駆け引きは相手を見て挑んだ方がいいらしい……
「だから悪かったって謝ってるだろ。ほんと悪かったって」
「ほんと信じられない。お兄ちゃん私と約束したじゃん。もう絶対にグレてやる」
「優里、早まるな。俺が悪かったのは認めるからさ。えっと、ほら、あれだ。お土産買ってきてやるからな!それで勘弁してくれ」
「そんなもんじゃ納得出来ないよ。もっと誠意を見せてくれないと!!」
そう言って画面の向こうの優里は頬を膨らませている。
あまりに怒らせてしまった様で、普段はやらないテレビ電話で絶賛叱られているこの姿は、兄としての威厳など微塵も感じられない。
俺なんでこんなに妹に弱いんだろう……と思わず愚痴を言いたくなってしまうのをぐっと堪える。
「分かった、そうしたらお前のお願い一つだけ聞いてあげるからさ」
「一つなんて嫌よ。十回ぐらい聞いてもらわないと割りに合わないわ」
なんと強欲な妹だ。流石に十回は了承しかねる。
「三回で……」
「七回!!」
「四回はどうだ?」
「七回!!これ以上は譲らないよ」
手強ないな。考え方によっては三回減ったと言えなくもないが、優里のお願いは心臓に悪いものばかりだからな。あともう少しだけ減らしておきたい。
「そうか、優里は俺を困らせるのが趣味なのか……」
俺は心底辛そうな顔でそう問いかける。
「いや、そんな顔しても無理なものは無理」
バッサリ切り捨てられてしまった。
「分かった…でもせめて六回で頼む!!」
「お兄ちゃん…往生際の悪すぎ。私譲らないって言ったよね。それでもあえて交渉するその態度にイラッとしたので八回ね。まだ食い下がるなら増やすけどどうする?」
「分かった……お前の条件を飲む……」
交渉したのが裏目に出てしまったか…。まぁ、でも妹がグレなくて済んだと思えば、必要な犠牲だと納得するしかないか。
「次の土日は諦めるから、その次は予定しっかり空けててよ?次約束破ったらその時はパパとママにある事ない事言いつけてやる」
そう言って満面の笑みを浮かべる妹を見て、下手に逆らうのはやめようと再認識したのだった。
まぁ、これで修学旅行には行ける様になった。俺は初めて出来た彼女(←勘違い)とのこれからについて勉強する為、先日買ったゲームを起動させる。
最初に攻略するのは、もちろん黒髪の幼馴染キャラの鈴音だ!名前もそうだが…どことなく速水さんに似ている気がする。
俺はやる気を出し、快調に読み進めていく。
しかしそんな俺の努力も虚しく、この後徹夜でプレイするも、一向に幼馴染ルートに突入しない。疑問を持った俺はネットで調べて絶望した。
このゲーム…幼馴染ルートがないだと…!?ば、爆発しろ!!という掛け声とともに電源切る事となったのだった。