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プロローグ

 某小説大賞に応募のため削除しておりましたが、無事落選しましたので、ひっそりと再upさせていただきます。

 遂に、遂にこの時がやってきた。私が剣舞妖精(ソードフェアリー)の道を志した時から、いつか必ず倒すと心に誓ってきた剣の魔王、レディウスフェン・フォイエルバッハ、通称レディF との戦いの時が。別にこいつに身内を殺されたわけではないけれど、ソードフェアリーを名乗る以上、こいつに剣の腕で勝つのが私の目標だったのだ。


 彼女は一人、その幼い体に薄布を一枚纏っただけの、全裸に限りなく近い格好でじっとあらぬ方を見つめている。私が廃墟の陰から出てもう少し近付けば、私に気付いて問答無用で襲いかかって来るだろう。

 焦って飛び出すべきではないが、悠長に隙を伺い続けるわけにもいかない。魔王の手下がいつ現れるかも知れず、また、魔王顕現に気付いた他の冒険者(ご同業)たちがいつ現れて邪魔をしてくるかも知れないのだ。私は覚悟を決めて魔王の前に躍り出た。


 次の瞬間、レディFがその小さい身体に似つかわしくない長大な魔剣を抜き放ち、私に襲いかかってきた。私も愛用の剣を、炎のように波打つ長剣、フランベルジュを手に迎え討つ。

 レディFが剣の魔王と呼ばれるのは、その卓越した剣技の故だ。秒間八閃というその剣速は、ソードフェアリーであれば誰でも一度は憧れる境地だろう。私も、その速さに憧れ、自らを鍛え、そして辿り着いた。強力な一撃も、鉄壁の頑強さもすべて捨てて。全ては、この技のために!


「ソードダンス・カウンター!」


 魔王の繰り出す神速の斬撃の全てにカウンターを合わせる。防御を捨てて後の先に全てを懸けるのが私の戦術(スタイル)だ。コンマ数秒でもタイミングを間違えば、逆にカウンターを貰うのはこちらという、ハイリスク極まりない戦い方ながら、このギリギリのスリルが私を最高にハイにさせるのだ。


 魔王は、剣を振るう度に自ら血飛沫をあげる。ファーストコンタクトはこちらの想定通りだ。でも、問題はここから。魔王とて、ただ単調に剣を振るってくれる訳ではない。


「エクレル・フォント!」


 来た、厄介極まりない変拍子の攻撃だ。八連撃に織り混ぜて放たれるタイミングの読みにくい三段突き。私は、刺突の直前に剣に宿る雷光を頼りに、なんとかカウンターを合わせる。私の剣が魔王を刻む都度、魔王の漏らす可愛い悲鳴が心地良く響く。


 予想だにしていなかったであろう苦戦に、魔王の怒りも頂点に達したようだ。レディFの幼い肢体が薄紅色のオーラを纏った。ここからは魔王も本気だ。一瞬でも気を抜けば、瞬殺されかねない。私が集中力を高めようとしたその時……。


「もう終盤ですね。ソードダンス・カウンターだけで狩るなんて、本当に可能なんですか?」


 私の後ろで声がした。私は思わずその男を見てしまった。白を基調として所々に赤をあしらった聖服……明らかに高司祭だ。私同様、魔王を狙って来たのだろうが、手出しする様子はなさそうだ。私の戦い方で本当に勝てるのか興味があるのだろう。


「エクレル・フォント!」


「きゃっ!?」


 迂闊だった。聖服の男に 一瞬気をとられた隙に、魔王の手痛すぎる攻撃が私を貫く。三段突きをことごとく貰ったのだ。辛うじて一命はとりとめたものの、後一撃でも攻撃を貰えば、私は死ぬだろう。回復薬の残量にはまだ余裕があるけど、司祭の前で回復薬のがぶ飲みなんて、みっともなくてしたくない。つまり、私に残された道は一つ。これから繰り出される魔王の本気の攻撃の全てを、カウンターで弾き返すしかない……私がそう覚悟を決めたときだった。


「祝福の光よ!」


 男が私に癒しの光りをかざす。ほんの僅かながら、私の傷が癒えた。


「余計な真似を!」


 お礼を言うべきなのだろうが、私は思わず毒づいてしまっていた。

「邪魔をしてしまったみたいなので、せめてものお詫びですよ」


 男は気を悪くするでもなくそう言った。私はそれ以上何も言わず、魔王に意識を集中した。助けが無用だったことを、見せてあげようじゃないの! そう思いながらも、後一撃で死ぬ、から後一撃は耐えられる、となったことで、私の心にはかなりの余裕が生まれていた。


「レッツ・ダンシング!」


 魔王の剣をことごとくカウンターで返しながら、攻撃の合間を縫って踊りを挟む。


「正気ですか……」


 男から驚嘆の声が漏れる。ソードフェアリーのダンスは、それ自体には何の攻撃力もない。ただ可愛くステップし、技を繰り出すのに必要な精神力を微量に回復するだけだ。しかし、十種類にも及ぶ可憐なステップは、言わば壮大なロマンなのだ。


「アンリミテッド・スラッシュ!」


 魔王も本気だ。数多の剣を召還し、自ら振るう神速の斬撃と共に踊らせる。私も魔王の刻むリズムに合わせて剣を振るい、その凶悪なまでの連続攻撃をことこどく弾き返す。そして、わずかな間隙を縫ってステップを刻む。


「アルティメット・ダンス!」


 ようやく、全てのダンスを踊り終わる。この踊りを最後まで見た者は、目を奪われて一瞬行動ができなくなる。ただし、強大な精神抵抗力を持つ魔王は、こんな踊りごときでは行動不能にはならない。男司祭が動けなくなっただけだ。

 しかし、この踊りにはもう一つ意味があるのだ。十のステップを繋いだ後でのみだせる、ソードフェアリーの最強奥義のための、予備動作という意味が!


「ワールドエンド・ソードダンス!」


 ソードダンス・カウンター以外で、私が使える唯一の攻撃スキル。ソードフェアリーの技の中で最大の威力を誇りながらも、発動条件の厳しさ故に実用する者のほとんどいない魅せ技だ。

 くるくると可憐に舞いながら凶悪な斬撃を繰り出すこの技は、私のお気に入りだ。レディFの断末魔を聞きながら、私は絶頂に近い快感を味わっていた。


「すごいですね! ワールドエンド・ソードダンスなんて初めて見ました」


 男の感嘆も心地良い。傷を癒して貰ってから一撃も食らうことなく魔王を屠ったのだ。手助けが無用であったことも証明できたはずだ。私は、魔王の残した戦利品を素早く拾い、男に向かって恭しく一礼した。


「あの、良ろしければ……」


 友達に、とでも言いたかったのだろうけど、友達(それ)は私には不要だ。私は無言で魔法のアイテム、大鷲の翼を使った。一瞬の内に私の身体は空間を渡り、見慣れたウェナルアートの街並みへと降り立つ。勝利の余韻に浸りながらも、私は一息ついて、この真なる身体に別れを告げた。


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