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狂った女神が歌う世界で、僕は魔女に恋をした。  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
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滅びの歌

 僕が十六歳になった時、その歌は突然世界中に響き渡った。

「滅べ滅べ人の子よ。殺し合いを愛するものよ。私の願いを聞かぬ者よ。私に矛盾を願う者よ。等しく苦しみ死んで逝け」

 その歌が聞こえた時、師匠は笑っていた。

「なにが、おかしいんです?」

「なに、人の愚かさが神をも狂わせたのじゃ」

「この歌は何なんです?誰が歌っているんですか?」

「これは『滅びの歌』じゃ、守護者の塔の最上階に居る。女神さまが歌っておる。この歌が聞こえた後で、世界は滅亡に向かう」

「世界が滅ぶんですか?」

「このまま何もしなければ滅びるが、そうはならん」

「なぜです?」

「お主、知らんのか?滅びの歌の伝承を」

「いままで聞いたことはありません」

「そうか、そうじゃの、お主は成人する前に闘技場に来たのじゃった」

「成人すると分かるんですか?」

「本来なら、成人の儀に伝えられる伝承じゃ。世界は女神によって支えられている。全ての魔法は女神への願いで実現している。

 魔法による人の蘇生も、人の死も、全ては女神を通して願いが叶う。ゆえに、世が乱れ戦乱が続く時、女神が狂う。そうなれば、世界は滅亡を迎えるしかない。

 だが、世界が滅亡する前に女神を倒し、次の女神の誕生を願えば世界は救われる。それが、伝承じゃ」

「じゃあ、一刻も早く女神を倒さないと」

「お主も本質を分かっておらぬな」

「え?なんでです?」

「女神が狂う原因が人間なのじゃ。もう滅びてもよかろう」

「師匠は、それで良いんですか?」

「女神を狂わせる人間の方に問題があるのじゃ。それを女神を殺すことでリセットするなど言語道断」

「師匠は人類が滅ぶべきだと?」

「本当はそう思っておる。だが、神の真意をおもんばかると、それが正しいとは言えぬ」

「なんでです?」

「世界を是正する余地を残しているという事は女神が人類に期待しているということだからじゃ」

「では、師匠も女神を倒す為に行かれるのですか?」

「ワシは行かん。だが、お主が行くというのなら手助けをしよう」

「なぜです?」

「お主は女神の本当の願いを理解して叶える。そんな気がするからじゃ」

「それも、師匠の勘ですか?」

「そうじゃとも、ワシではダメじゃ。お主しにしかできぬことがある」

「でも、借金の返済まで後一年はかかりそうですが?」

「精霊の加護は売らないつもりか?」

「ええ、絶対に売りません」

「そうか、では剣闘士の中から守護者の塔への登頂者を決めるトーナメントが開催される。それに出場するが良い」

「分かりました」

 その後、師匠の言う通り、剣闘士から冒険者になれる者を選抜するトーナメントが開催された。募集人数は無制限だが、守護者の塔に登れるのは十二人だった。

 僕は戦いを勝ち抜き十二人の一人になった。クレスとは別のグループになっていたので、苦戦することなく圧勝した。殆どが一撃での決着だった。

「勝ったな」

 最後の敵を倒して、闘技場から出ると師匠が待っていた。

「はい、この後、表彰式だそうです」

「表彰式には出なくていい」

「え?そうなんですか?」

「ワシから、話を通しておいた」

「そうですか、分かりました」

 何故、師匠が表彰式に出なくて良いと言ったのかは分からなかったが、意味のない事をする人ではなかったので、何か意図があるのだろうと納得した。

「これは餞別だ受け取れ」

 そう言って、師匠は僕に拳大の黒い球を投げてよこした。僕が受け取ると、それは刀の形になった。

「その武器は『闇の刀』というものだ。話しかけてみろ」

「はい」

 僕は心の中で念じた。

(初めまして)

(あら、可愛い坊やね。私は闇の精霊よ。よろしくね)

 僕の目の前に黒目黒髪長髪の妖艶な美女が現れた。

「見えたか?」

「はい」

「合格らしいな。その武器は人を選ぶ、無能の前に彼女は姿を現さない」

「そうですか、黒い球に戻すにはどうすれば?」

「願えばいい」

(黒い球に戻ってくれませんか?)

(いいわよ)

 闇の精霊はそう言って微笑み、刀は球に戻った。

「もう一つ餞別にやる。お主、平民の出じゃったろう?」

「はい」

「苗字を譲ってやる。今日からアラン・シェードと名乗れ」

 苗字を名乗れるのは貴族と王族だけだった。平民と奴隷は苗字を名乗る事を禁止されていた。

「ありがとうございます。ですが、勝手に名乗って良いんですか?」

「貴族連中にあって咎められたら、『闇の刀』を見せればいい。それが、ワシの後継者である証だ」

「ありがとうございます。師匠」

「なに、礼を言うのはワシの方だ。ワシは世界が滅びても良いと思っておる。だが、お主が世界を存続させるのなら、それはそれで良いと思った。ワシには子がおらん。自分がやってきたことの業の深さは知っておる。だが、もし孫が居るのならお主の様な人間が良いと思っていた」

「師匠」

「好きに生きよ。アラン」

「はい、行ってきます。師匠」

 こうして、僕は守護者の塔に向かった。


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