ボス狩りは暇人の嗜み
「うーむ、困ったことになったな」
自由活動と言われてすぐ、俺はルナファンからログアウトした。うだうだとギルチャに参加する気になれなかったのだ。
成り行きで一時的とは言えギルドに入ってしまった。もう二度と入るまいと心に誓っていたのに、だ。ギルド編成は、俺を混ぜて女男女男女。少数派ながらも男キャラがいる。俺は男キャラが苦手だった。
『うお、ネカマかよ。キメェェェww チネヨ』
前のギルドで、俺をリアル女と勘違いした男に言い寄られ、俺がリアル男だとカミングアウトした後に言われた言葉がこれだ。男に言い寄ってしまったことに恥ずかしさと腹立ちがあったのだろう、そいつはその後、ことあるごとに俺を変態ネカマ扱いした。俺はギルドにいられなくなり、結局、キャラをデリートしてサーバー(鯖)を移ることになったのだ。
もちろん、俺以外にも♀キャラを使っている男など腐るほどいるだろうし、俺に絡んできたような直結厨はかなり異常で、数的にはそれほど多くはないだろうと理解はしているのだが、はっきり言ってトラウマだった。当時はまだやりこみ度も浅く、やり直す気になれたが、今のキャラで同じことがおきたら立ち直れないだろう。
ともかく、チャットをするのも久しぶりだ。会話からリアル男であることがばれないよう、理論武装が必要だろう。俺は女になりきるべく、ネットで可愛い下着をリサーチすることにした。
「うお、エロいな、これ……」
どうやら間違ってアダルト系の下着サイトを覗いてしまったようだ。大事なところが透けて見えるような薄手のものや、わざわざ大事なところにだけ穴を開けているもの、穴を開けた上でファスナーをつけているものまで様々だ。しかし。こういった大人な雰囲気の下着には何故かいまいち食指が動かない。もっとも、値段も一万円近くするものもあって高校生にはなかなか手が出そうにないが。俺はアダルトサイトを抜け、もう少し若いおにゃの子向けの下着を探した。
「お、こんなの可愛いな……」
幾つかのサイトを巡って目についたのは、明るい色の縞模様やチェック柄に、リボンをあしらった下着だった。ローラ・ラランというブランドの下着だ。上下の下着がセットになっている。ブラは寄せて上げるタイプらしく、谷間の見せ方もなかなかぐっとくるものがある。値段も2、3千円とさっきのアダルト下着の値段からすればリーゾナブルだ。彼女に履かせるならこんな感じか。まぁ、俺にとっては彼女は現実世界の生き物ではない。単なる都市伝説のようなものだ。おそらく履かせる機会などないだろう。強いていうなら、遊にはかせるくらいだが……妄想しかけて、俺はその恐ろしい考えを振り払った。
下着だけでは心もとないので、俺は続けて化粧品も調べてみた。下着と違って全然楽しくない。結局俺は、最近生意気にも化粧の真似事をし始めた遊が使っているブランドと同じくらいの価格帯で、口コミ評価の高いブランドをメモしておくことにした。
一通りのリサーチを終えた俺は徒労感にベッドに突っ伏した。虚しい。何が悲しくて女物の下着や化粧品を覚えにゃならんのだ? 俺はただ、マイキャラの可愛さを堪能したいだけなのに。
それでもまぁ、乗り掛かった船だ。レジェンド・オブ・デス に挑戦するまでなるべく喋らないようにして、挑戦が終わったら速やかに抜けるしかない。
それにしても、あいつらはこんな平日の午前中からネトゲに繋ぐなど、どんな生活をしているのだろうか。俺のように引きこもっているのだろうか? それとも、時間に余裕のある大学生か何かだろうか? 後者の可能性が高い気がする。そんなことを考えてしまう自分がひどく惨めだ。徹夜明けで疲れているせいもあるだろう。
憂鬱な気分を振り払うように、俺は布団をかぶって寝てしまうことにした。
***
何やらごそごそする音で、俺は目を覚ました。音のする方向に目をやると、そこには口から血を滴らせた熊がいた。熊はこちらを見て笑っている。
「熊?」
「きゃ、きゃー!」
俺の呟きに悲鳴を上げる遊。なんだ、熊だと思ったのは遊のパンツだったの……か!?
