神様、遭遇
神狼と犬神は何か言い合いながらこっちに来ていたようだった。
「どうした?」
俺は何となく気になったので聞こうとすると、
「主!コイツとんでもない事言うんですよ?!」
神狼がそう叫ぶ様に言う。犬神は何処吹く風と言った感じに下手な口笛を吹いている。
「先ずは話をしようか2人共?」
微笑みかけるとヒッと2人が黙る。それよりもとんでもない事って何だろ?
そのタイミングでコトリバコの影響が出ないテレサはお茶の準備をしていた。うん?一応呪いの異物があるんだから動揺してくれても良いんじゃないかなテレサさん?
「あ、テレサさん自分お茶冷たいのお願いします!熱いのダメなんで」
神狼がそう言うと、
「俺も俺も!」
と犬神も言う。
「畏まりました」
テレサは俺とファントム、老神龍と神龍の飲み物をテーブルとカウンターに先に置いてから冷たい飲み物を持って来ようと思ったのかバックヤードに下がった。
「で!主聞いてくださいよコイツの言い分!!」
あー?何か言い争いながら来てたなこの2人。
「何を言い争いしてたんだ?」
俺はテレサの入れてくれた紅茶を飲みながら聞く。
「あったも何もとんでもない無いんですよコイツの発想!ほら、メイドの1人に変装の奇人いるじゃないすか?」
変装の奇人…て、キャリーの事か?なんだよ奇人て。
「奇人かは知らないが変装の名人は居るな」
「そいつ囮に使えば良いんじゃね?って言うんですよコイツ?!」
あ、それありかも。
「良く思い付いたな。俺もその手は思い付かなかったわ」
ティーカップをソーサーに置きふむと考え込む。キャリーを囮にするのも確かに手だな。簡易式だが転移魔法なら使えた筈だから逃げれるし半径10km迄しか飛べないけど。
「主?良い考えでしょ?!」
ブンブンと尻尾をぶん回す犬神。かなり喜んでるな。
「いい案だと思うがお前らの前で変装してた事あったかキャリー?」
2人は顔を見合わせて言葉を紡ぐ。
「あの子偶に裏庭の花壇の手入れしてる時があるんですけどその時に鼻歌唄いながら変装して遊んでるんですよ」
神狼が言う。
「そうそう!あの辺で俺と俺の番とコイツとその番とで日向ぼっこしてるとこから見えるんすよ」
犬神が続けて言う。
「「それはもう見事な変装でした!!」」
ハモる2人。成程ね…キャリー多分見られてないと思ってしてるんだろなそれ。
「それでさっきの案か?」
「そうです主!」
犬神が尻尾をぶん回しながら言う。少し考えてキャリーに思念伝達で連絡する。
『キャリー?今手空いてるか?』
『あれ?旦那様がアタシに連絡とは珍しいですね?如何なされました?』
屋敷の掃除をしていた手を止めキャリーは空を見つめながら脳内で応える。
『犬神の発想を聞いてキャリーにもどうか聞いてみようかと思ってな』
さっきの経緯をキャリーに伝えるとキャリーはとても楽しそうに、
『その案アタシ乗ってみたいんですけど!アタシでも役に立てるのならばお手をお貸し致します』
『そうか、それなら今してる作業キリのいい所で辞めてからアトリエに来てくれ』
『畏まりました』
神狼と犬神を見てキャリーの応えを言うと、
「「やっぱりあの御方なら同意すると思いました」」
わふわふと応える2人。取り敢えずキャリー来るまで待ちますかね?ソーサーに置いたカップを手に取り喉を潤す。数分後キャリーがアトリエに来た所で皆で意見交換をする事にした。キャリーはやる気満々の様子。
「キャリー気負う事は無いんだぞ?」
ニカッとキャリーは笑って応える。
「旦那様に必要とされれば影武者なりなんなりしますよアタシでも!」
「それは頼もしい限りだ」
俺は微笑む。信頼出来る部下が居るって素晴らしいな。メイド達も神獣も部下って言うよりもう家族だな。頼もしい限りだ。
「キャリーの変装はバレない自信あったよな?」
お辞儀をしてキャリーは応える。
「屋敷の者以外には見破られる心配は御座いません。安心してください」
「それなら良いが。無茶はするなよ?」
「旦那様に心配されるなんて恐悦至極!アタシ頑張りますよ!」
取り敢えず神狼と犬神に指示を出す。
「2人共行きは転移魔法で送るけど帰りのペガサス馬車代支払っておくからヴィーナスの屋敷に行ってくんねぇ?時間まだあんまり経ってないから少しの痕跡も逃すな」
「「了解っす」」
「取り敢えず跳びますか転移魔法展開」
