ある神話
遥か昔、光が死んで闇が台頭した時代があった。
更に遥か遥か大昔に神々が、争いを幾千年止めない、世界を三つに分けていた三つの超大国に何よりも恐ろしい裁きを下し、その世界と人間を見捨てた為だった。神々に見捨てられると、その制裁よりも恐ろしい事が起こり、全ての事象は苦しみ悶え死んだ。それはまた別のお話として…。
そんな神がおらず、光も物も無かった時代に、たった一人だけユイという名の美しい人間の少女がその何よりも恐ろしい制裁から神々により保護され、生き残った。
ユイは三国の多数の人民の中から選ばれた最も心が清い者だった。ユイは神々に見捨てられた、何も無いその世界の管理を彼らに勝手に任された為、不老不死となり生かされていた。管理と言っても、そこにはただ永遠の闇があるばかりだったのみだか…。
時すら無い世界で若いまま光も見ず、親も見ず、友も見なかった。そんな中途方もない時間過ごした為、ユイは当然の様に病んでいた。
気が狂いそうになったユイは神々に頼み込み、荒涼とした薄暗い大地を持つことを許された為、泥から大きな甕を用意し、死んだ水、土、石を入れて煮た。
そうしてユイは光を再び作った。溢れかえった死んだ水のせいで泥状になった大地を固め直し、その土を煮たものから途方もない時間を掛けて、途方もない数の人を作った。
しかし、ユイは気づいた。
「人の住む処が無い」と。
ユイは新たにどこからかやってきたイルと名乗る神に楽園を幾つか作ってもらうよう頼んだ。
「新しい神様、お願いです。どうか私が造った人々の為に、人の住める楽園を造って頂けないでしょうか?」
「よいだろう。」
新たな神、イルはこれを了承した。
新たな神、イルは願い事の全てにおいて、それ以上の大切なものを対価に要求する嫉妬と金欲の悪神だった。イルは“新たな神”を名乗っていたが、正体は古い神が怒って去った後、無秩序な暗闇に居残った旧世界の大地の悪魔だった。
ユイは左目と右耳を奪われたが、楽園は十方に作られた。
人は大いに喜んで、楽園に移住した。ユイもそれを大いに喜び、左目と右耳を奪われたことを気にしていなかった。
十方に楽園が作られて、ほとんどの人間がそこに移った。しかしユイに恩を感じる者たちが、ユイの下に残った。彼らは生を与えられた事を感謝していた。残った者はイルにも感謝していた。
しかし、ユイは今までの全ての経験と、片目片耳を奪われたことで決して治る事の無い大きな心を傷を負い、病んでいた。残った者達は必死に、一丸となってユイの心の傷を癒そうと尽力した。ある者がユイに言った
「生い立ちを聞かせて下さい」と。
ユイは全てを泣きながら語ると、聞いていた者も泣き始めた。
「こんな少女に神々は何をさせているのか。」
「この様なひどい仕打ち、彼女が何か大罪を犯しましょうや。」と。
人はみなユイに同情し、共に泣き、働き、楽しみ、ユイの心も少しずつ癒えていった。
ユイは子を産み、残った者達と順調に心を癒していった。
しかしユイは、もっと絶望の感情と若さみなぎる人の体が欲しいと願う、新たな神を偽る大地の悪魔イルに、未来を見通せる力を勝手に与えられた。
ユイはイルのもとに出向きに抗議しようとしたが、その前に無意識に全ての未来を見てしまった。 身近な残った者の死や、遠い遠い未来の自らが生み出した人類同士の終わることの無い醜い争い、それら一人一人が受ける不幸の全てを見通すことが出来るようになった。
脳裏に勝手にその映像が流れ、痛み、つらさ、憎しみをその一身に受けた。
彼女が生み出した人間たちは、いずれユイのみが知る旧世界の様な悲惨な運命を辿ると知ったユイは絶望の淵に追いやられた。
そしてユイはイルの下に行き乞うた。
声の限り泣きじゃくり、目の下に大きなクマを作った必死の形相で、
「“人類の出来る限りの幸福な運命”を約束して欲しい。旧世界の様には事は繰り返さないで欲しい。」と。
イルは笑顔で返した。
「では誰か人間の命を頂戴。」
清い心を持っているユイは戸惑いながら、かすれる様な声を絞り出してイルに問うた。
「人を殺す事は出来ません。それ以外の方法は無いのでしょうか?どうか、どうか…。」
イルは「出来るだけ綺麗に…。」とだけ言い、姿を消した。
ユイはある事を思い付いた。それは当然の帰結でもあり、それ以上悩むことは無かった。むしろ気が楽になった。
翌朝、ユイは首を括った。
残った者は大いに悲しみ神々を恨んだ。
イルはユイの抱えた絶望と命を持ち、逃げた。
何度も確認致しましたが、誤字脱字、読みにくい点が多々あると思われます。
何分初めての作品ですが故、ご容赦下さい。