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狂った女神が歌う世界で、僕は魔女に恋をした。  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
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剣闘士

「逃げろ!アラン」

 突然部屋に押し入って来た騎士たちを見て、父さんがそう言った。僕は恐怖で動けなかった。

「何故、王国の騎士がこんな事を……」

 父さんが家族を守るように騎士たちの間に立ちふさがった。

「裏切り者には死を……」

 そう言って騎士は、剣を抜き放って父さんを切り捨てた。

「いや~~~あなた~~~」

 母さんが父さんに駆け寄った。その母さんを騎士は切り捨てた。

「アラン!逃げるんじゃ!」

 お爺ちゃんが騎士を取り押さえようと飛び掛かっていった。

「アラン。こっちだよ」

 お祖母ちゃんが僕の手を取って窓から逃げようとした。お爺ちゃんは騎士に切り殺され、お祖母ちゃんは騎士の投げた短剣で死んだ。

 僕は、一歩も動けなかった。

「お前はこっちだ」

 僕は騎士に連れられて、馬車に押し込まれた。そこには子供達が居た。みな、一様に恐怖に囚われて呆然とするか泣きわめいていた。

 こうして、僕は十二歳の時に奴隷となった。僕を奴隷にしたのはロール王国の騎士だったが、戦争の原因はクリシェラル帝国にあった。ロール王国の圧政から国民を解放するという大義名分を元にロール王国を侵略し、都市を占領したまでは良かった。

 父さんも母さんも圧政が終わると喜んでいた。だが、クリシェラル帝国はロール王国の反撃にあい、一度占領した都市を放棄して後退した。結果、ロール王国に再占領された都市で虐殺が行われた。


 奴隷商人の元で買い手がつくのを待っていた時、クリシェラル帝国の姫ミリアに出会った。僕は檻の中に、彼女は檻の外に居た。

「あなたを私の従者にしてあげる」

 黒目黒髪の少女は、死んだ魚の様な目で僕にそう言った。

「ありがとう。僕はアラン。君は?」

 この時は、自分の主人となるのだからと愛想よくした。

「ミリア・クリシェラル」

 クリシェラルという苗字を聞いて、僕は不機嫌になった。

「僕は君の国が侵略したせいで奴隷になった。これは、罪滅ぼしのつもりか?」

「そうよ。あなたを奴隷にしたのはロール王国の騎士だけど、原因を作ったのは私のお父様だから、奴隷になった人たちを助けるの」

「あんた達の施しは受けない」

「そう、分かった」

 そう言って、ミリアは従者の騎士に何事か話して、店を出て行った。そして、僕は闘技場に運ばれた。


 闘技場に着くと、石造りの殺風景な部屋に案内された。そこには黒装束の男性が居た。

「よく来たな若いの」

 しわがれた声で男性は話した。声から察するに老人のようだが、腰は曲がっていなかった。

「僕はアラン。あなたは?」

「感心感心。ちゃんと自分から名乗れるとはな、ちゃんとした親に育てられたんじゃな。ワシはエルダーだ」

「僕は何をする為に、ここに呼ばれたの?」

「お主、皇女を振ったそうだな、その歳で女を泣かせるとは罪深い男じゃ」

「振った?」

「従者になる事を断ったじゃろ?」

「うん」

「本来なら、不敬罪で死刑なのじゃが、皇女の願いでこの場所に送られたのじゃ」

「どうして?」

「皇女はお主をどうしても救いたかったんじゃな。死刑になるはずだったお主を何とか助けようとした。だから、皇女の願いを叶えつつ、刑を執行するために、剣闘士にするという事にしたらしい」

「僕は平民に戻れるの?」

「剣闘士として戦い、勝ち続ければ自由になれる」

「じゃあ、無理だね。僕は戦い方を知らない」

「諦めが早いのは感心せんな、戦い方は教えるとも。そして、お主が実際に戦うのは十五になってからじゃ。みっちり鍛えてやるから安心せい」

「その条件なら、自由になれそうですね」

「そうじゃろう。自由になったらお主は何をする?」

「分かりません。ただ、出来る事なら幸せな家庭が欲しい」

「復讐はせんのか?」

「復讐なんて無意味です。それをしたところで死んだ人は生き返らないし、僕が幸せになれるわけじゃない」

「ずいぶん。達観しておるの」

「考える時間は十分すぎるほどあったので……」

「子供らしくないと言われなかったか?」

「言われた事ないよ」

「そうか、喪失がお主を強くした様じゃな」

 そう言ってエルダーは悲しそうに笑った。それから、僕はエルダーに忍術を習った。訓練は過酷だったが、エルダーは無理なトレーニングを課さなかった。常に頑張れば乗り越えられる範囲で課題を出していた。


 十五際になった時、僕は闘技場でデビューした。闘技場ではどちらかが死ぬまで戦うのがルールだった。降参は認められない。敗者は死ぬしかないが、雇い主に気に入られれば蘇生の魔法で生き返らせてもらえるのだ。ただし、蘇生の魔法は高価な対価が要求される。よっぽど強くない限り、蘇生を受ける事は出来なかった。

 だから、剣闘士は必死に戦う。負けるにしても次は勝つと雇い主に思わせなければならない。ちなみに蘇生の魔法で両親と祖父母を生き返らせる事は出来ない。理由は、蘇生の条件があるからだ。死んでから四十九日以内に蘇生しなければ魂が輪廻転生してしまい呼び戻せなくなってしまうからだ。

 僕の対戦相手は、勇者クレス。鉄の鎧で身を包んだ筋骨隆々十八歳の剣闘士だった。彼は、剣も魔法も使える勇者だった。雑に切りそろえられた短髪と赤い髪、赤い目の好青年だった。

「エルダー殿の秘蔵っ子が相手とは光栄だな」

「僕の初戦の相手が、君で嬉しいよ。さあ、存分に競おう」


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