べ、べつに下心なんてないからな
学校が休みという事もあり、昼過ぎまで寝ていた俺は少し遅い昼食を取っていた。
とりあえず食事が終わったら外に出よう。新たな出会い(ラノベやゲーム)が俺を待っている。
俺の家からそういう店がある街中までは電車で15分程度。近いせいもあり毎週末は頻繁に足を運んでいた。
近所の駅に向かうと、混雑していた。土曜日だから暇人が多いのだろう。まぁ、俺もその内の一人にカウントされるのかもしれないが、あえてそこは考えない事にする。
改札に向かって定期を機械に入れようとしたところで怒号が飛び交った。
「私を誘う前に自分の顔を鏡で見てからにしてください」
「このアマ、人が下手に出ていれば調子に乗りやがって」
声の方を見れば、思わず目を奪われてしまいそうなほどの美少女が、ガラの悪そうな男達に囲まれていた。
ストレートロング、吸い込まれそうな程の綺麗な黒髪が特徴的な美少女。
ここで彼女を助ければ……もしかしたらもしかするかもしれない。
周りを見渡せば、助けるかどうするか悩んでいる男達、固唾を飲んで見守っているおばちゃん連中が居た。
普通なら、ここで助けに入るという選択肢が浮かぶ事だろう。
しかし残念ながら、俺は美少女に興味はない。というか、容姿が優れているなら自己防衛はすべきだと俺は考えている。
その努力を怠ってしまったが故のトラブルなら甘んじて受けるべきだろう。
「ちょっと離してください」
そんな事を考えてる間にどうやら状況が変わっていたらしい。
男達が実力行使に出た様だ。
「うるせえ、さっさと来やがれ」
これって、流石に犯罪じゃないのか。周りの男達さっきから見てないで早く助けてやれよ。
そんな俺の願いは虚しく、誰も動かない。
はぁ……。俺は盛大な溜息を吐きながら、駅前で今日一番になるであろうホットスポットに近づく。
詰め寄る途中で美少女と目があった。その瞳には涙が浮かび今にも零れ落ちてしまいそうだった。
そういう顔をする程怖いと思っているならこれからはしっかり自己防衛しろよと思わず文句を言ってしまいそうになるのをぐっと堪え男と彼女の間に割り込む。
「なんだてめえ。今いいところなんだから邪魔すんじゃねえよ」
女を泣かせる事がいい事なのか。俺にはそんな趣味がないからよく分からないが、そういう人種もいるのか。これは一つ勉強になった。
「彼女嫌がってるだろ。いい加減諦めろよ」
「なんだ?てめえは関係ないだろうが。あんまり調子に乗ってると痛い目に合わせるぞ。今なら許してやるからさっさと行けよ」
と言われても、ここで『はいそうですか』と言うぐらいなら最初から出て来てない訳だし、何より俺の上着を彼女がしっかり掴んでいる。
「関係あるんだよ、彼女は俺の友達だ。友達が困ってるんだから流石に助けるだろうが」
無論こんな美少女の友達は居ない。それどころか、すぐ会える距離に俺の友達は居ない。
「友達ね、てめえこの状況理解してるのか?一人で俺達を相手に出来ると思ってんのか?」
よく吠える奴だな。さっさと殴って来てくれたら正当防衛で反撃できるのに。
「ああ、お前らぐらいなら俺一人でもなんとかなるんじゃないか」
その言葉を言った瞬間、頬に痛みが走った。
とは言っても、スリッピング・アウェーで受け流してダメージは減らしている。
あえて殴られて正当防衛を周りにアピールしないといけない。
「痛ええええええ。殴られたああああ」
「一発殴られたぐらいで騒いでるんじゃねえよ」
そう言って殴りかかってくる男。正当防衛なら一発で十分なんだよ。
俺は相手の拳が届く前に相手のみぞおちに拳を打ち込んだ。
かなり手加減したつもりだが、男は蹲っている。
「健ちゃんが一発ってヤバくね?」
「ああ、俺達だと無理かもな」
男達は何やら相談していたかと思うと、蹲る男を連れて脱兎の如く去って行ってしまった。
「り、りん!?」
そう言って美少女に近づく、一人の男。20代中頃?ぐらいだろうか。
大人の雰囲気を醸し出すイケメンだった。
なんだ、彼氏がいたのか。出会いを求めていた訳ではないので、気落ちする事はないが男には一言言ってやろう。
「彼女、ガラの悪い連中にナンパされてたぞ。男なら彼女が来る前に待ち合わせ場所にいるぐらいの気概は見せろよな」
周りからはせっかく助けたのに可哀想に…といったニュアンスの視線を向けられていたが、俺はその視線に気づかないフリをして足早に去って行った。