神様、嫌いな人
くそー。頼みの綱のアテナさんは多忙らしいからな…仕方ない、アイツの所行くか。
決めたら身支度をする。ルシエラにも、
「ルシエラ?2~3日分の泊まれる準備しておけよ」
と言っておく。唐突に言われたせいか、それともいつも引きこもりの俺しか見てないからかきょとんとしてこっち見ている。
「どうかなさったんですか?」
そうだよな。そう言うと思ったよ。
「知り合いの所にルシエラと行くんだよ…ルシエラの事で相談しにな」
今は溜息しか出ない。
「私の相談ですか?はい、分かりました。準備しておきますね?」
宜しく!と言ってその場で魔道具の通信機でもある水鏡を取り出す。アイツには携帯の番号なんか教えていない。此方の都合の良い時だけ一方的に連絡出来る手段しか持ってない。
『おい。起きてるだろ?出ろよ』
水鏡に向かって無愛想に言う。
『何よ〜いきなり乙女に向かって〜』
相変わらずウザいヤツだ。
『野暮用でそっち行くから宜しく。診てもらいたい相手が居る』
ロキは端的に言う。
『はぁ〜?引きこもりのあんたに相手〜?女の子〜?』
かなりウザい。
『あぁ、今見るか?』
ヤバいイライラしてきた。
『嘘~マジで~?!でもアタシ楽しみは取っておくタイプなの!お土産ヨロシクね〜』
ブチッとイライラがMAXして水鏡の水をバシャンとしてしまった。
「ロキ様…?」
ルシエラが俺のいつもと違う雰囲気になったのを心配したのか声を掛けてきた。
「何でもない…気が合わない相手なんだよ行く所」
親指の爪をつい齧る。ルシエラは空気を読んでくれてそれ以上何も聞かなかった。
出発当日。
色んな薬を大量に魔法収納袋に入れてルシエラが出てくるのを待っていた。ルシエラが後から来たので前もってペガサス馬車を呼んでおいた。
ルシエラは開口一番に…
「ペガサスって実在してたんですね〜…大きい~♪」
と喜んでた。取り敢えず手を取り先に乗せる。ルシエラは飛べるので手を貸さなくても良いのだが一応礼儀としてしておくべきだろう。
アイツにはしないがな。
馬車は快適でルシエラが風に当たりながら…
「そう言えば何処に向かうんですか?」
と聞いてきたので。
「あぁ、愛を司る神のとこだよ…何柱か居るんだが今手が空いてるのがヴィーナスだけなんだよ」
チッと舌打ちする。
「お嫌いなんですか?」
とおずおずと聞いてくるルシエラ。
「本来なら顔も見たくない相手だ」
ムスッとするロキ。
「ロキ様にも嫌いな方が居るんでるね…」
不思議そうに見てくる。
「多分ルシエラ弄り倒されるぞ?」
えっ?と真顔になるルシエラ。
「取り敢えず今は忘れとく。ルシエラが一番だしな」
ルシエラに頭を預けると眠気が来た…
……
………
…………
「…さま…ロキ様!」
ハッと起きる。
まさかもう着いてしまったのか?そう思いながらルシエラに聞くと、懐中時計を見た感じ俺は出てから此処に着くまでずっと寝ていたっぽい…最悪だ寝起きで逢うのかよ。
ロキはテンションガタ落ちの状態で馬車を降りる。魔法収納袋からハトメの付いた厳つい黒マスクを取り出し付ける。
ルシエラが「えっ?」と見るけど説明出来そうにない。
「取り敢えずこの館ですか?ロキ様のご自宅より狭い感じですね?」
そろそろルシエラに事情を説明するべきかなぁ?そんな事を考えていたが取り敢えず目的が先だ。
「ルシエラ先に言うが逃げるなよ?」
「どう言う意味ですか?」
「そのまんまの意味だ」
「分かりました…鳴らしますね」
ルシエラがドアベルを鳴らしてくれたが出てこない。
「居らっしゃらないのですかね?」
「違う。確実に居る。あそこだ」
収納袋からナイフを取り出し投げつける。
「ひゃっ!!も〜や〜だ〜…ろっくんたらっ!」
玄関の柱から無駄に眩しい虹色髪のおばさんが出てきた。
「ろっくんとか勝手に付けんな。んでこっち見んな」
睨みつけるがこいつには効かない。ルシエラがポカンとしている。
だから嫌だった。
アテナさんの日程がズレ込んでも空いていればアテナさん優先だったのに俺の方に受注の仕事があるから仕方なかった。
「この子〜見て欲しい〜って駄々こねてきたのわ〜」
してない。全くしてない。
「ウザい…次は刺すぞ?」
「ろっくんたらこ〜わ〜い〜メッ」
うぜぇ…胃が痛い。
「ろっくん毎回来るなら神様状態の姿で来なさい言ったでしょ〜」
「断る。さっさと診てくれ」
「は〜い。そこのアナタ…アタシの事はヴィ〜ナで良いからね〜ん!ナスなんて呼んだら泣いちゃうんだから」
パチンとウィンクしてくるのがウザい。
「は…はぁ」
力なく応えるルシエラ。頑張れ!
