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9/13

え……嘘でしょ…!?いいえ、事実です……

翌日学校に行くと、速水さんは普段通りの地味音仕様に戻っていた。

昨日の人だかりがまるで幻が如く、彼女の周りには誰も群がっておらず、纏う雰囲気もいつものどんよりとした感じに戻っていた。


昨日みたいな事になれば、それも仕方ないかと思いつつ彼女の席に近づく。

とは言っても、他意はなく自分の席に向かう途中に彼女の席があるだけなのだが。

すると、彼女から先に声をかけてきた。


「藍原君、お、おはよ……」


「ああ…おはよ…」


朝からテンションの低い挨拶をされて、思わずこちらも声が低くなってしまった。

徹夜した事とは多分関係ないと思うのだが、そうなると昨日付き合い始めたばかりなのに何もせずして倦怠期に突入してしまったという事になる。

俺は気まずさに耐えられず、挨拶だけするとそそくさと自分の席に座る。


こういう時は、やっぱり男の俺がリードしていかないといけないのだろうか?

しかしながら不必要に話しかけて、周りに冷やかされる事態になれば、彼女に迷惑をかけてしまう。


暫く考えていたが考えがまとまらず、速水さんの方をチラ見すると、彼女が文庫本を読んでいる姿が飛び込んできた。


普段通りの彼女の姿を見て、一生懸命考えている自分が馬鹿らしくなったのと睡眠不足だった事もあり、そのまま机に伏せてホームルームまで仮眠を取ることにした。

そのせいで彼女が時折こちらを盗み見している事に気づく事はなかった。


ホームルームが開始されるチャイムが鳴ったので、寝起きの重い体を起こす。

教室は明日からの修学旅行についての話題一色だが、あいにく俺はその話題で盛り上がる程のテンションは持ち合わせていない。


なぜなら、昨日の妹との壮絶なバトルを思い出してしまい、絶賛憂鬱な気持ち展開中だからだ。

紙一重の攻防を繰り広げたが、結果としてあと一歩及ばなかった……。

その代償はあまりにも大きい……妹が遊びに来る前に地球が滅べばいいのにと思う程度のものだった。


そして、あのクソゲの事も思い出すと、憂鬱な気持ちに加えて怒りも込み上げてきた。

ヒロイン以上に出番のあるサブヒロインってなんだよ。将来的に追加ヒロインとして昇格させ再販売して荒稼ぎしようとする悪意が透けて見える。

コンシューマーで発売する時に鈴音ルートを加えるファンサービスぐらいしておけよ……といったやり場のない怒りに発散出来ずにいた。


別に、鈴音が推しキャラになったわけではないので、その点だけは誤解しないでほしい。

ほんの少し……ほんの少しだけいいなと思っているだけに過ぎないのだから。


明日から修学旅行という事もあり、今日は午前中で授業が終わった。

そこで気づいたことがある。確か旅行のしおりを少し前にもらっていた様な気もするものの、目を通した記憶はない……あれ?修学旅行ってどこに行くんだろう……。


終礼と同時に、速水さんに詰め寄り修学旅行の行き先を尋ねる。


「藍原君どうしたの?」


「いや、それがさ?修学旅行の行き先ってどこか分かる?」


「えっ……!?」


なぜか彼女の気怠げな目が一気に見開かれた。

その事に疑問を覚えるが、とりあえず用件を早く聞き出したかったので先を促す事にした。


「ん?俺変な事言った?で、どこ行くんだっけ?」


「ちゅう………」


「ちゅう!?」


なんかいきなり『ちゅう』とか言われたけど、流石にキスはまだ早いだろう。

意外に積極的な彼女に恐れをなし、一歩後ずさる。


「中国だよ!!ねぇ、パスポートは持ってるんだよね!?」


勢いよく捲し立てられた。かなり食い気味に距離を詰めてきたので、二歩ほど後ずさる。


はて……パスポートとな……。生まれてこの方、国外に行った記憶はない。

パスポートって、そもそも国民全員持ってる物なのだろうか?見た事ない気もするが親に聞いたら分かるだろうか……。


「ちょっと待ってくれ。今から親に聞いてみる」


そう言って母親に電話をかけて尋ねる。

世の中そんなに都合よく出来ていないらしく、俺はパスポートを持っていない事が判明した。


親とのやり取りの結果を早く聞きたくて、そわそわしている速水さん。

期待と不安が入り混じった様子の彼女に、この事実を伝える事が申し訳なく思えてしまう。

だけど、先延ばししても結果が変わるわけではないのでありのままの事実を告げた。


「え!?パスポート作ってないの?修学旅行行けないじゃん……」


その言葉を聞いた瞬間、この世の終わりを迎えたかの如く彼女の瞳から光が消え失せた。


「そ、そうだな。えっとなんだ…速水さんはどこかのグループに入れてもらって俺の分まで旅行を楽しんできてくれ」


なぜか彼女が俺を睨んできた。あれ?俺…睨まれる様な事言ったか?


「信じられない……もういいよ……」


そう言ってとぼとぼ俺から離れていく彼女。その後ろ姿には哀愁が漂っていた。

罪悪感に苛まれた俺は彼女を呼び止める。


「速水さん!!」


無言で振り返る彼女。


「あのさ、修学旅行には行けないけど、もし寂しくなってきたら連絡してくれ」


そう言って俺は強引に連絡先を交換した。彼女は何も言わず教室を出て行った。

これで良かったのか分からないが、最善は尽くしたと思う。

そう自分に言い聞かせ、俺も教室を後にした。

気分転換に帰ったらあのクソゲの残りをやる事にしよう。

実は他のヒロインで気になる子もいたのだ。

真白ちゃん…君はこの傷だらけの俺をきっと癒してくれるだろう。


この連絡先交換が、明日自分の首を絞める事になるのだが、この時の俺は知る由もなく浮かれて家に帰るのだった……。

【誤字脱字報告・ブクマ・評価・感想】ありがとうございます。

皆様のおかげで、日間ランキング・週間ランキングにランクインする事が出来ました。

すぐ消えてしまうとは思いますが、とても貴重な体験をさせていただき感謝感謝です!これからも宜しくお願い致します(*´ω`*)

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