が出来て何よりです」
安心したように息を吐いた声の主……身長は低く、白髪が光に当たってオーロラのように煌めかせる。安心しているようだが表情は“無”な少女が、鈴の瞳を覗き込むように見つめる。
「修復……?」
「はい、グチャグチャに変形したあなたの魂を修復しました。本当に……もう少しマシな死に方をして欲しかったです」
「す、スミマセン」
上げた顔を素早く下げて、鈴はただ一言そう謝った。何が何だかわからないが、マシじゃない死に方をした結果この少女に大変な思いをさせたようだ。
(……苺よりもちょっとだけ小さい……かな。というか話す内容からしてやっぱりここは天国とか、それに近い場所なんだ)
そう思いながら、最期まで自分を抱きしめてくれた幼馴染の“苺”と目の前の白髪少女を脳内で並ばせて体格を比べる鈴は、無意識のうちに少女の頭をポンポンと撫でていた。
「初めまして、一条鈴。私のことは……とりあえず、“アイン”と呼んでください」
鈴の行為を気にすることなく、アインと名乗った少女はすぐ隣に白い2つの椅子とテーブルを出現させて、椅子に腰を下ろす。無言でそっともう片方の椅子に手をやり、鈴にも座るよう促した。
「……それでは、どこから話しましょうか。まぁ全てわからないでしょうし、一から説明します。まずここは死者の魂の通り道。天界、天国……そんなような場所です。そして私は、死者をあるべき場所へ送る神……の、代行者兼、世界監理者をしていま───」
「ちょっっっと待って、頭の中整理するから!」
頭を抑えながら鈴は思わずアインの言葉を遮る。大体はわかった。つまりは、鈴自身がこれからどこへ行ってどうなるのかを聞かされるのだろう。神……ではないようだが、それに近い存在がこのアインなのだと、鈴は理解する。
「……つ、続きをお願いします」
「はい、あなたに異世界への転生を許可します」
「へ? て、転生!? そっ…え? 転生!!?」
「話を飛ばしすぎましたね。人とこうして話すのはあの子達以外とは初めてなので……簡潔に言いますと、私はあなたを元の世界とは別の世界で生きる権利を与えられます」
「人生のやり直し……いや、この場合私は全く別の人間に産まれるってことになるのかな……?」
「いえ、今のその記憶や能力は引き継いでもらいます。あなたは……普通とはかけ離れた死に方をしましたから。ですので、あの世界で死んだ“他の者”も同じように転生を勧めています」
そう言われた鈴は、記憶の引き継ぎうんぬんよりも他の者という言葉が気になって仕方ない。あの世界の死者はとても多かった。しかし今は、状況整理のためにもアインの話を聞く。
「本来であればその人の全てをリセットして、生まれ変わる。というのが通常です。……が、先程も言った通り、あなたは異常な死を遂げてしまった。……なので、私はチャンスを与えることにしました。記憶と肉体の状態を引き継ぎ、以前居た世界とは全く別の世界で生をまっとう出来るチャンスです」
また生きることが出来るなら万々歳だ。だが、鈴には心残りがあった。……まだ、あの世界での戦いは終わっていない。
「……あの、それが出来るなら……元の世界へ帰してもらうことは出来ないですか? まだ私は、あの世界で戦わなくちゃいけなかったんです。もちろんそんなこと許されないのはわかってるんですけど、それでも……!」
椅子から立ち上がり、身体をテーブルに乗り出して言う鈴をアインは制する。
「知っています。よく理解しています。あなたが何をしてきたのか、あなたが居た世界で何があったのか……全てわかっています。ですが死んだ者の帰還は許可出来ません」
「そこをなんとかお願い出来ませんか!?」
「……ルートを説明しましょう」
必死になって頼む鈴に、アインはそう言ってテーブルをトントンと指で叩く。すると光の線のようなものが現れ、生物のように動き出す。アインがもう一度テーブルを指で叩くとその光は不思議な形になって留まった。
「この漏斗のような形をした返しがある道が、死者の魂が通る道です。魚を捕る際に使う網のようなものと思ってください。人も獣も虫も魚も、死んだらこうして魂が流れるようにこの花園にやってきます」
それを聞いて、鈴はなんとなく理解した。
