剣闘士 片思い
私はアランの初戦を見に来た。彼は私の誘いを拒絶した。だから、この初戦で負けた場合、彼は復活する事が出来ない。そういう約束だった。
エルダーは必ず勝てるように鍛えると約束してくれた。だが、戦いに絶対はない。アランの相手は、歴戦の勇者クレス十五歳で闘技場にデビューしてから、一度しか負けていない、現時点で二番目の強者だった。
その一敗を与えたのはエルダーだった。そして、闘技場最強の剣闘士は、クリシェラル帝国が後見人を務めていた。だから、アランを彼に託したのだ。
円形の闘技場を囲む観客席の一つに座り、彼の出番を待つ。それまでの間、闘技場では剣闘士たちが殺し合いを繰り広げている。観客席には多くの民衆が詰めかけていた。あるものは声援をある者は罵声を口々に叫びながら、お気に入りの剣闘士を応援していた。
もちろん、戦いの結果に金銭をかけている。強い剣闘士には低い倍率が、弱い剣闘士には高い倍率がついている。アラン対クレスの倍率は、アラン300対110だった。これは、アランに勝ち目がないと主催者が判断した事になる。
不安は一杯だが、私はアランの勝利を信じていた。
「さあ、みなさんお待ちかね。本日のメインイベント勇者クレス対忍者アランの戦いです。両者、にゅ~~~~~じょ~~~~~!」
アナウンサーが大きな声で、闘技場の二つの門が開き、それぞれから剣闘士が姿を現した。一人は全身鉄の鎧に身を包んだ勇者クレス、もう一人は黒装束に身を包んだ忍者アランだった。二人が現れると会場は割れんばかりの大歓声に包まれた。
「クレス!今日もお前に賭けてる。頼むぜ!「アラン!俺はお前に賭けてるんだ!」「クレス様~こっち向いて~」「クレス!新人に負けたら承知しねーぞ!」
皆、口々好き勝手に騒いでいた。当然の如く、アランを応援している人は少なかった。デビューしたての新人が闘技場のナンバー2に勝てるはずがないと思っていた。
三年ぶりに見たアランは逞しく成長していた。幼さが残っていた顔は精悍な男のものになっていた。優しい目は、鋭い戦士のものになっていた。それでも、想いは変わらなかった。どうか生き残って欲しいと思った。
二人の剣闘士は向かい合いって対峙していた。二人で何事か話しているようだが、歓声のせいで何を言っているか聞き取れなかった。
「両者で揃いました。東、みなさんご存じ闘技場のナンバー2~。鉄の鎧に身を包み、剣も魔法もお手の物、万能にして全能、土を付けたのはエルダーのみ、ゆ~~~~~しゃ~|~~~~クレ~~~~ス!」
アナウンサーの紹介に会場は大歓声に包まれた。それが、いったん収まるとアナウンサーは続けた。
「西、当闘技場のナンバーワン、言わずと知れた不敗の英雄、その秘蔵っ子が現れた。英雄の後継者となるか、はたまた闘技場の土となるか、その実力は未知数、今日がデビュー戦、にんじゃ~~~~~~ア~~~~~~ラン!」
先ほどと打って変って会場は静かだった。ちらほらと声援を送るものは居るが、クレスの時と比べると声援など無いに等しかった。それでも、アランは静かに佇んでいた。
「それでは、どちらかが死ぬまでのデスマッチ、死して屍拾うものなし、時間制限なし、レディ~~~~~~~~ファイッ」




