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塔攻略前のガールズトーク

 目が覚めると、既に暗くなっていた。時計を見ると18時半だった。やばい、早くご飯を食べてログインしなくては。俺は部屋から出て、リビングに入った。母と遊が夕飯を食べている。父の姿はない。残業なのだろう。


「あら、もう起きたの?」


 母がちくりと嫌味を言う。


「ご飯に間に合うように起きようと思ってたのに、少し寝過ごしたよ」


 俺はしれっと言ってやった。母は軽く肩をすくめて、それでも席を立って俺の分の食事をよそってくれた。


「ありがとう。いただきます」


「お兄、態度でかすぎ」


 遊が俺を睨んでくる。俺はそれを無視した。


「父さんが謝っていたわよ。余計なことを言ってしまったって」


「ああ、確かに余計なことだったな」


 俺は鷹揚に同意したが、謝られるほどのことでもないと思っていた。元はと言えば、悪いのは引き籠ってる俺なのだから。


「でも、私も父さんと同意見よ。学生時代に付き合っていたから惰性で父さんと結婚したけど、そうでなければわざわざ父さんを選んでないわね」


 なかなか辛辣な意見だが、うだつの上がらない父よりも、母の方が収入があるようだから仕方ないのかも知れない。


「別に、学校行ったってそれだけで彼女ができるわけじゃないだろ」


「それはそうだけど……身長は少し低いけど、そこそこ可愛い顔には産んであげたんだから、絶望的というほどでもないでしょ」


「むりむり、お兄みたいなキモヲタの相手をする子なんていないよ!」


 遊がここぞとばかりに毒吐く。腹は立つが、その通りだろう。俺は黙って飯を掻き込み、さっさと部屋に戻った。


***


『こんばんわ~』


 ルナファンにログインした俺は、速やかにギルド情報を確認した。見事に全員そろっている。


『お、ナナミンきたーー!』


『こんばんわw』


『おかえりなさい』


『遅かったですわね』


 皆が口々に俺を迎えてくれる。


『ユエ、遅いって言ってもまだ7時やん!? 花の金曜日のこんな時間にPCの前にいるなんて、年頃の乙女にあるまぢき行為やわ! な、薔薇雄!』


 弓子が力説して薔薇雄に同意を求める。


『いや、今の私の恋人は薔薇雄だからwww』


『そんな恋人、嫌過ぎますわ!!』


『ぇー、割と男前なのにw 敵にヤラれる時の声も可愛いしw』


『男前ったって、いつも気持ち悪いマスク被ってるやん!!』


 弓子が突っ込む。


『ふふふ、素顔を見れるのは私だけww』


『なんか、薔薇雄、今日はテンション高いね……』


 腐女子全開な喋り方に、俺は少しびびっていた。


『だって、金曜だよ!? やっと煩わしい雑務から解き放たれて存分に自キャラを愛でられるんだよ!? 私は自由だwww』


 薔薇雄は社会人か……よほど仕事が辛いらしい。


『薔薇雄を見ていると、社会人になんてなりたくないと、心から思いますわ』


 ユエがしみじみと呟く。同感だ。


『あれ、でも薔薇男、昨日朝から繋いでなかった?』


『昨日は体調不良で有給休暇w』


『それでゲームしてるなんて、さほりやん!』


『えー、体調悪くてもゲームくらいできるよww』


『まぁ、そこは薔薇男に同意するわ』


本格的に引きこもる前は、俺もよく「体調不良」で休んでゲームしていたのだ。


『だよね?w それに有給は労働者の権利だしww』


『典型的なダメリーマンですわね』


ユエがしみじみ言う。個人的には、有給取って遊べるとか理想のサラリーマン像なのだが。


『ねぇ、やっぱり働いていると出会いってないの?』


 なんとなく、今日の父さんと母さんの言葉が気になって、俺は聞いてみた。


『うーん、正直、学生時代に比べたら激減したかなw 積極的に動きさえすれば、まだないことはないのかも知れないけどねw でも、職場の男と付き合って破局したら気まずいことこの上ないしw 中には上司と付き合ってるヤリ手の若い子もいるみたいだけど、他の女からの陰口半端ないからww 異業種交流の名を借りたコンパに出て別の会社のいい男を見つけたいところだけど、いい男には大抵既に女がいるっていうww』


