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絶望の塔(後編)

「ここからは竜族なんですね……」


 31階の敵、グリーンドラゴン娘を見てコランドが呻いた。竜族相手には、退魔結界が効かないからだ。当然、これまでの階よりも攻略速度は落ちるだろう。


「任せて、その分私が頑張るわ」


私は自信満々に言う。そう、竜族はその多くが強力な物理攻撃を有しており、ソードダンス・カウンターの効果は高いのだ。炎や氷の吐息ブレスには注意する必要があるが……。


「私の罠はいつでも効果絶大だしね!」


 確かに、弓子の罠はかなり頼もしい。正直、弓子の罠とコランドの結界があれば竜族相手でも負ける気がしない。私たちは立ち塞がる竜達を蹴散らして塔を駆け登った。


 イエロードラゴン娘、ブルードラゴン娘、ブラックドラゴン娘、レッドドラゴン娘、シルバードラゴン娘、ゴールドラゴン娘、プラチナドラゴン娘と、色と攻撃力と攻撃パターンが若干異なるだけの量産型モンスターが目白押しだ。


しかし、竜族の魔王、すなわち魔竜はかなり特徴的な姿をしている。35階と40階に現れた魔竜騎士アリューテスとカタリュトスは巨大なドラゴンに乗った騎士だった。空中からの突進が凶悪で、なかなか弓子の罠を当てられなかったため討伐は困難を極めたが、それでもなんとか、単発高威力のソードダンス・カウンター、ワールドエンド・ソードダンス、アベンジを駆使して倒すことができた。


「さ、さすがに疲れたわね」


 弓子が弱音を吐く。思うように罠を当てられず、相当神経がまいったようだ。


「確かに、ここまで私の出番もありませんでしたしね……」


 ただ見ていただけのユエも同意見のようだ。


「あと5フロアだけ、頑張りましょう」


 コランドが二人を励ます。コランドも薔薇雄も、もちろん私もだが、活躍できたから割と元気なのだろう。


 私たちは力を振り絞って塔を登った。パールホワイトドラゴン娘、シルバーグレイドラゴン娘、ピンクゴールドドラゴン娘、レインボードラゴン娘が出迎えてくれる。正直、オーバーキルのセクシーポーズを見るのも苦痛なくらい、ドラゴン娘はお腹がいっぱいな感じだった。そして、遂に45階。フロアの入り口から見えたその姿は……。


「魔竜クシャナトリフ……」


「やっぱりこいつか……」


 みんなが緊張しているのがわかる。私も見るのは初めてだが、噂には聞いている。クシャナトリフは討伐が極めて困難とされる最強魔王の一角だ。レジェンド・オブ・デスよりも遥かに強い、ということもないだろうが、スキルや攻撃パターンが著しく異なるため、単純には比較が困難だ。取り巻きにレインボードラゴン娘を7匹連れており、その点も脅威だ。


 その容姿は、ドラゴン娘たちのように鱗で覆われたり、尻尾があるわけではない。竜の描かれたチャイナ服姿の美少女だ。チャイナ服は単純なミニスカートタイプではなく、右側面は足首くらいまでのロングスカートにスリットが入っており、左側面が膝上20cmほどのミニスカートになっていて、右側面から左側面にかけて斜めに緩やかな弧を描いた切れ込みが入っている。チャイナ服の胸元にも、竜の頭のような形に穴が開いており、見事な谷間が見える。こんなにセクシーな格好ながら、縦横無尽に動き回るカンフーの達人だというのが、私の聞いている噂だった。


「ユエ、賄賂をお願いできますか?」


「そうくると思いましたわ。ええ、任せておいてくださいませ」


「かなり苦戦しそうよね……」


「そうですね……」


 弓子やコランドですら弱気になっているようだ。


「そもそも、足を止めて殴ってくるタイプじゃないでしょうから、私のソードダンス・カウンターとは相性が悪いと思う。さっきの竜騎士同様、弓子の罠も当てにくいでしょうね」


