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狂った女神が歌う世界で、僕は魔女に恋をした。  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
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1階攻略 戦闘

 僕たち4人は塔に向かった。塔で最後尾に並ぶと、後ろにクレスが並んだ。

「ようアラン。調子はどうだ?」

 クレスは気さくに話しかけて来た。

「まだ、これから1階に挑戦するとこさ」

 僕も気さくに返す。闘技場では何度も戦った仲だった。個人的に話す機会もあったので親友になっていた。

「そうか、俺もこれから1階に挑戦する。ところで一人で行くつもりか?表彰式に来なかったから心配したぞ?」

「師匠が表彰式には出なくて良いと言ったから、先にこの町に来たんだ。で、そこの三人が僕と一緒に塔を登るメンバーだ」

「なるほどな、エルダー殿の差し金か……。理解に苦しむが理由あってのころだろうな」

「理解に苦しむ?」

「ああ、本来ならトーナメントの優勝者12人でパーティーを組んで塔を登るという予定だったのだ。だが、君は表彰式に来なかった。だから、準優勝者のウルスがゾディアックウェポンを授与されて塔に挑むことになった」

 クルスの話を聞いてキースたちが驚きの表情を浮かべていた。

「ゾディアックウエポンってなんだ?」

 僕は聞いたことが無い単語に疑問符を浮かべた。

「エルダー殿は教えてくれなかったのか?」

「何も」

「まあ、簡単に説明すると、十二星座にちなんだ強力な武器だ。神を殺す為に古代から受け継がれてきた武器だよ」

「なるほど、つまり師匠は僕に試練を課したのか」

「それで良いのか?」

 クレスは僕の反応が意外だったのか、聞き返してきた。

「良いんだ。師匠の事はよく分かっている。僕に不利な条件をつきつける時は決まって修行の時だった。だから、きっとこれも神を殺す為に必要な事だと思う」

「そうか、君が納得しているのならそれでいい。さて、そろそろメンバーを紹介してくれないかな?」

「ああ、良いとも。彼はキース、このパーティーのリーダーだ。彼はマゼンダ、アタッカーをやっている。そして、彼女はシアン、回復役だ」

「よろしく、俺はクレス。アランの親友だ」

 そう言ってクレスは爽やかな笑顔をキースたちに向けた。

「俺はキース。よろしく」

 キースは笑顔で言って、手を差し伸べた。クレスはその手を取って握手した。

「俺はマゼンダ。ゾディアックの勇士に会えるなんて光栄です」

「なに、そう大したものじゃないさ」

 クレスは謙遜してマゼンダと握手した。

「私はシアン。よろしくね」

「ああ、よろしく」

 クレスとシアンも握手した。

「それで、そっちのメンバーは?」

 僕が質問すると落ち着いた感じの純白の髪の女性が出て来た。全身をゆったりとした白いローブで身を包んでいるが、ローブ越しにも女性らしい体型をしているのが分かった。そして、特徴的なのが赤い目とウサ耳だった。彼女は兎人うさぎびとだった。

「ど~も~。私はアリス。回復だったり、攻撃だったりを担当してま~す」

 落ち着いた雰囲気そのままのゆったりとした口調での挨拶だった。

 次に出て来たのは筋骨隆々の大男だった。鉄の鎧に全身を身を包み、それでも筋肉が溢れていた。身長は2メートルを超えていて、クレスよりも大きかった。顔は岩の様な屈強な漢らしい顔だった。髪の色はくすんだ茶色だった。日に焼けた肌と相まって牛の様に見えた。

「よう。俺はミノス。アタッカーだ」

 顔によく似合う野太い声で挨拶をした。

 最後に出て来たのは、皮の鎧に身を包んだ。小柄な猫人ねこびとの女性だった。武器は槍を持っていた。髪の色は黒。肌は少し日に焼けていた。

「あの、わたしはプリムです。よろしくです」

 可愛らしい高い声での挨拶だった。

 みなそれぞれに握手し、挨拶を交わした。

「お互い頑張ろうぜ!」

 クレスがそう言うと、みんな笑顔で答えた。

『おう!』

「お~~」

 一人だけ返事が間延びし、締まらなかったが、お互いの健闘を祈ってそれぞれ塔に入っていった。


 塔の内部へ入ると石板が置いてあった。前のグループリーダーらしき人が石板にギルドカードをかざしすと、メンバーと一緒に消えていた。

 キースが真似をしてカードをかざすと挑戦階数とメンバーの名前が表示され、移動するというボタンが石板に表示された。キースは、僕を見た。僕は頷いた。マゼンダとシアンにも同じようにした。