「もうわかったみたいですね。さすがです。流れてくる魂に意思はない上に、あったとしても魂を動かすことは本人にも出来ない。この道は一方通行なんです。だから戻ることは普通叶わない」
「普通じゃなければ……帰れるんですか?」
「……条件付きでも良いのなら帰還することも──」
「その条件呑みますッ!」
戻ることが出来るのならと、鈴は即答する。
「どんなものなのか、聞かなくていいんですか?」
「魂を差し出せばいいですか?! 全て終わった後ならそれでもいいです。私は苺達と一緒に戦わなくちゃいけない……!!」
「……条件はいくつかあります。1つは変わらず、異世界に転生してもらいます。転生する際、助けになるように特能と呼ばれる力を与えていますが……それを無効で、さらに転生場所も選ぶことは出来ず、ランダムに転移させます」
アインはそう言って光の線をパッと消し去り、話を続ける。
「転生先である第一世界は、魔物が多く存在する世界です。何かしらの魔法などを習得していなければ生き抜くことはかなり厳しいでしょう」
淡々と説明していくアインの姿に、鈴も焦る心を落ち着かせて耳を傾ける。
「そして2つ目はその異世界に存在する“魔王”の討伐です」
「……マジですか」
特能なる力を与えられないと聞いた後に魔王討伐を聞かされ、鈴は自分の耳を疑った。
「そちらの世界の《サイハテ》は不可能を可能としますから、帰すこと自体は出来ます。私が道を一時的に壊して強引に押せば戻れるでしょう。ですが、あなたがそれに耐えられるとは限らない。だから一度転生して慣れてもらわなくてはならないのです」
だが、いわゆる転生特典というものが無いのに、魔王という圧倒的な存在と戦うことは出来るのだろうか。鈴はそれを心配する。もちろん元の世界に戻るためなので覚悟は出来ている。しかし実力がなければどうすることも出来ない。
「それであなたが生きるための肉体なのですが……」
と、そう言いながらアインは空中に何か小さなものを出現させ、それを光に閉じ込める。刹那、光が爆発すると、小さなものはみるみるうちに大きくなり、赤ん坊から少女へ。そして、そこには見覚えのある肉体……そう、鈴自身の姿がそこにあった。だがそれは……。
「あれ、あのこれって……」
「はい、現実世界と仮想世界が歪に融合した世界で死んだ、あなたの肉体を元に新しく創りました。仮想…《NewGameOnline5》内のあなたの“ゲームアバター”が元になっています。そしてあなたの記憶と、取得していたゲームスキルが異世界では魔法として引き継がれるので、少なくとも生前のように身体を動かすことが出来るでしょう」
「それはありがたいです!」
目を輝かせて鈴は言う。スキルが引き継がれるのなら、やりようはある。アインは何だかんだ言いながらも、いろいろ助けてくれているのだろうか。
「ですが全て引き継げるかどうかは私にもわかりませんので、ご理解ください」
「いや、1つでもあれば生きれます。無くてもやってやる覚悟ですけどね」
「……さすがですね。それでは一条鈴、準備はいいですか? あちらの世界は過酷です。条件を取り消すなら今のうちですよ」
立ち上がったアインは、椅子とテーブルを消すとそう言って鈴に手を差し伸べる。同じく立ち上がった鈴はその手を取り、決意した目でアインの瞳を覗き込む。
「取り消しません! 魔王を倒して、絶対に戻ってきますッ!」
必ず戻る。どんな手を使ってでも魔王を倒し、元の世界へ帰還すると鈴は心に、魂に刻み込んだ。
「……では、魔王討伐報酬として、一条鈴の元の世界への帰還を約束します」
アインはそう言うと自身が創り出した、ゲームアバターを元にした鈴の肉体と、その魂を融合させる。
「定着完了……転生開始。頑張って生きてください」
終始無表情を貫いたアインは、そう言って白い光に包まれる鈴を見送る。花園の地面が歪み、吸い込まれそうなほど黒い穴が出現すると白い光が呑み込まれる。
「……きっとあなたなら大丈夫」
そう小さく呟き、目を瞑ったアインは鈴に向けて強く祈った。
* * *
これは異常な世界で死んだ者が異世界へ転生し、元の世界へ帰るために◆◆を殺す物語。
八世界を紡ぎ結う物語のひとつだ───。
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