「罠を狙いにくいのが辛いわ。それに、敵の標的をコントロールできないから、私やユエは、狙われたら逃げ回るしかないし」


「ユエには防護結界を張りますよ」


「おいらとナナミンで何とかするしかないわけねww」


「ええ。できるだけ、ソードダンス・カウンターとアベンジを当てていこう。ファーストコンタクトではワールドエンド・ソードダンスを狙うわ」


「そうですね。効率よくダメージを稼がないと、下手すると時間切れになるかも知れません。作戦があまり役に立たない、出たとこ勝負になりますが、よろしくお願いします」


「ええ、でもそんな戦い方は、ソリストな私たちには似合いじゃないかしら?」


少し自嘲めいた私の言葉を、みんなは割と前向きに捉えてくれたようだ。


「それもそうね! ソロプレイのつもりで思う存分暴れてやるわ!」


「精一杯フォローしますけど、お手柔らかに」


「よっしゃー、行こうww」


「ええ、札束で叩いてやりますわ!」


 私たちは扉を開け、45階のフロアに入った。幸い、クシャナトリフはかなり離れたところにいて、まだ私たちに気付いていない。


「今のうちね」


 弓子が促す。もちろん、そのつもりだ。


「アルティメット・ダンス!」


 みんなが暫く私に見惚れるけれど、今なら大丈夫だ。私はみんなが回復するのを待って、一気に歩を進めた。クシャナトリフと7匹のドラゴン娘が私目掛けて突進してくる。


賄賂地獄ブライブストリーム!!」


 絶妙なタイミングで、ユエが賄賂をばら撒いた。ドラゴン娘たちがお金を拾いに走る。私はクシャナトリフに攻撃される前にこちらから仕掛けた。


「ワールドエンド・ソードダンス!」

 私の剣舞は、しかし全段命中というわけにはいかなかった。数発当てた時点で、魔竜が独特な歩法で間合いを離したのだ。


「ちっ、素早い!」


 そこからは当初の予想通り、私たちは苦戦を強いられた。クシャナトリフは、誰か一人に狙いを定めることをせず、縦横に動き回っては無作為に標的を選んで襲ってくるのだ。竜騎士のように単発の一撃で離脱するわけではないが、接触はわずか0.5秒で、4連撃を叩き込んでくる。私はなんとか4発のカウンターでダメージを稼げるが、弓子と薔薇雄は攻撃を当てることもできない。こんなとき、後衛魔法職のウィザードかソーサラーがいれば、持続時間の長い範囲魔法で強引にダメージを稼げるのだが、それは無意味な仮定だった。私たちはこのはぐれもの同士でパーティーを組むことを選んだのだから。


「みなさん、急いでください。後2分しかありません!」


コランドが急かす。支援しかできないコランドもさぞ歯痒いことだろう。コランドのおかげで死ぬ心配はないが、タイムリミットで強制退場させられる可能性が高くなってきた。


「ごめん、無理だよ。当たらない……」


 弓子が泣きそうな声を出す。


「まだ憤怒にも入ってないし、ヤバいね……」


 薔薇雄も、いつものように下品に笑う余裕すらないようだ。私がなんとかしないと……


「ソードダンス・カウンター!!」


 私は自分が狙われた機会を逃さず、着実にカウンターを当てていく。そして……。


「ふむ、人間にしてはなかなかやる……そろそろ本気を出すとしよう」


 遂にクシャナトリフが憤怒に入った。独特の歩法による動きが更に速くなる。クシャナトリフは一瞬消えて、薔薇雄の目の前に現れた。


「え!?」


 私と弓子が同時に叫んだ。クシャナトリフが、薔薇雄を12発殴ったのだ!


「いけるかも!」


 またしても、私と弓子の声がハモる。クシャナトリフの攻撃が4発から12発になったことで、ダメージは増えるが接触時間も3倍になったのだ。これは、私にとっても弓子や薔薇男にとっても朗報だった。その一秒で、私は12撃のカウンターを叩き込めるし、弓子も罠を起動できる。薔薇男の被ダメージが増え、アベンジの威力が上がると共に、アベンジを当てるチャンスができる。お互い示し合わせたかのように、弓子と薔薇男が私の側に来る。魔竜が私を狙っている間に、罠とアベンジを叩き込むためだ。


「ソードダンス・カウンター!」


「どっかーん!」


「アベンジ!!」


 3人の高ダメージの攻撃が次々とクシャナトリフを捉える。そして遂に、魔竜は甲高い断末魔とともに斃れた。


「やっっったーー!!」


「まぢかよ、すげーーーwwww」


 弓子と薔薇雄が歓喜の叫びを上げる。


「コランド、時間は?」


「残り7秒です。ギリギリでしたね」


「よくやりましたわ、下僕たち。信じてましたわよ」


「ユエもありがとう。ごめんね時間かかっちゃって、賄賂かなりかかったでしょ?」


「ほーっほっほっほ、これくらいなんともありませんわ!」


 頼もしい話だ。この10分でユエがいくら使ったか計算しようかとも思ったが、疲れた頭はそれを拒否した。とりあえず、休みたい。


「一旦塔から出ましょうか」


「そうね。さすがに後15階登る気力はないわ」


 コランドの提案に、私は頷いた。他の3人も口々に同意する。私たちは、フロアの中央に現れた石碑に触れて、外に出た。


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