 キースが移動するというボタンを押すと、真っ白な部屋に移動していた。その部屋の中央に四体の白い人間の様な生き物が居た。その背中には純白の翼が付いており、みな同じ革の鎧に身を包んでいた。右手にはレイピア、左手には小さめの盾を持っていた。

 顔は無く、のっぺりとした白い物体だった。目も耳も無いが、こちらを向いているのは分かった。

「あれが、最初の試練『光刺す天使達』か」

 キースが剣を構えてそう言った。

「作戦は?」

「アランは攻撃、俺は二人を守る。マゼンダは魔法攻撃をシアンは俺の回復を頼む」

「分かった」

 僕は、簡潔に答えた。

「魔法攻撃は任せろ!」

「回復するから、ちゃんと守ってね」

 二人はそれぞれキースに答えた。

 僕たち四人が近づくと天使達も攻撃準備を始めた。レイピアを構えて、攻撃に移ろうとした。

 キースが天使達の攻撃に備えて、マゼンダとシアンの前に立っていた。僕はキースに言われた通りに、天使の一体を闇の刀で切り裂いた。天使はあっけなく消滅した。

 僕が天使一体を仕留めている間に、他の天使達が魔法の詠唱を開始していた。マゼンダとシアンも魔法の詠唱を開始した。

 そして、天使達の魔法が先に発動した。それは『ライトニングジャベリン』という魔法だった。その魔法はキースを迂回してシアンに直撃した。

「うぁっ」

 シアンは小さな悲鳴をあげ、その場に崩れ落ちた。それに追い打ちの魔法が突き刺さる。シアンはそのまま動かなくなった。

「シアン?」

 キースがシアンに声をかけるがシアンは反応しなかった。

 そして、三人目の天使がマゼンダに魔法を撃ち込んだ。マゼンダは悲鳴を上げる間もなくその場に崩れ落ちた。

「マゼンダ!くそっ!なんて強さだ」

 キースが絶望的な口調で叫んだ。

 僕は何が起こったのか理解できなかった。あの程度の魔法を受けただけで人間が動かなくなる。それが、信じられなかった。少なくとも闘技場で戦っていた者達は、あの程度の魔法で死んだりはしなかった。

 僕は気を取り直して、二体目の天使を屠った。残り二体の天使はキースに向けて魔法の詠唱を開始していた。

 キースも気を取り直して果敢に剣で天使を切り裂いたが、攻撃が浅く天使を倒すには至っていなかった。そして、二体の天使の魔法がキースを直撃した。キースは生き残っているが満身創痍だった。

 僕は三体目の天使を屠った。そして、キースと対峙していた天使が一旦大きく空に舞い上がり、空中から急降下してキースを攻撃した。

 その攻撃はキースの鎧を貫通出来なかった。キースは満身創痍ながら天使に反撃を行うが、それでも天使を倒せなかった。

「くそ!これじゃあ、俺は俺達は何のために……」

 キースは悔しそうにそう言った。僕は、最後の天使を屠った。すると塔内に声が響き渡った。

「生存者、キース、アラン、両名に2階への挑戦資格を授与します。また、戦利品として以下のものを授けます。アイアンレイピア4本、魔法レベル1ラインとニングジャベリン4個、スキルレベル1光耐性4個」

 その声の後で、何もない空間にアイアンレイピアと魔法とスキルが込められたクリスタルが出現した。キースが光に包まれて怪我が回復した。

「すまない。なんの役にも立てなかった」

 キースは申し訳なさそうにそう言った。

「いや、僕にも予想外の出来事だった。でも、大丈夫だ。次は全員生きて勝てると思う」

 僕には勝算があった。

「え?良いのか?まだ付き合ってくれるのか?」

「どういう意味だ?」

「いや、俺達とアランの間には埋められない実力差がある。それに、塔を登る冒険者は普通、1階ごとに解散する。戦闘終了まで生き残れない者は置いて行かれるのが当たり前だ」

「そうか、普通はそうなのか、でもそれはたぶん師匠が僕に望んでいるやり方じゃないと思う。効率を重視するのなら最初から闘技場のメンバーとパーティーを組ませたはずだからさ」