「変態兄貴、死ね、死ね!」
ヒステリックに喚きながら、遊が制服のスカートで俺を殴ってくる。
「金具が痛い、やめろ! 変態は兄の傍でストリップを始めたお前だろ!」
「私だってお兄の傍で着替えたくなんてないわよ。同室なんだからしょうがないでしょ! それに、どんなに根暗ヒキヲタ童貞でも、妹の体に興味はないだろうと信頼してたのに、タヌキ寝入りで着替え覗こうとしてるなんて予想外だわ」
「誤解だ! 誰がそんな色気のないくまさんパンツに欲情するかよ!」
俺は必死で抗議したが、上がセーラーで下が下着というその格好は、こう、なんというか、かなり、エロい。
「な、なに真っ赤になってるのよ!? ばかぁ!」
遊は俺を思い切り蹴飛ばして、部屋から出ていった。
遊に蹴られた場所をさすりながら、俺は大きな溜め息をついた。不条理だったが、確かに眼福だったかも知れない等と考えてしまう自分に嫌気がさす。時計を見る。遊が帰ってきたから予想はついていたが、昼を通り越して既に3時過ぎだ。ルナファン にはまって以来、すっかり昼夜が逆転している。
弓子とやらがどんな学校に通っているのかはわからないが、そろそろ繋いでいるかも知れない。そう思い、俺はルナファン にログインしてみた。
***
『ナナミン、おかえりなさい』
ログインしてすぐ、コランドが挨拶してきた。
『おかえりですわ』
『モカ~』
ユエと薔薇雄もいるらしい。こいつら、今朝からずっと繋いでいるのだろうか。少し気になるが、下手にリアルを話題にだすとやぶ蛇となるのがこわい。
『ただいま』
なんと返答するか散々悩んだ末に口から出たのはその一言だけだった。
『残念ながら弓子はまだ帰ってきていません。今日は部活に残っているのかも知れないですね』
コランドの言葉からすると、俺を除く四人は少なくともある程度はリアルが割れているようだ。人と組みにくいネタキャラギルドであることからすれば、リアル友達同士のギルドである可能性もあるのではないか。そうだとすれば、余計にまずい。リア友でつるんでいる連中は、リアルを話題にすることに抵抗がないからだ。
『部活などという愚劣なもの、よくもまあやろうと思うものですわ』
ユエが毒づく。その点については俺も同感だ。
『マァナ、モレモキタクブダタヨ』
『誰も薔薇雄が爽やかに部活に勤しんでいたとは思っていませんでしたわ!』
この会話から推測できることは、薔薇雄は既に学生ではなく、ユエは薔薇雄とリア友ではない、ということだ。俺は少し安心した。
『ナナミンは部活はしてないの?』
コランドがこちらに話を振る。
『私は……リアルのことを語る気はありません』
『オォ、ソノガートノカタサ、オニャノコダナ』
『仮に私が男だったとしても、貴方にだけは言いたくありません!』
『確かに、男でも女でも身の危険を感じますわね』
『シドイ、モレハノーマルダヨ。ノーマルノヲトコズキダヨ』
『ひょっとして、薔薇雄って腐女子ですの?』
『ミンナトックニキヅイテルトオモッタヨ』
『ずっと、ガチホモの方だと思っていたのですわ』
『私も、そう思ってました』
俺は同意しながら、少しほっとしていた。ネナベの腐女子なら、ネカマを馬鹿にするとは思えないからだ。ユエや弓子の中の人の性別 はあまり関係ない(男なら俺と同類だし、女でも、男ほどにはネカマとか気にしない)から、これでコランドもリアル女なら、リアル割れを気にする必要はなくなるのだが。
『コランドは男ですわよね?』
俺の内心の葛藤を知ってか、ユエが核心に迫る。
『ええ。幸か不幸か』
残念だ。俺は先手を打つことにした。
『ユエはどちらですか』
『私は当然女ですわ!』
あっさり答える。これで今の段階でカミングアウトするという選択肢はなくなった。
『ナナミンは?』
できれば弓子の性別を聞いてから答えたかったが、この流れでコランドの問いに答えないわけにはいけないだろう。もう、嘘を突くしかない。
『リアルのことは喋りたくないと言った筈ですが、聞いておいて答えないのも失礼ですね。私は女ですよ』
『オォ、ネエチヤンドンナシタギハイテルノ?』
『お、男の人もいるのに、何でそんなこと答えないといけないんですか!?』
一応調べたとは言え、どこでボロがでるかわからない、できればやり過ごしたいのだが……。
『ドーセヲトコニハワカラナイヨ。ソレトモ、ママニカッテキテモラッテルカラワカラナイノカナ』
これは、ここで何とかしないとマザコンネタでいつまでもイビられかねない。俺は覚悟を決めた。
『子供じゃあるまいし、自分で買ってます! ローラ・ラランです!』
『ヘェ、カワイイノハイテルネ、ハァハァ』
『まったく、ママとか子供ですか? 私はリアルのことは話したくないと言った筈です。詮索しないでください』
何とか切り抜けたか?
