結果として、上げて落とす
なぜこうなってしまったのだろう。軽はずみに答えてしまったせいで今俺は今年一追い込まれている。
そのせいか授業もまったく頭に入ってこない。
いや、授業はいつも聞く気がないから通常運転か。
とりあえず彼女を放課後呼び出して、『ごめん、やっぱり修学旅行には行かない』と言うのが無難だろう。
オッケーした時の彼女の嬉しそうな顔が思い出され少しだけ罪悪感に苛まれる。
昼休みになり、即座に行動に移す。こういうのはグダグダ悩んでても仕方ない。
「速水さん、話があるんだけど放課後少しだけ時間もらえる?」
「藍原君どうかしたの?話なら別に今でもいいよ?」
「いや、大事な話だからここだとちょっと……」
「そうなんだ、分かった。放課後どこに行けばいいの?」
「北校舎の裏にいいかな?」
「分かったわ、ホームルームが終わったらそこに行くわね」
「それじゃまた後で」
そう言って俺は自分の席に戻る。はぁ、放課後まですげえ憂鬱だな。
英気を養う為にも、午後の授業は寝て過ごした。
「藍原君、それで話って何?」
「実はさ、俺本当は修学旅行欠席しようと思ってて。今朝はついオッケーしてしまったけど、ごめん。俺から言い出した事だけど、グループの件はなかった事にしてくれ」
そう言って俺は頭を下げる。
「……られない」
「ん?」
彼女が何かを言ったのだが、聞き漏らしてしまった。
「信じられない。何で行かないの?理由ぐらい教えてよ」
すごい剣幕で詰め寄ってくる。
普段の彼女からは想像出来ないほど興奮しているのだが、この子も人並みに感情を露わにする事もあるのだなと感心してしまった。
「えっと……俺さ?実は妹がいるんだけどさ?週末に遊びに来るって言ってんだわ。断ったけど言う事聞いてくれなくて。グレるとか言われたから流石に無視できなくて……」
「藍原君て実家から通ってるんじゃないの?」
「あ、うん。実は一人暮らしなんだわ」
「へぇ、そうなんだ……。って、それにしても妹が遊びに来るぐらいで修学旅行行かないとか普通あり得ないでしょ」
「まぁ、そうなんだけどさ?ぼっち修学旅行と思ってたから別に行かなくてもいいかなってさ。まさか速水さんからオッケーされるとは思いもしなかったし」
「うっ……」
先週一緒のグループになっててくれたら、妹にしっかり断っていたと思う。
一度は承諾した事を覆すのは申し訳ないが、やはり先に約束した方を優先すべきだろう。
「そんなわけで、本当にごめん。じゃ、俺行くから…」
そう言って帰宅の途につこうと踵を返したのだが、肩を掴まれ呼び止められる。
「ちょっと待て。いい歳して妹優先は流石にシスコン過ぎない?」
今回の件は、俺も悪いとは思うが流石にそんな事を彼女に言われる筋合いはない。
「おい、あんまり調子に乗るなよ」
つい、口調が荒くなってしまった。まずいと思ったが仕方ない。
「な、何よ……本当の事言われたからって怒ることないでしょ」
俺は盛大に溜息を吐いて、彼女に言い放つ。
「お前とは違って、妹は見た目だけは可愛いんだわ。シスコンって訳じゃないがつい甘やかしてしまうのは仕方ないだろうが」
「何よ、見た目が良ければ偉いの?ほんとくだらない」
彼女は吐き捨てる様に言った。
「ちげえよ。妹は見た目が良いからトラブルも多いんだよ。だから冗談と分かっててもグレるなんて言われたらほっとけないんだ」
俺の言葉を聞いて暫く彼女は考えていた。一体何を考えてるのだろうか。考え事するぐらいなら俺もうここに居なくてもいいよな。
肩を掴まれた手を振りほどき校門に向けて歩みを進める。今度は呼び止められる事もなかった。
「じゃあ、可愛くなったら私に構ってくれるの……」
彼が居なくなった後、速水涼音はそう呟いた……。