剣闘士 論評
「さて、内容はともかく、初勝利じゃの」
師匠は嬉しそうに笑った。
「はい、内容は酷いものでしたが……」
僕は申し訳が無かった。師匠のアドバイスである「『勇者咆哮』が切れたら『絶』を放て」を無視し、最大の勝利のチャンスを思い込みと慢心で見逃してしまった。
「なに、勝てたのじゃ、次に活かせ」
「はい」
「それで、スキルを手に入れたようじゃな」
「はい、光耐性を得ました」
僕は右手を突き出し『取り出し、スキル光耐性』と念じた。すると、僕の右手に青銅色の光り輝くクリスタルが出現した。
「まあ、あれだけバカスカ撃たれたんじゃ、耐性もつくじゃろう」
「これで、クレスにはもう負けません」
僕は青銅色に輝く光のクリスタルを見つめた。
「そうじゃな、それでどうじゃ?自ら得たスキルの感想は?」
「なんか嬉しい」
「そうか、そうじゃろう。自分の成長は嬉しいものじゃ」
「師匠からもらったスキルは返した方が良い?」
スキルは売買できる。自分で得たスキルを他人が自分のスキルとして使用する事が可能だからだ。スキルには金銭的価値がある。師匠はそのスキルをただで僕にくれた。好意でくれた事は知っている。だから、師匠が必要とするスキルなら返そうと思った。
「遠慮するな、ワシはもっといいスキルを使っている」
だが、アランは知っていた。師匠からもらったスキルのうち、『精霊の加護』は特別なものだった。これが無かったらクレスには勝てなかった。『裁きの雷』で即死していた。精霊の加護の取引相場は一千万ゴールドだった。これを売っただけでアランは自分が冒険者になれる事を知っていた。
「精霊の加護は売らんのか?すぐに奴隷から解放されるぞ?」
「それは、出来ません」
「なぜじゃ?平民に戻って幸せに暮らすんじゃろ?」
「だって、これは僕の命を救ったスキルです」
「そうか、なら、そう伝えておく」
「誰にです?」
「そのスキルをお主に渡した者にじゃよ」
「え?師匠がくれたんじゃないんですか?」
「精霊の加護だけは、他の者からじゃ」
「誰なんです?」
「渡した者との約束でな、名を伝える事は出来ない」
「そうですか、では伝言をお願いする事は出来ますか?」
「まあ、伝言であれば伝えよう」
「ありがとう。助かったと」
「それは、あの方もお喜びになるじゃろうて」
「あの方って事は、だいぶ高貴な方なのですね」
「そうじゃ。だから、あの方にあったら今までの非礼を詫びるのじゃぞ?」
「え?でも、誰か分からないのに詫びようもないじゃないですか?」
「そうじゃったな。ま、運命がお主らを引き合わせるだろうよ」
「なんなんです?それ」
「年寄りのたわごとじゃ」
「師匠ってたまに変な事を言いますよね?」
「なに、天才というのは凡人には理解できぬことを理解して話すのでな、凡人に理解できるのは事が終わってからじゃよ」
「そうですね。終わってから初めて気が付く、師匠の助言はいつもそうでした」
「だから、覚えておくのじゃ、お主と幸せな家庭を築く者とは既に出会っておる。お主が気づかなかっただけじゃとな」
僕は師匠が言っている人物に心当たりがあった。でも、この時はそれを認める事が出来なかった。




