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エピローグ

 こうして、新ギルドでの活動が始まったんだが、俺はナナミンでのログインを控え目にして、こっそりと別キャラを作って一人で遊んでいた。俺にしては珍しく男キャラの司祭だ。名前は鋼玉。コランドと同じように育ててレベルを98まで上げたら、引きこもりを返上して学校に復帰しようかと考えていた。


 本当は、コランドを見つけてから引きこもりを卒業したかったのだが、せめてもの代償行為だ。しかし、育成が余りにもマゾ過ぎて、夏休みまでに間に合う気がしない。ちょっとした敵が相手でも、高価な魔法陣がないと狩りにならないのが致命的だった。


 それでも、コランドの真似をしてプレイしていると、何だか彼、いや、彼女が戻ってきた気がして少し楽しかった。


 そして、レベルがようやく90になり、試しにソロでレディFに挑んでみようかと狩り場に来たときのことだった。単身、レディFに挑むソードフェアリーの姿を見つけたのは。彼女の名前は、奈々美、だった。俺の脳裏に確信めいた予感が走り、鼓動が速くなる。


『コランド?』


 俺は震える手でキーボードを叩いた。俺の言葉に動揺したのか、奈々美はソードダンス・カウンターをミスし始める。ここで死なれてはまたキャラをデリートされるかも知れない。


 俺は必死に聖域結界でフォローした。その甲斐あってか、奈々美は無事レディFを倒した。


『余計な真似を!』


 奈々美は最初に会ったときのナナミンの台詞を真似した。もう間違いない。


『邪魔をしてしまったみたいだからね、せめてものお詫びだよ』


 あの時のコランドのセリフを思い出して、言ってみる。


『あはは、やっぱりナナミンなんですね』


『ナナミンだよ。良かった、もう二度と会えないかと思ってた』


『私も、会えるとは思っていませんでした。でも、未練があったんでしょうね、何気なくナナミンの真似をしたキャラを作ったのに、あなたも同じことをしているなんて、びっくりです』


『驚いたのはこっちも同じだよ。自分がコランドと同じようなキャラを作ったのは、なんかこう、ストーカーじみた気持ち悪い行為のような気がして罪悪感があったけど、君が同じことしてくれていたのは、すごくうれしい』


 お互い相思相愛のように通じ合っていると思ったが、流石にそこまでは口にできなかった。


『ゲームって素敵ですよね。 何度でもすぐに生まれ変われるし、自分の好きな人生を歩めますから 』


『ああ、そうだな。でも、俺はもう一度君に会えたら、頑張ってゲームだけの生活を終わりにして、引きこもりを止めようと考えていたんだ』


『そうですか。それはいいことですね。平日の昼間に一緒に遊べないのは寂しいですけど』


 彼女は、自分は今の状況から抜け出す気はないと、暗に言っているようだ。それは、そうだろう。高校生の俺と義務教育の彼女とでは置かれている状況が違う。俺が引きこもりをやめるからと言って、それをコランドに押し付けるのはただの傲慢だろう。ただ、それでも俺は、彼女に自分と一緒に来て欲しい。


『勿論、俺が引き籠りをやめるんだから君もやめるべきだ、なんて偉そうなことは言わない。ただ、君が俺にしてくれたように、今度は君を仲間に誘わせて欲しいんだ。今の俺は、引き籠りをやめると決意はしたものの、まだいつ最初の一歩を踏み出そうかと躊躇している。君と一緒になら、躊躇いなくその一歩を踏み出せる気がするんだ』


『でも、私はもう、いじめられるのも、いじめを見るのも、いじめを黙認されるのも嫌なんです……』


『でも俺は、そんな屑どものせいで、君が学校生活を諦めてしまうのが辛いよ。俺はさ、オフ会の時、ゲームの話だけでなくリアルの愚痴を言える薔薇雄や弓子やユエが羨ましかったんだ。彼女らにしたって、リアルが楽しくて仕方がない、っていうわけではなさそうだった。大抵の人間は人生上手くいかないことばかりなのかも知れないけど、自分の人生は自分で面白くするしかないんだろうな。ゲームはそのための一つの手段なんだと思う。人生を頑張っていてもあいつらみたいにゲームも楽しめるんだから、一緒に頑張ってみないか?』


『自分が、引き籠りをやめると決めた途端にお説教ですか?』


 やはり、説教だと思われたか。自分だって、家族や先生からのアドバイスに反感を抱いて、散々逆らってきたのだ。無理もない。


『ごめん、そんなつもりはなかったけど、確かに回りくどかったな。正直、君が学校に行くか行かないかは二の次だ。俺が言いたかったのは……単刀直入に言うよ。君が好きなんだ。付き合って欲しい』


 突き詰めていけば、俺が彼女に言いたかったのはこれなんだろうと思う。もちろん、玉砕覚悟だが……。


『え、え!? そんな、なんで私なんかを……』


『俺にもよくわからないけど、オフ会で一目惚れしたのに加えて、その後内心を吐露してもらったことで君の支えになってあげたいと思ったんだろうな。引き籠りをやめようと思ったのだって、君を支えるためには頑張らなきゃって思ったからだし』


そう、つまり簡単に言えば、俺は護るべき「お姫様」を見つけたのだろう。


『付き合うって、ゲームの中でですか? それともリアルで?』


『できれば、両方で』


『私も……すぐには無理だと思うけど、あなたとなら頑張れるかも知れません』


『じゃ、じゃあ、付き合ってくれる?』


 心臓が飛び出しそうだ。


「……はい。で、でも、まずはゲームの中だけでお願いします』


 ゲームの中だけか……。残念なような、ほっとしたような……。


『いいよ、それで。お陰で頑張れそうだ!』


『私も私なりに頑張ってみます。でも、約束してください。リアルを頑張ってくれてもいいけど、ゲームもちゃんと一緒にしてくださいね?』


『勿論!』


『じゃあ、ゲームは一日、六時間!』


『長っ!?……ま、まぁ、頑張るよ』


 ゲームでもリアルでも、俺たちは所詮、ソリストだ。付き合ったって、辛い現実が劇的に変わるわけではないだろう。結局は一人で戦うしかない。生きていくのに、パーティーを組めるわけじゃないのだ。でも、ソリストだけど、常に孤独である必要もない。ひとりなら怖いし寂しいけど、二人で傷を舐め合えるなら、一人の辛い戦いも耐えられる気がする。ソリストのギルドと同様、ソリストのカップルというのもなかなか悪くないだろう。


女の子がいるから学校に行けと言った親が正しかったなどとは認めたくないが、結局、自分を奮い起たせたのは女の子だったのだから、生存戦略というのはそんなものなのかも知れない。


この物語はこれでおしまいです。読んでくださった方、評価してくださった方、また、再アップをリクエストしてくださった方、ありがとうございました。

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