『うわ、なんか生々しいわね……そんな話聞くと、私も今のうちに見つけとこうかなって思っちゃうわ』


 弓子がもっともな感想を漏らす。


『弓子は大学でしたわよね?』


『ええ、そうよ』


『出会いはあるんですの?』


『まあ、誘われるだけならうざいくらいにあるかな。いい男っていうのはそれほど多くはないけどね。うちの学校の男女比が割と偏ってることもあるけど、彼氏を作ろうと思ってできない女子はいないんじゃないかな』


『何そのうらやましすな状況www』


『あんただって通ってきた道やん!(笑)』


 こうして聞くと、確かに薔薇雄と弓子の置かれた状況には雲泥の差がありそうだ。


『弓子は部活してるんですわよね?』


『部活というかサークルだね。レゲー&レアニ同好会だから、残念ながら恋愛対象になりそうな男はいないよ(苦笑)』


『レゲーって、音楽のですか? レアニっていうのは解りませんが……』


 ようやくコランドが言葉を挟む。ガールズトークじみた会話に上手く入れないのだろう。俺も同じだが。


『ううん、正式名称はレトロゲーム&レトロアニメ同好会だよ!』


『弓子のネタが古いのはそのせいかww』


『偉く濃ゆい活動をしていますのね……』


『ユエはJKだったっけ?w』


 女子(J)校生(K)の略だろう。同じ略語で常識的に(J)考えて(K)の意味にも使うからネット用語は意味不明だ。


『ええ、そうですわ。女子高ですから、積極的に誰かに紹介してもらうか、コンパにでも参加しない限り出会いはないですわね』


『男漁りしてるの?ww』


『まさか。言いましたでしょ? わたくしは男は嫌いなんですわ』


『リアルゆり発言きたーー!! 彼女がいるの!?』


『か、彼女もいませんわ!! ゆり、というか、よくわからないというのが実際のところですわね』


『なんかかーいいなw 純情そうだww 弓子とは大違いwww』


『悪かったわね、純情じゃなさそうで!!』


『さて、そろそろタワー・オブ・デスに挑みませんか?』


 コランドがやや強引に会話を遮る。いいタイミングだ。この調子だと、次は必ず俺やコランドに話題が振られただろう。


『そうね。私も腕が疼いて仕方がないわ』


 俺も間髪入れずに同意して、コランドをフォローする。


『そうね、面白そうだし、いっちょ暴れますか!』


 良かった、弓子の同意が得られればこっちのものだ。


『タワー・オブ・デス って60階だよね?w』


『当然、ゲームの中の塔は60階建てに決まってるやん!』


『いや、60階って㌦アーガ以外に知ってる?w』


『勿論! カイの冒険とか!』


『ちょっww それ同じ塔じゃんwww 』


『でも、イシターの復活は何故か全128フロアなのよね……』


 相変わらず、二人の会話はネタがわからない。ドルアーガくらいは流石に聞いたことがあるが……


『弓子がレゲーに詳しいのはサークルのせいだからいいとして、こうなると、薔薇雄の年齢が気になりますわね』


『やめてw さりげに年令じゃなくて年齢とか言うのやめてww 齢とか加齢臭を思い浮かべるじゃんw』

『さすがに二十歳過ぎて年令は使わないでしょ』


『私は14才だよ!w 心はww』


『それは理解できますね』


 コランドが言う。心というより精神年齢だろうが、俺も同感だ。


『まぁ、話戻すけど、60階あるとなると、補給が問題だよね。特に、私の罠とコランドの魔法陣が持つか、だけど』


 そう、魔法陣と魔法罠はNPC から買うことはできず、自分で作るか、他のプレーヤーから買うかしかないのだ。だからこそ、コランドはせっせと内職していたのだが、弓子がコランドほどまめに罠を準備しているとは思えない。


『罠と魔法陣については心配ご無用ですわ。わたくしが大量に仕入れていますわ』


『ほんと!? わーい、さすがユエ!』


『ほーっほっほ、金で買えるものならお任せあれ、ですわ!』


『それはありがたいですね。僕は一応、十分な数を用意したつもりですが、足りないときはお願いします』


 俺が落ちた後頑張ったんだろう。すごい執念だが、コランドはいつ寝ているのか気になるところだ。


『じゃあ、出発なだww さくっと60階制覇してやんよ!w』


『おー!』


 薔薇雄の掛け声にみんなが応える。俺はナナミンを塔の前に待機させた。


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