二重の作戦をくらえ!
地味音にグループ勧誘が失敗した翌日、俺は一晩かけて考えた作戦を早速行動に移す。
「おはよ、地味…じゃなくて涼音さん」
危うく地味音と言ってしまいそうになるが、うまく修正した。
彼女は読んでいた文庫本から俺に視線を移す。
そのまま挨拶を返してくれるのかと思えば、その視線はゴミでも見るかの様で、不機嫌さを隠す事もしない。
「気持ち悪いから馴れ馴れしく名前を呼ばないで」
な、なんだと……。親しみを出すために考えた俺のスーパーミッション【さりげなく名前を呼んで距離を近づける】
が全く効果ないだと……。
むしろ、昨日よりさらに距離が遠ざかった様に感じるのは、気のせいだろうか。
「ああ、ごめん。いきなり名前呼びはびっくりさせてしまったか。では改めて速水さん、おはよう」
「はぁ……」
挨拶の返しが溜息?ちょっと意味がわからないんだけど、これが彼女なりのコミュニケーションなのだろうか?
「物分かりが悪いみたいなので言い直すわね。気持ち悪いから私に近づかないで」
ガ…ガ…ガ…ガーン…
まさかここまで嫌悪感を示されるとは。これはまずい。今日は金曜日だから、明日と明後日は彼女に会う事は出来ない。
俺の予定では本日中に日常会話が成立するまでの関係になる予定だった。
ここでの遅れは取り返しのつかない事態(ぼっち修学旅行)への一歩となってしまう。
切り替えろ優太。お前の持つとっておきの武器を使うのは今しかない!!と自分に言い聞かせる。
「速水さん、いつも一人で読書してるから友達いないよね。俺も友達少ないからさ。俺が友達になってあげるよ」
さりげなく同調していると見せかけて俺はお前より上だと相手に思わせつつ、手を差し伸べる。
対人関係のエキスパートと呼ばれた俺が本気を出せば、靡かない者なんているわけない。
「本気で気持ち悪いから、お願いだから話しかけないで」
そう言って彼女は読んでいた文庫本を視線を戻した。
この女の辞書には、コミュニケーションという言葉は存在しないのだろう。
ここは一旦、戦略的撤退が必要だと判断した俺は自分の席に戻る。
教室内では、昨日と同じく失笑の嵐が起きていた。
一度ならず二度までも俺に恥をかかせやがって……。
だが、まだ俺の作戦はまだ終わってない。こんな事もあろうかと二重のトラップを仕掛けていたのだ。
俺は放課後になるのを今か今かと待ち侘びて、その日の授業は全く頭に入ってこなかった。
〜迎えた放課後〜
俺は屋上に佇んでいる。朝のうちに、匿名で地味音の靴箱に手紙を入れていたのだ。
内容は『突然のお手紙すいません。俺ずっと前から速水さんの事が……。この気持ちを直接言いたいので放課後屋上に来てください』というもの。
友達もいない地味音がこんな手紙をもらったらきっと勘違いしてホームルームが終わり次第急いで駆けつけてくるだろう。
待たせるのは悪いと思った俺は、ホームルームが終わるや急いで屋上まで来た。
あとは、『友達になって欲しい』と伝える事が出来れば全てがうまくいくだろう。
名付けてスーパーミッション【告白と思ってびっくりした?】これで落ちない女はいない。
俺は成功を実感しているせいで、思わず声を出して笑ってしまった。
「地味音、また地味太に言い寄られたらしいよ」
校門へ向かう他のクラスの女子の会話が俺の耳に飛び込んできた。
「え?そうなの?で、地味音なんて答えたの?」
「目の前に本人いるから聞いてみたら?」
ん?目の前?二人の視線の先を見れば、ちょうどあの女が校門をくぐっていた。
俺の呼び出しを無視して帰るだと……!?いや、違うな。俺とは名乗らず匿名だったから無視したのか!?
どうやら予想以上に身持ちの堅い女だったか……。
明日から二日間は会えない。これは作戦を変更しなくてはならない様だ。
見ていろ、地味音。週明け、俺は絶対にお前とのグループを作ってやる!!