『それで、薔薇雄はどんな下着はいてるんですの?』
ユエが蒸し返す。
『トーゼンモッコリパンツダヨ、グフフ』
『聞いた私が馬鹿でしたわ』
『コランドハ? モッコリ?』
『違っ! 僕は普通のボクサーパンツです』
『あら、ボクサーパンツはお洒落ですけど、精子減少のおそれがあると聞きましたわよ』
『そ、そうなんですか!?』
『私もネットでちらと見ただけですからよくは知りませんが』
『それはショックですね……今度調べてみます』
こいつらはくだらん下着ネタで盛り上がりやがって。男の下着なんてどうでもいいし、できればユエの下着を聞きたいのに。因みに俺はトランクス派だが、今度ボクサーに変えようかとも思っていたので精子減少というのは少しショックだ。母さんに買ってこないように釘を刺しておこう。
『まぁ、下着の話は置くとして、ナナミン良かったらウォーミングアップを兼ねて狩りに行きませんか』
『えぇ、構いませんよ』
俺は即答した。くだらんギルチャで悩むよりは狩りに行った方がまだましだ。
『薔薇雄はどうしますか?』
『モレハヒトリデシコシコヤッテルヨ』
『では、ナナミン、行きましょう。不死子ちゃん狩りでいいですか?』
不死子、すなわち、アンデットの姫君サンクレアのことだ。狩場のレベルは高く、俺がソロ狩りするにはきついが、コランドもレベルは98だし、二人なら辛過ぎるということはないだろう。
不死子ちゃんの住むホーンテッドセメタリーは、それなりに人気の狩場だ。不死子ちゃんの経験値効率はなかなかのものだし、落とすアイテムの換金率も高い。
俺は了承して、ロールプレイモードに入った。
***
私とコランドは、ワプ子に飛ばして貰って城の入口の前へと降り立った。時間的な問題だろう、ここを狩場とするご同業の姿はほとんど見えない。
「入る前に僕と戦う時の注意点を一つだけ言っておきます」
「注意点?」
私は訝った。何を偉そうな、とも思う。
「はい。僕と一緒の時は何よりも自分の命を大事にしてください」
「ヤバくなったら飛べ、ってこと?」
「ええ。そういうことです」
緊急回避用のランダムテレポートのアイテム(ランポ或いは乱歩とも呼ぶ)はソロで狩りをする者にとっては必需品だ。当然私も十分な数を所持している。しかし、自分の命が危ういとは言えパーティープレイで使うとパーティーメンバーの命を危険に晒すことになるため、忌避する者もいる筈だ。
「ランポは慣れてるから別にいいけど……」
「そして、できるだけ早く戻って来てください」
「あなたは飛ばないってこと?」
「ええ。二人で飛ぶと合流に手間取りますしね」
「でも、あなたが死んだら?」
こいつの言うことには矛盾がある。二人で危ない状況を一人で支えると言っているのだから。
「僕は死にませんよ」
簡単に生き返ることのできるこの世界で、死なないことにあまり意味はない。もちろん、死んだことで一部経験値を失うというペナルティ(デスペナ)はあるが、大したものでもない。誰でも多かれ少なかれ日に何度かは生死を行き来するのだ。それなのに、この自信はどこからくるのだろうか?
