事実は小説より奇なり(苦笑)
人は二股をかけられたと気付いた時、考えなければならない事がある。
それは自分が本命なのか?それともキープなのか?という最も重要な問題についてだ。
とある有名な哲学者は、こんな名言を残していた。
『恋愛感情の中には、いつも若干の狂気が潜んでいる。とは言っても、狂気の中にもまた、いつも若干の理性が潜んでいるものである』
速水さん、その若さで二股するとか、どんだけの狂気潜ませてんだよ!!
この子の理性を信じて、俺が知ってしまった事を伝えるか……。
それとも痛みを恐れて何食わぬ顔をして付き合い続けるか……。
恋愛初心者の俺には難しい問題だ。
俺が本命であれば伝えたところで別れる事はないだろうが、もし俺がキープだったら……めんどくさい男と即座に切られるだろう。
どうせ別れる事になるなら早いうちがいい……。
大丈夫、今なら真白ちゃんに癒されてこの苦い思い出を次に繋げる事も出来るだろう。
だが待てよ?俺がもし本命だとしても二股する様な女を大事に思えるのだろうか?
そして、彼女はきっともう色んな初めてを捧げきってしまっているのだろう。
別に俺は処女信仰な訳ではない……断じてそんな事はない……はずだ……。
だがなぜこんなにも俺は胸を締め付けられるのだろうか……。
「……え……い………るの?」
「ちょっと、聞こえてるの!?」
彼女の呼びかけに意識を現実に戻される。
「やっと反応した…。もう、さっきから話しかけてるのにずっと無視して。何考えてたのよ!?」
そりゃ、お前が二股してる事とか、本命がどっちなのかとか、やっぱり初めて同士がいいとか、そんな事に決まってるだろうが。
思わず文句を言ってしまいそうになるのをぐっと堪える。
「それで私行く所ないんだけど、どうしたらいいの?」
確かに俺にも責任はあるが、半分は自分のせいだろう。俺ばかりに責任があると言われても納得いかない。
「じゃ、ここに泊めてやるからそれでいいだろ」
俺は投げやりにそう言った。流石に付き合い始めてすぐ男の所に泊まるような女はいないだろう。
「え、いいの?ありがとう!!」
すんなりオッケーするとかマジか?こいつ相当遊んでるんじゃないのか?
疑念がほぼ確信に変わった瞬間だった。俺の中で何かが砕ける音がした。
なんか全てがどうでも良くなり、俺は感情に任せ怒りを露わにした。
「お前、なんでそんなに軽いんだよ。普通男の家にそんな簡単に泊まるとか言わないだろうが。何考えてんだよ!!」
「え?藍原君(友達)の家に泊まるって別におかしな事ないよね?」
「繰り返すが、普通は男(←付き合い始めて間もない彼氏)の家にそんな簡単に泊まるとか言わないんだよ。それを簡単に言うお前がどんな奴かよく分かったよ……」
「そんな(←with照れ顔)」
え?俺…非難してるだけなのに、なんでそんな恥ずかしそうにしてるの?
もうマジ意味わかんねえ。多分オブラートに包んでもこいつには伝わらない気がしたのでストレートに言うとしよう。
「お前、こんな事してこないだの男が許すと思ってるの?」
侮蔑を込めた視線と同時に吐き捨てる様に言った…ついに言ってしまった…。
「こないだの?ああ、その件なら大丈夫。応援してくれてるから!!」
あまりに予想外の答えが返ってきたので、一瞬呆けてしまった。
え……?あのイケメンどんだけ心広いの?二股オッケーとか俺無理だわ。
速水さんもあのイケメンも俺の理解の範疇を超えていて流石に引いたわ。
これはもう別れよう。この人達は宇宙人だ、きっと分かり合えない。
俺が別れを切り出そうとするより速水さんは衝撃発言を続けた。
「お父さん、そういうの得意だからって相談に乗ってくれたの」
そうか、お父さんって名前なのかあのイケメン…。
ん?お父さんだって!?
俺はハンマーで頭を叩かれたぐらいの衝撃を受けた。
「速水さんちょっと質問に答えてもらえる?」
はやる気持ちを抑えきれず食い気味で言ってしまった。
「いきなりどうしたの?私が分かる範囲で良ければ答えるけど」
すぐにオッケーが出たので、俺は疑問に思ってた事を投げかける。
「こないだのイケメンがお父さん?」
「そうだよ。あ!?若く見えるよね?あれでもう40超えてるからねお父さん」
見た目詐欺もいいとこだろうが。どう見ても20代にしか見えなかったよ。
「次の質問な。速水さん母子家庭って言ってたよな?」
「さっきもそう言ったよ。お父さんとお母さんね、少し前に離婚したの。私はお母さんに引き取られたんだけど、たまに会ってるの」
「へぇ……そ、そうなんだ」
声が震えているのが自分でも分かる。
「なんかね?離婚の理由を聞いてもちゃんと教えてくれないんだ。たまに喧嘩はしてたけどそれでも仲の良い夫婦だったのに前触れもなく突然だったの。ただね?離婚する前にお母さんが、『どこの世界にキモオタがハァハァする様な作品に実の娘をモチーフにする馬鹿がいるんだ!!』って本気で怒ったのを見た事があるの」
キモオタがハァハァする作品?ま、まさか!?
そう言えばあのイケメン、速水さんの事を『リン』って呼んでいた気がする。
「速水さん、あのさ?お父さんから何て呼ばれてるの?」
「涼音って名前ね?風鈴の音みたいに涼やかな子に育って欲しいって意味で付けてくれたらしいの。その影響もありリンって呼ばれてるよ」
あー、なんか色々察してしまった。道理で面影がある訳だ。涼音=鈴音ってわけね。
そりゃ実の娘をモチーフにしたキャラを、濡れ場なしとは言えエロゲに出演させるのはないわ。
速水さんのお母さんは常識人だったのが幸いだったな。
そしてこの事実を彼女は知らないのだろう……。
「ねぇ、ちょっとお手洗い借りてもいい?」
「ああ、あそこの扉がトイレだから。遠慮なく使ってくれ」
彼女がトイレに入ったのを確認して、俺は無言でゲーム機からディスクを取り出すと全力を込めて半分に割った。
彼女の事を疑ってしまったせめてもの罪滅ぼしだ。
さようなら真白ちゃん。君と僕はキス一度きりの縁しかなかったみたいだ……。
そして、鈴音……。君がヒロインじゃなくて本当に良かった……と彼女がトイレから出てくるまで感慨に耽っていた。
頑張って考えたのですが、ご期待に添えない内容になってしまったかもしれません。
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