神様、不穏な影
ファントムに思念伝達で連絡を取る。
『ファントム?今ミアとノイアーの調整終えたけどそっちどう?』
『旦那様の指示の元で老神龍様と神龍様も真面目に取り組んでおりまして殆ど終えそうな所で御座います』
『了解。ミアとノイアーに渡したアクセサリーと同じ効能のアクセサリーを爺の第一夫人に贈るからアトリエにあるか確認しておいて』
基本的には一点物が多い俺のアトリエだけど偶に効能付きのモノは重複して置いてることが多い。それを聞いたファントムが、
『左様で御座いますか。でしたらコチラにお戻り下さい…老神龍様と神龍様が指示を待ってる様です』
『了解。直ぐに戻るわ』
ミアとノイアーに見送られて共同部屋を出たのでいろいろ考えながら歩く。仕事は捗っているしルシファーの問題も解決した。セーレを送るのは良いけどあんまり屋敷を空けるのは良くないから老神龍辺りに送迎して貰うのも手だな…後はルシエラが溜め込んでる服でも見に断裁室にでも行くかな?一先ずアトリエに戻るとしますか。そんなこんなと考え事をしながら歩いていると直ぐにアトリエに着いた。
「ファントム、老神龍、神龍、進捗の方はどんな感じか聞いてもいいか?」
そう言いながらアトリエに入るとファントムは書類を軽く片付けて恭しくお辞儀をして出迎えてくれた。老神龍と神龍はアクセサリーの仕分けをまだしていた様だ。
「そのまま作業してていいから進み具合だけ知らせてくれファントム」
「はい。終わった物はコチラに、まだの物は老神龍様と神龍様が仕分けております」
ファントムはそう言いながら案内してくれる。老神龍と神龍は慣れているからか黙々とアクセサリーを目の前に広げながら作業を進めていってくれていたようだ。
「皆ありがとな…あ、老神龍それちょい待ち」
老神龍が取ろうとしていたアクセサリー…いや、魔導具が何かおかしかったので止める。
「んー?コレ何だっけ?」
ファントムがコチラを見てから書類を確認する。
「其方は…不明細のモノですね。何処にも載っておりません」
「やっぱり?俺こんなの仕入れてねーもん」
完全記憶能力のお掛けで何でも覚えれるからね。え?待て、じゃあ何コレ?
パッとみ魔導具ぽいアクセサリーを見つめながら考える。
「何か付与されてるっぽいな」
魔眼を発動させながら手に取ろうとするとチリチリと空気が張り詰めてからパシンと弾かれた。
「「「「え?」」」」
その場に居た全員が驚いた。ロキの商品(?)がロキの魔眼による鑑定を弾いたからだ。
「え?何コレ?」
ファントムも怪訝な顔をしながら見ている。老神龍と神龍は真理眼で本質を見ようとしていた様で2人共金眼を細めていた。
「主よ、其れは呪いじゃ」
老神龍が静かに言う。
「老の言う通りです主。ソレは呪物ですよ」
触るに触れてないアクセサリーに目を落とす。え?何で俺の知らないアクセサリーがあるんだよ。
んーーーー???っとロキは考え込んでいたらふと目の端に水鏡が目に入った。もしかしてと思い水鏡を起動させる。
「おい、ヴィーナスお前何か仕出かしただろ」
鏡の向こうにはヴィーナスがバツの悪そうな顔で写っていた。
『て…てへ、ろっくんたらそんな顔しないで〜?アタシも悪気があった訳じゃないのよ〜?』
「じゃあ何だよヴィーナス。言い訳くらいなら聞いてやる。後悔のない言い訳くらいしてみろよ」
怒気を放ちながら無表情で応える。
『え〜?ろっくんてばるーちゃんの事まだ手篭めにして無いでしょ〜?だからちょこーっとだけほんの出来心で意地悪してみたくなっちゃった☆てへ♪』
「ふーん…へーそー」
問題あったわ。ストーカーの接近禁止命令出てたからコチラから向かう以外の事で何しでかすか忘れてたわ。
「んで?無理矢理水鏡越しに呪物を送って来たと?」
『て…てへ』
「殺すぞテメェ」
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさい〜〜〜!!』
「これアレだろ…コトリバコだよなぁ?なぁ?」
額に青筋立てながら怒気を更に増して問いただす。
『流石ろっくん物知り〜』
「だから殺すぞテメェ」
自分でもびっくりなくらいの低音で言い放った。
「因みに聞くがコレいつ送り付けたテメェ」
『さっきよ!!さっき!!1時間前〜!!』
「そうか、なら今度縛り上げて爪剥ぐだけで赦してやる」
『辞めて〜!!当分痛いのよそれ〜!!』
「テメェの罪なんだから罰を受けろ」
水鏡の向こうでカタカタ震えているヴィーナス。
「ここに居るのが男だけで良かったわ」
コトリバコ。東洋である時期ある地域で流行っていた呪いの箱の事で、四方形の小箱に呪詛を掛けたもの。作り方がえげつないから禁止になっていたはずなんだけどな…
この箱は名前の通り子取りと言う呪いがかかっている。女性が居たりこの箱に触れようものならば忽ち子供が授かれない等の呪いを受ける。
「豚にはまた後で折檻するとしてこの呪い祓っとくべきだな…ファントムはこの等級の呪い払えたっけ?」
「旦那様…それは特級指定呪物で御座いますよ?闇の精霊だった私如きでは祓えるモノでは御座いません」
「だよな?俺も払えるか不安なんだけど?」
悩んでると真理眼持ちの2人が何か言い合っている。
「どした?老神龍、神龍?」
「我々なら祓う事が出来るかもって老に相談してました主」
コチラに振り向く神龍。
「然り。我等ならどうにか出来る代物だと考えておった所じゃ」
微笑む老神龍。何か心強いな…それなら2人に任せるかな?
