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コランド、死す

「まじかよ、まずいな……」


 弓子が死んだことで、俺は思わず素面に戻ってしまっていた。


 弓子は極限まで高めた魔力を罠に注ぎ込む異色の魔法職だが、通常敵の側まで近づいて罠を設置するため、後衛として立ち回るわけではない。前回のレジェンド・オブ・デス戦では、常にレジェンド・オブ・デスの近くにいたため、後衛とは認識されなかったのだろうが……。今回、弓子はレジェンド・オブ・デスから離れた位置で、カミラ=ミラカに罠を仕掛けていたため、レジェンド・オブ・デスからは後衛と認識されてしまったのだろう。


『ごめん……コランド、起こせる?』


 多くのゲームと同様、このゲームにも死者復活のスキルはあるため、死んだ後も自分で復活ポイントに戻らない限り死体は残るし、仲間とチャットもできる。


 コランドは無言だ。なかなか死者蘇生を唱えようともしない。俺は訝った。コランドは魔力を切って詠唱速度と死ににくさにこだわった高司祭だ。時間のかかる死者蘇生の呪文も、一瞬で詠唱できるはずなのに、なぜ躊躇する必要があるのだろうか? 


 暫く眺めていると、答えが分かった。タイミングだ。仲間を殺さないように、コランドは秒単位で結界張り替えのタイミングを管理しているのだ。そこにイレギュラーな死者蘇生を挟めば、その分結界の展開が遅れる。詠唱は一瞬でも、術後の硬直時間ディレイまでは失くせないからだ。その僅かな硬直が、この少数パーティーが強大な魔王に挑む上での致命傷となりうるのだ。


『死者蘇生!!』


 それでも、半ば強引に、コランドは死者蘇生を唱えた。弓子は一瞬で復活したのだが……。その後すぐ、再度死んでしまった。運悪く、吸血姫の範囲魔法に巻き込まれたのだ。ソロで戦うために結界4種に拘った結果だろう、コランドの死者蘇生はどうやらスキルのレベルが低く、復活時に体力がほとんど回復しないようだ。


『くう、だめかぁ……』


 弓子が落ち込む。


 コランドは喋る余裕もないようだ、彼女は今、相当辛い思いをしているのではないか? コランドは、自分の死や仲間を死なせることを、異様なまでに恐れている。それが友達に自殺された経験に起因することを、今の俺は理解している。今の状況がどれだけコランドにとって苦痛か、俺には想像もできない。


 その後もう一度、コランドは蘇生を試みたが、結果は同じだった。そして、蘇生に拘って聖域結界の展開が遅れたため、薔薇雄も死亡した。後は散々だった。俺がレジェンド・オブ・デスと姫の集中砲火を浴びてあえなく死亡、続いてユエが死亡し、最後にコランドが死亡した。


『あちゃー、惜しかったねww』


『ほんと、もう少しでしたのに、悔しいですわ!』


『うん、レジェンド・オブ・デスから離れたのが失敗だった。次挑戦するときは、姫の前にレジェンドだね!』


 薔薇雄もユエも弓子も、悔しがってはいても落ち込んではいないようだ。俺にしても、次に挑戦すれば勝てる自信がある。また日を置いて再挑戦したいところだ。俺は、落ち込んでいるであろうコランドを慰める言葉を考えていたのだが……。


『みなさん、すみませんでした、僕の力が足りなかったばっかりに……みなさんと出会えて、本当に楽しかったです……ありがとうございました。さよな……ら……』


 手遅れだった。コランドは、そう言い残して即座にログアウトした。


『ちょっと、コランド!? 待ちなさい!!』


 俺は必死でキーボードを叩いたが、その言葉がコランドに届いていないのは明らかだった。俺は慌ててギルド情報を確認した。すると、ギルドマスターであったコランドの名前が消え、マスターの権限は薔薇雄に委譲されていた。


『ギルマスが薔薇雄になってる……』


『ちょっと、マスターが私ってどういうことよ?』


 俺の言葉に薔薇雄が噛みついた。


『おそらく、コランドはキャラをデリートしたんだと思う……』


『え、まさか、嘘でしょ!? あのレベルまでキャラ育てるのに何百時間かかると思ってるのよ! なんでそんな馬鹿なことを……』


 弓子の言う通りだ。育成しやすい量産型のキャラでさえ相当な時間がかかるのだ。 キャラデリートなど普通に考えればあり得ない。 しかも、コランドのキャラは普通ではないのだ。魔力切りの結界司祭などという特殊この上ないキャラのレベルを98まで上げるのに必要な時間と労力は想像もできない。そんなキャラを消すなんて、狂気の沙汰だと思う。しかし、コランドが自分のキャラを死んでいった友人に見立てていたのであれば、そんな理屈は通用しないだろう。


『あいつ、言ってた。自分は死んで生き返る気はないって……最初から、一度でも死んだらこうするつもりだったんだ……』


 キーボードを叩きながら、俺は自分の血の気が引いていくのを感じていた。あの時は、ゲームの中で死んで生き返らないなど、何の意味もない馬鹿な拘りだと思っていた。でも、違う。意味はあった。リアルでの連絡手段がない以上、二度とコミュニケーションを取れないという意味で、キャラの死は現実の死と変わらない意味を持つのだ。コランドとはもう二度と、リアルで会うことは愚か、ゲーム内でチャットをかわすことも、一緒に狩りをすることもできないのだ……。その事実を認識して、俺の目から涙が零れ落ちた。


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