「良いのか?アラン」

 キースは感激したような顔をしていた。

「もちろんさ。それに100階に到達するまでは11ヶ月も猶予がある。ここで焦る理由が無い」

「ありがとう。アラン。恩にきる」

「良いよ。ところでシアンとマゼンダは生き返るんだよな?」

「ああ、塔から出れば生き返ると聞いている」

「じゃあ、出よう」

「ああ」

 僕とキースは戦利品を回収して天使が居た場所の奥にあった石板にキースがギルドカードをかざすと『次の階に行く』と『外に出る』という表示が出た。キースが『外に出る』を選ぶと、視界が変わった。そこは、塔の出口だった。そこにはマゼンダとシアンが生きて同じ場所に立っていた。

「あ、あれ?」

 シアンが不思議そうにあたりを見回していた。

「戦いは、どうなった?」

 マゼンダはキースに問いかけた。

「勝つには勝ったが、君とシアンはもう一度一階からだ」

「ああ、やっぱり死んでいたのか……。アランすまなかった君は次へ進んでくれ」

「いや、付き合うよ。もう一度、いや何度でも」

 僕がそう言うとマゼンダが驚いていた。

「良いのか?君にメリットが無いだろう?」

「無い訳じゃない。たぶん、これが師匠の試練だと思うから」

「試練って、そんな理由で?」

「師匠は常日頃から知恵を使えと言っていた。ゾディアックの勇士と組めば塔を簡単に攻略出来ると思う。でも、それだと頭を使わずに塔を攻略する事になる。たぶん、塔に書かれている各階の情報は無意味なものじゃない。攻略のヒントなんだと思う。それを元に対策を立て頭を使って攻略しろって事だと思う」

「ふむ、なるほど。1階は『光刺す天使達に勝て』だったか?」

「そう、そこから光耐性が必要な事と刺突耐性が必要な事、さらに相手が複数であると読み取れる。それをふまえて、対策を考えて挑まなければならなかった。取り得る手段は色々あるが、最適な方法で挑もう」

「だが、対策しようにも元手が……」

 マゼンダが険しい表情を見せた。それに対してキースが答える。

「元手ならある。ただ、戦利品の分配方法をちゃんと決めてなかった。全員生き残ってクリアする事しか考えてなかったから、全員で平等に分けるつもりでいた。だが、結果は俺とアランしか生き残らなかった。しかも、アランは一人でもクリアできる実力者だった。とても、戦利品を分けてくれとは言えない程の差があった」

「いや、四人で等分して良いよ。僕に異論はない。もとよりそのつもりだったし、実力差があるからと言って全部よこせとは言わないよ。それに、全員で勝つためにも報酬は山分けの方が都合が良い」

 僕が言うと3人は感激していた。でも、三人はとても申し訳なさそうな顔をしていた。そして、キースが真剣な面持ちで僕に言ってきた。

「すまないアラン。俺達は神を殺す為に塔に登っていないんだ。ただ、仕官に有利だから登ろうとしている。だから、アランと頂上までは行けない。だから、先に行ってくれ」

 僕にとって意外な答えが返ってきた。だが、それはどうでもいい事だった。

「なるほど、そんな事を気にしてたのか、それで問題ないよ。君達が仕官出来るまででいい。それまでは一緒に行かないか?」

「良いのか?君にメリットがあると全く思えないんだが?」

「言っただろう、師匠の試練だって、途中で別れるのもきっと試練だよ」

 僕の言葉に三人は目を潤ませて言った。

『アランたん。マジ天使』

「え?」

「あ、すまない。つい身内のノリで、馴れ馴れしかったか?」

 キースが赤面して頭を掻きつつ謝罪した。

「いや、良いよ。言われた事が無かったから驚いただけだよ。これからもよろしく」

 そう言って手を差し出すと三人は僕の手を一斉に取った。

『こちらこそ、よろしく!』

 三人とも感激しきった目で僕を見ていた。懐かしいなと思う反面、いつこんな目を向けられていたのか思い出せなかった。そればかりか、僕は自分の過去を思い出せない事に気が付いてしまった。

 友達、小さい頃に遊んでいた友達、彼らの顔が思い出せなかった。だが、この時は気に留めなかった。今が大事だったから、気にしないようにした。


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