妹のお願いは最優先、俺は修学旅行には行かない!!
昨日は小さなトラブルもあったが、その後行った店で戦利品をゲットして来た。
PCで人気を博したゲームがコンシューマーに移植すると知り予約したのが数ヶ月前の事。
それを取りに行ったついでにラノベもしっかり物色し、今月の小遣いは全て使い切った。
その事を反省もしてなければ、後悔もしていない。
さて、今日から暫くゲーム三昧の日々を過ごしたいのが本音ではあるが、修学旅行を控えている。それまでに何としてもクリアしなければならない。
今回買ったのは昨年発売されたヒロインが可愛いと評判だったアドベンチャーゲームだ。
要はエロゲと呼ばれるカテゴリで発売された作品のエロなしバージョン。
人によっては、わさび抜きの寿司みたいだとか言うらしいが俺はそうは思わない。
美少女はプラトニックを好んでこそ、一層魅力的に見えるというのが持論だ。
早速ゲームを起動させて始める事数分……。
俺の大好きな幼なじみキャラが、黒髪ストレートだと……。
昨日助けた美少女に似ている気もするが、きっと勘違いだろう。そんなにまじまじと見ていた訳ではないし……。
そのままゲームを読み進めていると、共通ルートらしい部分が終わりを迎えた。
ようやく個別ルートに入るというタイミングでスマホが鳴った。
誰だよ俺の大事な時間を侵食してくる馬鹿者は。ディスプレイには『妹らしき物体』と出ている。
はぁ、出ないと後で何を言われるか分からないから取るしかないのだが、取ったら取ったで話がきっと長くなりゲームはもう出来ないだろう。
逡巡の結果、俺は諦めて電話を取ることにした。
「お兄ちゃん、やっほ。お兄ちゃんの大好きな優里だよ!!」
「着信の番号表示にお前の名前が出てるから分かってるよ。それで用件は何だ!?俺今忙しいから手短にな」
「もう、そんな事言ってるけど本当は嬉しいくせに素直じゃないんだから。それでね?来週の土日にそっちに遊びに行こうと思ってるんだけどいいかな?まぁ、ダメって言われても行くんだけどさ!!」
「待て待て。俺は来週は修学旅行で家に居ないからな。来るなら再来週にしてくれ」
「え……やだよ。お兄ちゃん修学旅行に行かなければいいじゃん。体調悪くなったとか言ってドタキャンしたらいいでしょ?可愛い妹が折角遊びに行くって言ってるんだよ!?お兄ちゃんが構ってくれないなら私明日からグレてやる」
妹はなかなかめんどさい性格をしている。猪突猛進……何事に対しても真っ直ぐと言えば聞こえもいいが、周りを気にしない自己中とも言える。
当然俺の予定や都合とかを聞き入れる気概はない。
「分かった分かった。来週末は家にいるから遊びにおいで」
どうせぼっち修学旅行になる予定だったから俺が行かなくても特に問題はないだろう。
妹の機嫌を損ねてしまうのは正直めんどくさいし、ゲームの続きも早くやりたかったので俺は素直に従う事にした。
〜あけて翌日〜
「あ、藍原君おはよ……」
今俺の前には何やらもじもじしながら朝の挨拶をしてくる地味音がいる。
先日俺に暴言を吐いていたはずの彼女の急な態度の変化に驚きを隠し得ない。
「ああ、おはよ……」
とりあえず挨拶されたので返す事にした。
「あ、あのね。こないだの修学旅行のグループの件なんだけどさ!?」
「ああ、それはもう解決し……」
「是非私と一緒のグループになって下さい。不束者ですがどうぞ宜しくお願い致します」
こちらの返事を最後まで聞くより早く、彼女が綺麗なお辞儀と共に自分の主張をしてきた。
「あ、え、えっと…」
急いで断らないと。俺は修学旅行には行くつもりはないと……。
「おお!?地味音が地味太の誘いに乗ったぞ!!不束者とか言ってるけどプロポーズの返事かよ」
その言葉を皮切りに、クラスメイトが囃し立てる。
いけない、騒ぎが大きくなってしまった。でもここは断らないと妹に殺される。
自分から誘った手前があるが断らないとな。そう思って目の前の地味音を見れば微かにその瞳には涙を浮かべていた。
勇気を振り絞って俺のお願いに応えてくれたのだろう。
だが俺はそんな態度に情けをかける程甘くはない。
切り捨て御免!!
「ありがとう。じゃあ、俺と二人だけのグループだけど修学旅行宜しくお願いします」
すまぬ妹よ……。兄ちゃんは女の涙に少しだけ……ほんの少しだけ弱かったりするんだぜ……。