第2話 最初の殺人
なんで……なんで追いかけてくるんだ?!なんなんだこいつは?!
「ふふっ、あははははっ!待ってぇ逃げないでよぉ!!大人しく刺されてよぉ、痛いのは一瞬だからぁ!!」
「ふざけんじゃねぇ!!なんなんだよお前?!変な面なんか付けやがって!!」
面を付けたそいつから逃げながら、奏はなぜ追いかけられているのかを必死に考えたが、特に思い当たることも無く、本人に聞いた所で答えが返ってくるとも思えなかった。ところが、面の人はこう返してきた。
「手紙は最後まで読まないと駄目だよぉ?書いてあったじゃないかぁ。手紙を破棄したら責任はとらないよってねぇ?」
まるで嘲笑うかのように返ってきたその答えに、奏は一瞬呆気にとられたが直ぐに思考を戻し、2週間前に届いた手紙を思い出して「そんなものに興味はない。」と言おうとした。〝それ〟が飛んでくるまでは、それが飛んできたことによって数m先にいる奴が本気で自分を殺そうとしていることに気づいた奏は、言いようのない恐怖を感じていた。
そうして、奴がそれをもう一本取り出し自分に向けて振りかぶった時、自分自身が生きるために奏はそれをすんでのところで避け、自分の横に刺さっていた最初のそれを奴へと突き刺したのだ。奏の白いワイシャツは赤く染まり、手に伝う柔い感触に普通ならば恐怖や吐き気を感じるものだろうが、奏は違かった。彼はむしろそんなことにかまうことより、これからどうするかで頭がいっぱいだったのだ。
こうして奏は、このゲームに強制的に参加することになった。やるからには勝利しなくてはならない、そうでなくては今まで積み上げてきたものが壊れてしまう……そのためには、これを片付けなくては……と考えて奏は前後左右を注意して確認してから誰もいないことを確信して、数m後ろの崖から遺体を捨てようとした。
そこから自殺したと思わせるために靴を脱がせ、崖の前に起きそいつの手にナイフを握らせてから、後ろから押して落下させた。少ししてからグシャッとなにかが潰れたような音を聞いて、きちんと落下したことを確認すると誰にも見られぬように裏路地を進みながら家へと走った。
家に着いたら風呂に入って血を洗い流し、このシャツは漂白剤で何とかならなければごみ袋に入れて捨てよう……なんて考えて、家に着き中へ入ろうとして再び郵便受けに手紙が入っていることに気づいた。前回と同じ赤い封筒、1つ違うとすれば今回は表に何も書かれていないということだろう。
一体今度はなんだ?と思いながら、それを持って家に入り直ぐに開けてみることにした。そこには……
「おめでとうございます。
見事始まって1ヶ月以内に殺人を行えましたね!
続いて、3日間それを隠蔽してください。3日間隠し通せたなら、その殺人に関するすべての責任を運営が負い、殺人自体なかったことにさせていただきます。
もし……」
そこまで読んだところで、また最後まで読まずに手紙を閉じた奏はすぐに思考を開始した。
「殺人がなかったことに……」
それは、奏にとってはとても魅力的なことだった。人を殺してもなかったことになるなら自分のキャリアが傷つくことは無い、何より不必要な物を消すことができる。
この時点で奏はゲームを辞めることはしないと決断し、必ず勝利することを目標とした。ゲームから逃れる方法も人を殺す罪悪感も無視をして、これはただのゲームだとそう考えて……
手紙の続きのことは、もう既に頭の中にはなかった。彼の頭の中には、3日間どう生活すれば怪しまれないかということしかなかった。誰も見ているはずが無い、自分の隠蔽は完璧だとそう思い込んでいたから……