神狼と犬神の手を取りキャリーは俺にしがみついてヴィーナスの屋敷に飛ぶ事にした。
一先ず到着すると神狼と犬神の2人はスンスンと鼻をヒクヒクさせている。
「何か匂いで分かるか?」
神狼が言う。
「女の匂いと別に男の匂いが残ってます」
「気配絶って出来るだけ早く探してくれ俺は一旦戻る」
そう言い転移魔法を展開する。しゅんと消えた後に神狼と犬神が呟く。
「「俺達役に立てるかな?」」
少し不安気そうな2人だが任務を任されたので精を出そうとする2人。
気配を消しながら匂いを辿って行く2人。ヴィーナス邸の裏庭が男の匂いが強くなった。
男の匂いが強くなった方向に神狼と犬神が静かに歩いて行く後ろを足音も立てずに付いて行くキャリー。すーっと着いてくるので、
「ちょ!アンタ怖いっすよ!?」
神狼が堪らず声を上げる。キャリーはきょとんとしていた。
「え?アタシに言ってるんすかそれ?」
「アンタ以外居ないっすよ!!」
犬神も声を上げる。そして2人はハモって、
「「何でそんなに音立てずに付いて来れるんすか!!」」
と静かに声を荒らげた。
「いや、隠密部隊に混ざれるとか楽しくて…って?ウチの屋敷に居るメイド達で足音立てずに徘徊出来るのノイアーとミア以外全員出来る事ですよ?」
「「え?」」
神狼と犬神は止まった。暗殺部隊のファントムとテレサなら分かっていた事だけどもその他のメイド達も暗部の様な事が出来るとは思っていなかったからだ。
「そもそもノイアーとミアも反転重力使えば足音消して歩けますし」
「「いやいや?!何それ怖い!!」」
主…どういう教育してるんすか…溜息をつきながら主を思う2人。
「取り敢えずこっちの方が匂いが強いんで行きますよ」
神狼がそう言う。残る2人はこくりと頷き徘徊再開。
「そろそろアタシ旦那様に変装しておきますね…っと」
そう言いマントを翻すとそこには完璧に出来上がったロキの姿が。
「あれ?そう言えばどっちの姿を顕現すれば良かったのかなアタシ?」
変装した本人はいつもの姿の主になってから疑問に思っている様だった。
「今は普段の姿の主で良いんじゃないすか?」
犬神が応える。それに呼応する様に神狼も、
「そうっすよ」
と応える。神狼と犬神は鼻をスンスンさせながら進路を進めるがここに着いてから匂いはふたつしか無かったので不思議に思った事をキャリーにぶつける。
「何でアンタから匂いが無いんすか?」
神狼が言う、
「それもそっすね…何でですか?」
犬神も問い掛ける。
「ファントム様は精霊付きだから分からないけど、アタシ達メイドは基本的に生殖機能の無いゴーレムっすよ?匂いがないのは普通なんじゃないんすか?」
「「ゴーレムとか無機物でも匂いがある奴はあるっすよ?」」
「それは造ってくれた旦那様に聞いてくれないすか?アタシにも分かんないですし」
埒が明かないと判断してその会話は辞めておくことにした3人。屋敷の裏庭辺りに着いて花壇の陰に潜む3人。
「取り敢えずどういう作戦だったか話を照らし合わないすか?」
神狼が言う、
「それもそうっすね…アンタも指示受けてるんすよね?」
犬神がキャリーに問い掛ける。
「アタシ大した作戦聞いてませんよ?お2人に付いて行けとしか聞いてないですね」
2人は天を仰いだ。主ー!!!投げやりな作戦辞めてくださいっすーー!!心の叫びが多分ハモっている。
「自分は魔界の者の追跡を頼まれたっす」
神狼が言う、
「あれ?自分は魔界の者のマーキング頼まれたっすよ?」
犬神が応える。あれ?
「アタシはお2人に付いて行って旦那様に変装してたら良いとだけ聞いたっすよ?」
沈黙が流れる。つまりは捕縛はしなくて良いって事なのは分かった。そう言えばそもそも情報仕入れるだけって言ってたもんな主…
「つまりどう言うことですか?」
キャリーが問い掛ける。
「「これは単なる陽動作戦てことすよ」」
シトリーをおびき寄せるのでは無く勘づかせて後は逃げろって事なんだろなぁ。主も性格悪いよ…
「陽動作戦かぁ…アタシの予想コッチの姿の方がいい気がしてきた」
マントを翻すとそこには神様状態のロキの姿が。
「何でそっちのが良いんすか?」
神狼が問い掛ける。
「旦那様が魔性のモノを惹き付けるとしたらこっちかなぁって勘っす」
この子変な所で勘が良さそうっすもんね。神狼と犬神は黙っておくことにした。