どうやら彼女は、積極的な様です
「…………」
「…………」
「…………」
「あのさ…!?」
「あのね…!?」
「…………」
「…………」
沈黙に耐えきれずに話しかけたらかぶった上に、また二人とも黙り込んでしまう……。
俺たちは何でこんな三文芝居みたいな事を先程から繰り返しているのだろうか。
ここは男として俺がリードしないといけない。よし今度こそ!!
「あの…………」
「あの…………」
あ……またかぶった。もう好きにしたらいいよ、俺は匙を投げた。
速水さんがこちらの様子を伺いながら、おずおずと口を開く。
「あの……今更だけど迷惑じゃない?」
上目遣いで俺を見てきた。そんな彼女に対して迷惑と言える程、非情にはなれない。
「べ、べつに……」
そう言って視線を逸らす俺……ツンデレか!!男のツンデレ気持ち悪い!!
あまりの気持ち悪さについ条件反射で自分自身にそんなツッコミを入れてしまった。
「よかった……」
そう言って胸を撫で下ろしている。
「けどさ?大変だよな……」
「え…?」
予期せぬ言葉を投げかけられたからだろう。速水さんは呆気にとられた表情をした。
「さっき花粉症だって言ったよな、今は特に症状が出ている様には見えないけど、大変なんだろ?」
「え……あ、う、うん。そうなの」
やっぱり……何か不自然なんだよな。さっきはあえて触れないでおこうと思ったけど、どうしても気になってしまう。
俺はじっと速水さんを見つめた。暫く黙って見ていると、彼女は小さなため息を吐きながら観念した様に口を開いた。
「えっと、ごめんなさい。実は…花粉症は嘘なの」
「え?嘘なのか?つーか、何でそんな嘘をつくわけ?」
「それはお父さ……ごほんごほん…」
今お父さんって言いかけたのを俺は聞き逃さなかった。これ絶対何か入れ知恵されたな。
お父さんは危険人物だという事は既に学習済みだ。
極力関わりたくなかった俺は、この件についての追求を打ち切る事にした。
「まぁ、いいや。それで次の質問なんだけどさ?何でまた普段通りに戻したんだ?こないだの方が良かったのに」
マスクをしているせいで彼女の表情が掴みにくいが、何となく照れている様に見えた。
「藍原君はさ?今の私とこないだの私どっちがいい?」
「難しい問題だな。こないだの速水さんの方がいいんだけど、それはそれでトラブルに巻き込まれそうだしな。あと、何となく他の男に見せたくない気もするんだよな」
「それは、ど、独占したいって事!?」
「そ、そんなんじゃねえよ」
恥ずかしさのあまり強めの口調で返してしまったにも関わらず、ますます嬉しそうにする彼女。
「ふーん、藍原君(←現状ただ一人だけの友達)は私を独占出来るんだけどな……」
「まぁ、(彼氏だから)そうなんだけどな……」
彼女は俺と会話しながら、何かを考えている様だ。
「なぁ、ついでに質問いいか?」
「なに?」
「速水さんは今までに付き合った人(←恋人的な意味)いるの?」
「うん、昔は居たかな(←友達的な意味)」
やっぱり居たのか……。そりゃ本来はあんだけの美少女なんだから、元彼がいるのは当然だよな。
そっか……きっとあんな事やこんな事は経験済みなんだろうな……。
二股されているわけじゃないんだ、彼女に非はない。にも関わらず、俺はショックを受けていた。
「そりゃあれだけ可愛かったらいるよな……」
「か、可愛い……」
俺の言葉に反応した速水さんは、両手を頬に当てクネクネし始めた。
ちょっと気持ち悪かったのだが、ツッコミを入れるのは憚られた。
暫くそれを続けた後、満足したのか急に真顔になった。
「洗面所あるかな?」
「ああ、トイレの隣の扉が洗面所だよ」
「ちょっと借りるね」
そう言っておもむろに立ち上がった彼女を、俺は無言で見送った。
暫くすると、眼鏡とマスクを外しおさげをほどいた姿で戻ってきた。
やっぱりこの姿の速水さんの破壊力はやば過ぎる。つい見惚れてしまったのだが、とある一点だけおかしな事に気づいた。
彼女は何故かゴム手袋をしていた。まだお昼にするには早いと思うが、もしやハンバーグでも作ってくれるのだろうか?
さらによく見ると手に何かを持っている。あれは……サランラップの箱?それぐらいなら家にもあるのに……。
そんな事を考えていると、彼女は先程の正面ではなくさも当たり前の様に隣に座った。
そしてそっと俺の手を握り、上目遣いで見上げてくる。
普段は前髪で隠してわざと視線を合わせない様にしているが、この時ばかりはしっかりと目が合ってしまった。
突然の行動に思考が停止する。やはり速水さんは恋愛慣れしている、確信とともに完全に主導権を握られてしまっていた。
俺はきっとこの数日間で、色々な事を卒業してしまうのだろう。
据え膳食わぬは男の恥との名言を思い出し、俺は腹を括った。
「あれ?藍原君ってカラーコンタクトしてるの?」
彼女の突然の問いかけで、期待に心躍らせて高ぶっていた気持ちが急激に冷めていく。
やばい、学校じゃないから完全に油断していた。
「あ…えっと…」
「綺麗な青……。へぇ、意外にオシャレに気を使っているんだね」
「ま、まあな。休みの日だけカラコンにしてるんだ」
どうやら勝手に勘違いしてくれたらしいので、動揺を悟られない様に相槌を打つ。
「藍原君も、それ凄く似合っててかっこいいよ」
速水さんはそれだけ言うと、恥ずかしそうに目を伏せてしまう。
積極的で恥ずかしがり屋の非処女の彼女はありですか!?
答えは……もちろんありです!!神様、この出会いを与えてくれた事に感謝します、ありがとうございました!!
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