料理は出来ませんが、食べるのは得意です
隣り合って暫く話していると、急に速水さんが僕の手を観察しはじめた。
時折ひっくり返したりしているから、手相を見ているという感じではなさそうだ。
一体何をしているのだろう……。そして気になるゴム手袋。
はっ!?まさか、俺の手を直接触るのが嫌だったのか!?
重度の潔癖症なのか?もしそうなら、これから先ずっとゴム越しでしか彼女と触れ合えない事になる。
綺麗な髪も……この暖かな手も……そして今後触れ合うであろうアレも……。
そんなの耐えきれない、俺は彼女がゴム手袋をしている理由を知らなくてはならない。
「速水さん!!何故ゴム手袋をしてるんだ!?」
「え?こ、これは……その…お父…じゃなくてその…」
これもお父さんの入れ知恵かよ。理由は聞きたいが、踏み込んでいいものか悩んでしまう。
ここは少し変化球気味に確認してみよう。
「何か事情があるんだね。ちなみに速水さんって潔癖症?」
「どうかな…?でも、多分その気はあると思うよ。基本的に3秒ルールだもん」
「3秒ルール?」
「ほらあれだよ。食べ物落として3秒以内なら食べても大丈夫ってやつ。人によっては5秒とか10秒とか15秒とか言うけど私はどう頑張っても3秒しか無理かな…」
「そうなんだ……それは確かに潔癖症の気があるかもしれないな」
とりあえず形式的に同意しておいたが、絶対潔癖症ではないと確信した。
「そうしたらこの家にいる間はゴム手袋つけっぱなしなの?」
「ううん、もう必要ないから外すね」
そう言ってすんなりゴム手袋を外してしまった。結局、ゴム手袋の存在理由は何だったんだろうな。疑問だけが残る形でこの件については幕を閉じた。
「ところで話は変わるけど、もう少ししたらお昼なんだけど、どうする?」
正直生活費はギリギリなので、外食に行きたいと言われたら厳しいのだが、この機会に甲斐性のある所を見せておきたいという気持ちもある。
「ご、ごめんなさい。私、料理全く出来ないの……」
「あ、そうなんだ。まぁ、別に料理出来なくても生きていけるから気にしなくていいんじゃないか?」
「でも、女の子だし……」
「速水さん母子家庭って言ってたよね?普段のご飯はどうしてるの?」
「お母さんが早起きして朝ご飯とお昼のお弁当を作ってくれるの」
仕事してて、娘のお弁当まで作ってあげるとか凄いな。
「夜は、お母さん仕事終わるの早いから帰ってきてから作ってくれてるの」
「なるほど、立派なお母さんだね。料理する必要ないなら出来なくても仕方ないさ」
一応フォローしたつもりだったのだが、肩を落として俯いてしまったのでもう一声かけておく。
「じゃ、食べるのは得意か?」
「もう、食べるのが得意って何よ……そんなの誰でも得意に決まってるじゃない!!」
そう言って笑ってくれたのを見て、今度はフォロー出来た事を実感した。
「それならお昼は、俺が作るよ。何か食べたいものある?」
「ううん、特には。好き嫌いないから藍原君に任せます」
リクエストも出なかったし、とりあえず簡単に作れるオムライスにでもしておくか。
「何これ…美味しい…。卵はふわとろで、中のチキンライスもグリンピース入ってないし私好みの味だ」
そう言って勢いよく食べ進めていく。こんな風に美味しそうに食べてもらえるなら作った甲斐があるというものだ。
「夜はもう少し手をかけて作るつもりだけど期待はしないでくれよ」
「作るの大変だろうから、ほんと無理しないでね」
そう言っている割には、何が出てくるのか楽しみにしているって顔に書いてある。
くそっ、可愛いじゃないか。彼女の手料理を食べてみたいとは思っていたが、これはこれで悪くない。
もしかして俺って尽くすタイプだったのか?これは意外な発見だった。
少し早めの昼食も終わり、やる事も特になかったので学校での話やお互いの昔話をする事にした。
話してて分かったことは、本来の彼女はとてもよく喋る子だった。
中学時代にモテてしまったせいで、女子からイジメを受けた事が地味音誕生のきっかけだったらしい。女の嫉妬は怖いもんな。
暫く話していると彼女がウトウトし始めてしまった。
男の家に上がり込んでしまったから、ずっと気を張っていたのだろう。
流石に布団で寝かせるというのは、マズイと思ったが試しに提案してみる。
案の定、断られてどうしたものかと思えばこちらに倒れ込んできた。断ったものの、どうやら限界だったらしい。
そっと受け止めて速水さんの頭を俺の膝に乗せる。
あどけない寝顔で寝息を立てている彼女の髪をそっと撫でる。
くすぐったかったのか小さく身動ぎした。
たまに奇行に走る事があるけど、こんな可愛い子が俺の彼女になったんだなと再認識しつつ、無防備に寝顔を晒す彼女を起きるまでずっと眺めていた。
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