「ひょっとして、一度も死んだことないの?」
まさかと思いながら私は尋ねた。
「ええ。僕は、死んで生き返るつもりはありませんから」
この世界の法則からすれば、異常過ぎる考えだ。
「そう。人の主義主張に口を出すつもりもないけど、私には理解できないわ」
「でしょうね。僕も理解してもらえるとは思っていません。なので、一人逃げて生き延びるよりも潔く死ぬことを選ぶというのなら、そうして頂いても結構ですよ」
「私は、その時置かれた状況下で、最善と思う行動を採るだけよ。最初から結論を出しておく気も、あなたの指示に盲目的に従うつもりもないわ」
「わかりました。行きましょう」
お互い理解しあえないことを認識したのだろう、コランドの言葉に、私は無言で墓地に続く扉を開けた。
扉を開けると、そこはちょっとしたモンスターハウス(モンハウ)、つまりは怪物たちの溜まり場と化していた。裸体の透けて見えるようなセクシーな純白のドレスを身に纏った不死子ちゃん四匹に、護衛のアンデットナイトが六匹といったところか。私一人で捌くのはちょっと無理な数だ。しかし……。
「退魔結界!」
コランドの展開した魔法陣、不浄な者、すなわち不死者や悪魔を退ける、光り輝く魔法陣が、容赦なく姫たちを焼く。その様はさながら光の棺桶だ。不死子たちが断末魔のコーラスを響かせる。
「私がいなくても一人で何とかなるんじゃないの?」
私は半ば呆れて言った。こうした大魔法は、事前にそれなりに高価な材料を使って魔法陣を用意しておかなければならないが、その分威力は格別だ。前衛職である私たち剣士系の火力が、パーティープレイにおいて重視されていない理由がここにある。
「そりゃ、ここは退魔師たちの聖地ですからね。ただ、今のはあなたのカウンターでなんとかできる数ではなかった。違いますか?」
「違わないわね」
私は素直に認めた。魔王ならぬ通常の敵モブなら、その攻撃回数はせいぜい秒速二、三発といったところだが、それでも十匹もいれば、二、三十発である。カウンターで狩りきるのは困難だ。一人なら即、乱歩で逃げていただろう。
「ここからは基本、支援に徹しますよ。あくまで目的は、レジェンド・オブ・デス狩り前の準備運動ですから」
モブたちの遺留品を拾って、私たちは先へ進んだ。同業者が少ないからだろう、順調に敵が現れる。三、四匹なら私が軽々と屠ってしまい、コランドの出番はない。更に奥へと進んでいくと、再びちょっとしたモンハウに遭遇した。敵の数はソードダンス・カウンターだけでは少しきついが、コランドが消耗品である魔法陣を使って退魔結界を張るほどでもない。
「接敵してください。援護します」
コランドに言われるままに、私は敵を迎え討った。さすがに全てを弾くことが出来ず、敵の爪が、剣が、私の体を裂く。かなり痛いが、被弾する分は何とかする、とコランドが言っていた意味は解った。
「聖域結界!」
コランドが回復用の聖域結界を張ったのだ。たちどころに私の傷が癒えていく。
「聖域結界って、こんなものほいほい使っていいの?」
「ええ、これが僕のスタイルですし」
聖域結界は、結界上の味方の生命力を回復する範囲回復魔法だ。私の傷は、受けたそばから回復していく。当然、これも、高価な材料をふんだんに使った事前準備が不可欠な大技だ。大魔法で一気に倒してくれても、コランドの消費する金銭はほとんどかわらないだろう。私は少し腹が立ってきていた。
「なんか、施し受けてる気がして不快なんだけど」
「ここでみっちり狩りをするなら、確かにそうですね。しかし、言ったとおり、これは準備運動に過ぎません。貴女は僕がどういう戦い方をするか理解できて安心してレジェンド・オブ・デス に立ち向かえるでしょうし、僕も貴女の腕を再確認できて満足だ。おかげで、あなたがソードダンス・カウンターで捌ける限界を超えた攻撃を受けても、可能な限りカウンターを当ててくれると信じて行動できます。十分な成果じゃないですか?」
