神様、お茶から夕食迄
お茶もそこそこにして屋敷の中を探索する事にする。セーレは夕食まで部屋に居るとの事。ルシエラは俺に付いて来ている。
「ロキ様ー?呪いの箱ってどうなったんですか?」
「老神龍と神龍のお陰で消滅したぞ?」
「どう言った呪いの類いだったんですか?その呪いの箱って」
「少し昔に東洋に伝わっていた箱なんだけど、凄い法力を持った奴でも解呪出来ない様な呪詛が掛けられた箱だ。主に女に被害が行くからルシエラに待機命令を出してたんだよ」
「でも、今はその箱よりもキャリーさんに移された呪いのマーキングが気になる所なんですが」
「それもそうだろうな…俺ですらいつ付けられてたのか分かんなかったし」
ロキは溜め息を吐く。
「そもそもシトリーさんが2人で1人なんてややこしいですね…あの御方はそこの所どうする方向なんですか?」
「要相談だなそれは」
ルシエラがあの御方と言う事はサタンの事だろう。
「そうですか…」
しゅんとするルシエラ…非力な自分が嫌なんだろな。そう言えば、
「ルシエラ用のローブもう少しで仕上げに掛かるつもりなんだが色指定以外に何か欲しい機能はあるか?」
「え?もう出来上がるんですか私用のローブ」
「後は調整次第だけどな」
「温度調節は出来るんですよね?色は白なら良いし…うーん」
悩むルシエラ。考えに考えた結果、
「色が白で温度調節が出来て翼も隠せるなら他に機能要らなくないですか?」
「あれ?やっぱりルシエラは欲が無いな」
「それならロキ様だったらどうなさいますか?」
「俺?亜空間機能付けたりするな多分」
「亜空間?収納袋みたいなのですか?」
「そんな感じ…背中に向けてポイって投げたら良い感じに収納される様な」
「そんなの考え付きませんよ」
呆れ顔のルシエラ。散歩もそろそろいいかな?
「ルシエラの作業何処まで進んでるか見に行っても良いか?」
「構いませんよー?裁断室に向かいますか?」
「そうしよう」
そのままスタスタと2人で裁断室に向かう。裁断室に着くとルシエラが、
「少し待ってて下さい。片付けてからロキ様呼びますから」
と扉の前で待たされる羽目になった。キャリーは勿論付いて来ている。
「キャリー…お前空気化するの辞めろよ」
「アタシ大人しいだけっすよ?」
「大人しいだけなら気配断つなよ。隠れたいのかと思ったじゃねーか」
「いや、旦那様なら気付くと思ってたんで暗部の真似でもしようかなと」
「そこまでならなくていいから大丈夫だ」
「そうっすか?」
しゅんとするキャリー。そしてまた気配を断とうとする。そんなに憧れてんの暗部の仕事?そんなやり取りをしていたら中からルシエラが良いですよー?っと声を掛け出来たのでドアノブに手をやりガチャリと開ける。
「ルシエラまたかよ」
積まれた布。布。布。その脇に出来上がった品物。
「コレでも片した方ですよロキ様?」
ルシエラは少し整理整頓が苦手な様子。キャリーが気配を断ったまま片付けを始めた。俺は空いてるスペースにある椅子に座る。
「本当に子供服が多いな」
まじまじと出来上がった品物を見ていく。
「結婚ブームの後はベビーラッシュですよロキ様!」
「注文はまだ来ては無いだろ?」
「いえ?予約ならありますよ?えーっと…ほら」
発注書を出してくるルシエラ。あ、本当だ。
「気の早い神も居るもんだな」
あれ?コレは…
「コレっていつ来た発注書?」
ルシエラがコチラに目をやる。
「どれですか?あー、それは帰って来て早々にありましたよ?」
発注書には爺の第一夫人の名前が書いてあったので気になったのだ。もしかして妊娠してるから情緒不安定なの抑えるアクセサリーを求めていたのか?