豚の屋敷の玄関に入るとゴミの山がそこらにある。
「しっかし…相変わらず汚ぇ家だなお前の所。使用人はどうした?」
ゴミの多さに嫌気がさしてつい豚に話しかけてしまった。
「使用人なんて〜男はダメになるし〜女は何故か逃げてくし〜居ないの〜テヘッ」
イライラしてきた。お前が原因だよ明らかに!
「こんな部屋にルシエラ入れれるか…待て」
そう言うと収納袋から擬似コンとパーツを出し即興で組み立てる。
「だから嫌だったんだよ来んの…命令掃除」
ピッと鳴りゴーレムが動き掃除を始める。
「え〜何コレ〜今回のお土産コレ〜ありがとう〜愛してる〜」
ロキに突進して来る豚。
「来んな!」
豚を足蹴にするロキ。
「も〜分かったわよ〜。る〜ちゃんコッチ♪」
ルシエラに変なあだ名を勝手に付けんな。
はぁ、と座り込むともうひとつパーツを取り出し組み立てる。小型ゴーレムである。
「命令ルシエラ護衛」
ピッとまた鳴る。疲れた着いて高々15分でコレかよ。ルシエラが恋しい。掃除を命令したゴーレムが戻るまで取り敢えず待機すっ…
「キャーー!!」
ルシエラの声?!ゴーレム間に合わなかったのかよ!!
「『転移魔法展開ルシエラの元』」
ひょいとある一室に来たみたいだが、ルシエラが居ない?いや、痕跡がある。感知ネックレス千切れてるよ…何しでかしてるんだあのクソアマ。
「もう怠い。マジで勘弁。ルシエラに手ぇ出したらマジで殺す」
指輪とネックレス等の魔装具を取り外し収納袋に入れる。
「『全力展開魔力感知ルシエラ』…居た」
すぐ近くに居るがゴミとかの隙間に隠れ混んだんだなぁ…ある意味穢した。有罪確定。
「『反転移魔法ルシエラ召喚』」
腕を広げて待ってるとブラウスとスカートが所々汚れているルシエラがポフンと落ちてくる。
「へ?え?あ、ロキ様…ヴィーナ様が急に…何が何やら…」
混乱気味にルシエラが応える。それを見てロキは、
「あー、うん。分かるからこれ飲んで落ち着けな?服変えようか?混乱状態を落ち着かせるポーションあって良かったね」
魔法収納袋から混乱用のポーションを出す。コクコクと飲み干すルシエラ。
「あの、でも私の荷物ヴィーナ様が何処かに落としたんですが…」
「うん。それも分かってたから着替えあるよ。はい」
更に収納袋からルシエラの普段着を出す。
「ロキ様…何か慣れてませんか?」
「あー、うん。アイツ腐れ縁で何かと知ってるから。だからアテナさんの方が良かったんだけどなぁ…」
どうしたものかと考えてる内に、ルシエラの着替えが終わった。ルシエラを抱きかかえて逃げる訳にも行かないし。
「仕方ねぇな…ルシエラ来い来い」
階段前に立つ。そこでルシエラを抱きかかえて待つと…来たクソアマ。
「あー、完璧スイッチ入ってんなこりゃ」
呆れて言う。
「どういう事ですかロキ様?」
お姫様抱っこの状態できょとんとしてるルシエラ。
「アテナさんは友愛の愛の女神なんだがヴィーナスは若干所か、かなりの欲まみれの神でな?愛と欲まみれなんだわ。愛欲て言うと分かるか?んで、使用人が居ない今はかなり欲求不満て訳。そこに俺の全てを捧げた最高傑作の登場。欲が出たんだろ」
ドンドン近付いてくる。
「どうするおつもりですか?」
不安そうにロキを見るルシエラ。
「ん?こうする?」
豚を間近まで引き寄せる。
「やぁ〜ん!!ろっくん!やっぱりそっちの方がステキよ〜…ヘブっ!?」
突進してきた所をルシエラを抱えたまま飛んでかわして豚の頭を勢い良く蹴り階段から蹴落とす。
ガタガタと頭から階段を落ちていった豚。
「はぁ、流石ロキ様ですね…引きこもりなのになんでそんなに身軽なんですか?」
「鍛え方が違うから?ルシエラを守る為にも強く居ないと情けないじゃん?」
実際守るモノがあると強くなれる気がする。
「所でヴィーナ様はどうするんですか?伸びてますけど?」
痙攣して伸びてる豚を横目に、
「取り敢えず放置。掃除終わる頃に目が覚めるだろ。その間に魔装具付けるの手伝って」
ルシエラの額にキスをして魔装具を付けて貰う。