「まぁね」
コランドの意図は理解できたが、あまり好きになれそうにないタイプだ。頭がいいのかなんなのか、理屈っぽ過ぎる。
「確認できたなら、そろそろ戻る? 二人で狩りをしてもあまり楽しくは……」
私が打ち切りを提案しようとした、その時だった。不死子のものとは明らかに違う強大な気配を感じたのは。
「いますね」
コランドも気付いたようだ。この城の主、不死の女王、マリー・イブ・ロッシュが近くにいることに。
「そうね。会うのは初めてだけど、勝てると思う?」
ここはソードフェアリーにとってソロ狩場ではないため、ここを統べる魔王について、私には噂で聞く程度の知識しかないのだ。
「当然です。魔王だろうとなんだろうと、僕たち二人に勝てない敵はそうはいませんよ」
またしても自信満々で言う。しかし、初めて出会う不死の魔王と戦おうという今、その自信は頼もしかった。
「信じるわ。作戦は?」
「ナナミンに出来ることは、一つだけでしょ?」
それもそうだ。私は魔王との戦いに余計な邪魔が入らないよう、ゆっくりと、敵を確実にほふりながら魔王の声のする方に近付いていく。そしてようやく、その姿を目にすることができた。大きさは、不死子ちゃんよりも一回り大きい程度で、標準的な人型だ。緋色のドレスからはやはり裸体が透けて見える。二体の不死子と、4体の騎士を付き従えるその姿は、確かに女王というに相応しい貫禄だ。女王たちが私に気付く。
「退魔結界!」
コランドが先制で結界を張る。先ほどは気付かなかったが、普通なら数秒から十数秒詠唱にかかるはずのこの高難度の魔法を、コランドは一瞬で展開している。コランドの型は詠唱特化ということだ。結界に焼かれ、取り巻きの雑魚どもが一掃される。
「ソードダンス・カウンター!」
私も負けじと、女王の振るう剣にカウンターを合わせる。女王の剣の腕はレディF ほどではなく、合わせるのは難しくないのだが……。
「業火焔蛇!」
炎の大蛇がうねりながら私を襲う。カウンターで返せない魔法攻撃だ。かなり熱いが、ここはコランドを信じて耐えるしかない。
「聖域結界!」
傷は回復していくが、それでも受けるダメージの方が大きい。女王は剣より魔法を主体として攻撃してくるからだ。当然、私がカウンターで与えるダメージも低くなる。じり貧だ。
「退魔結界!」
聖域結界の張り替えのタイミングに合わせて、コランドが退魔結界を挟む。退魔結界は女王に対しても十分な効果が望めるのだ。どちらの結界を切らさずに、私への支援と女王への攻撃を両立させる腕は大したものだ。
さしもの女王も、見る間にダメージを蓄積させていき、そして、怒った。女王の攻撃パターンが変わる!
「蛇矛乱舞!」
女王が、自らの豊かな髪に無数の矛をくくりつけて連続攻撃を仕掛けてくる。まともに喰らえばそれだけで殺されかねない筈だが、物理攻撃である以上、私からすれば「ご馳走」以外の何物でもない。
「ソードダンス・カウンター!」
蛇のようにうねる女王の髪から繰り出される斬撃を、私はことごとく弾き返していく。女王の悲鳴が連なるごとに、私のテンションは上がり続け、私は断末魔とともに絶頂に近い快感に身を震わせた。
「お疲れ様」
コランドが労う。
「お疲れ様」
私も上機嫌で言葉を返した。
「思わぬ獲物でしたね」
「ええ。レジェンド・オブ・デス 狩りの前にいい景気づけになったわ」
コランドの自信があながち過信でもないことがわかって、私はレジェンド・オブ・デス狩りが楽しみで仕方がなくなってきていた。
「そうですね。この調子でやっつけちゃいましょう!」
現金なもので、私はなんとなく、コランドとの間に連帯感のようなものを感じはじめていた。