「ご懐妊おめでとうだな第一夫人さん」
「それもそうですね。ゼウス様があの様子では苦労が絶えなさそうですが」
苦笑いのルシエラ。それもそうだよな…早くあのアクセサリー送っておくか。
「ルシエラの仕事はコレで一段落したのか?」
「はい!後は片付けを…あれ?」
ほぼ片付いた部屋を見るルシエラ。
「部屋の片付けならキャリーが来て早々してたからな?」
「この御屋敷のメイドさんの力量怖いです」
さっき迄山積みだった布が理路整然と片付けられてたらそうもなるよな。まぁ、俺は慣れてるけど。
「そろそろ夕食の時間にもなるし行くぞ」
「あ!はい!!待って下さいロキ様ー」
スタスタと歩いて食堂に向かう事にしたロキ達だった。
裁断室を出てルシエラとキャリーと食堂に向かう途中でリーンと涼やかな音色が聴こえた。
「夕食が出来たみたいだな。ルシエラは何かリクエストでもしていたのか?」
「いいえ?いつもの通りトマト料理でお願いしますとは言いましたよ?」
「よく飽きないなそれで…キャリーは俺達が食事の間何しておくつもりなんだ?」
「アタシっすか?旦那様達が食事の間、中庭で見付けた超希少な植物の経過観察及び採取して加工しようかなと思ってましたけど?」
「余り離れるなよ?まだシトリーの件が終わった訳では無いんだからさ」
「でも、食堂と中庭のガゼボは近いからちょっと位は良いですよね旦那様?」
「何かあったら直ぐに連絡する様にしろよ?それ迄自由行動を与えるわ」
「ありがとうございます旦那様!」
浮き足立って中庭の方に向かうキャリー。俺とルシエラは食堂までそのまま歩いて行く事にした。
食堂に着くと丁度食堂の扉に手を掛けようとしているセーレが居たので一声掛ける。
「セーレもここの生活に馴染んできたな」
「あ!ロキ様!ええ、晩餐の支度が出来た合図の涼やかな音色が聴こえたら、あ!もう夕御飯なんだって思って直ぐに食堂に向かえるから何か嬉しくて」
照れ臭そうに笑うセーレ。イヴの料理は美味しいもんな。
「セーレは夕食の献立は何か指定したのか?」
「いえ?ボクはあっさりしたものが食べたいですとは言いましたけど献立は聞いてませんね」
ふーんと考えてから食堂の扉を開けてルシエラとセーレを招き入れる。イヴが厨房に繋がっている扉の前に佇んでいた。
「旦那様、ルシエラ様、セーレ様。晩餐の方は各々違うメニューを用意させて頂きましたわ」
そう言い厨房の方に戻るイヴ。直ぐにカートを押して戻ってきた。
「旦那様には前に食べてみたいと申してらした旬の生牡蠣と牡蠣フライなどを加えた御膳で御座います。ルシエラ様にはアマトリチャーナとスープとサラダです。セーレ様には塩鶏じゃがと小松菜と油揚げのお浸しに舞茸とほうれん草のソテーに五穀米で御座います」
「何かボクのメニューは本当にヘルシー思考になってますね」
くすくす笑うセーレ。ルシエラはパスタが好きなのか出されたら即食べついていた。礼儀作法の事は前に言ったばかりなのにな微笑ましい。ルシエラに微笑みかけるときょとんするルシエラ。
「ほうはひまひはか?」
「ルシエラはルシエラのままで居てくれても良いんだけどこの前礼儀作法の話したよな?」
ギクッと止まるルシエラ。咀嚼してから水を飲み一言、
「ロキ様並になるとは言いませんけどこんなにも美味しい物があるとつい…」
反省はしてる様子なので、
「今度からはテレサとイヴに礼儀作法を叩き込ませようか」
にっこり微笑むロキ。身の危険を感じたのか、
「これ以上先生が増えるのは勘弁してくださいーー」
と縋り付いてきた。そんなに苦痛なのかね?
「取り敢えず齧り付く様に食うのは辞めろ」
「分かりましたよー」
ルシエラはゆっくりご飯を食べる事にしたみたいだ。セーレはのんびりとご飯を堪能している様子。俺も箸を付けていく。
「イヴ?このミルク牡蠣高いやつじゃねぇの?」
「旦那様の金銭感覚がイマイチ分かりませんが一番高級なモノを仕入れて参りましたわ。食費の範囲内なのでお気になさらないでくださいませ」
「いや、凄く美味しいから気になっただけだ」
「左様でございますか…牡蠣の殻を剥くのは技術が要りましたか差程問題のある事ではありませんでしたわ」
想像してみたが牡蠣の殻ってピッタリと閉じてて剥きにくそうな気がした。
「イヴ的に捌くのと牡蠣の殻を剥くのだったらどっちがやり易い?」
「勿論お魚を捌く方が得意ですわ」
「無理させてごめんな?」
「いいえ?旦那様の為ですからこれ位は享受致しますわ」
「そうか…それなら良いんだけどな」
そんなやり取りをイヴとしていたらルシエラがお代わりを要求してきた。本当に良く食べるよなルシエラは。セーレもご飯のお代わりを頼んでいた。食は進みお茶にするかと言う事で隣のダイニングに来た。俺はイヴ特性珈琲、ルシエラはミルクティーわセーレはセイロンをアイスティーで頼んだ様だ。何か日常に馴染んで来たなコレも…
「セーレは何か欲しいものとかねぇの?」
ふと思った事を聞く。
「そうですね…願うならロキ様のアトリエをこの後か明日拝見させて頂きたいのですが良いですか?」
「それなら明日の方が良いだろ。もう夜だし」
「分かりました。ありがとうございます」
えへへと笑うセーレ。ルシエラは何かお茶請けを収納袋から取り出そうとしていた。今日はまた大変な日だったなと感じるロキだった。