「じゃあ、この箱は任せても良いか?」
「「勿論じゃ/勿論です」」
ルシエラにこっち来ない様に連絡しておくか。思念伝達でルシエラに連絡する。
『ルシエラ今裁断室?』
『ロキ様?そうですよ?子供服作りに没頭してました』
『少しの間アトリエに近付くなよ?』
『何かあったんですか?』
『豚が呪いモン持ち込みやがったから接近禁止な?』
『分かりました』
一応注意したしここら辺で切り上げておくかな?疲れたな何か。
老神龍と神龍がコトリバコを囲みながら何が試行錯誤してる模様。この2人は始祖なる龍、聖なる龍として古から居るから対処出来そうだ。今この場に居る女性のテレサに生殖機能が無くて良かったのかどうなのか悩み所なんだけど…
「そっち任せても良いんだよな?ルシエラには近付くなって言っておいたんだけど」
「大丈夫ですよ主。コレはどうにかなります」
「そうじゃ主。主はここに女子を近付けないようにしてくだされば良い」
ふぉっふぉっふぉっと笑う老神龍。それを見て肩の荷がおりたロキ。まだ起動させていた水鏡を覗き込む…豚は布団を頭から覆いかぶさった状態で写っていた。
「おい豚。どう落とし前つけてくれんだよ?」
低音で怒気を孕みながら問いかける。コトリバコは本当に危ない代物なのだ。
『るーちゃんに被害はないんでしょ〜?少しのイタズラって事で…ひぃ!!』
俺の怒りが顔に現れてたのか布団からチラ見した豚は恐慄いて震えていた。
「つーか、お前も一応女だよな?どうやってアレを送り付けたか応えろ」
ヒッと小さな悲鳴をあげながら事の顛末を応えた。話を要約するとこういう事らしい。
・新しく雇った執事が有能であれやこれやなんでも言う事を聞いてくれる。
・その執事が仕える主…つまり豚に恋人の影が見えないから疑問に思う。
・豚は自分が付き纏っていた俺の事を美化しながら話した。
・でも最近ルシエラを見せてから自分は負けていると零す。
・それならば自分にお任せくださいとコトリバコを送った。
との事。いや、ソイツかなりサイコ野郎じゃん…怖ぇよ。
「んでその執事ってのどうしたんだよ」
『彼?彼ならそれを送ってから見かけてないわよ〜?』
「おい、ソイツの事怪しく思わなかったのかよ」
溜息を吐く。明らかに可笑しいし確信犯臭ぇんだよそいつ。
「おい豚。そいつの外見の特徴なりなんか情報寄越せ。テメェの事だから隠し撮りなり何なりあるだろ」
ヒッと震える豚。そしてもぞもぞと布団から顔を出して携帯の画面を向けてくる。
『この子よ。執事服が余りにも似合ってたから隠し撮りしたのよ』
…え?まさかのコイツなのかよ?!
「お前ホントにコイツが誰か知らないで雇ったのか?」
豚は目線だけ寄越して言葉を紡ぐ。
『いきなり押し掛けて雇ってくださいって言って来たんだから知る訳無いじゃない〜』
可笑しいと思った。いや、そもそも居る訳無いと思ってた。いや、居てはいけない存在だった。だって豚の携帯の画面に写って居るのがシトリーだからだ。正確に言うとシトリーを少し大人の雰囲気にした感じの男がそこに写って居たのだ。
「何て名乗ってたそいつ?」
『シシリーちゃんよ〜』
シトリーではなくシシリー…疑問が確信に変わる。ドッペルゲンガーの原理を理解していて欲しい物は何としてても手に入れる男があんなに呆気なく闇の狭間に追いやられる訳が無いと思っていたから腑に落ちる点があったからた。
あの場に居たのがドッペルゲンガーの方のシトリーだったら?
意識の共有が出来て居たとしたら?
平気で嘘を重ねる魔族だから偽っていたとしたら?
「分かった。お前はひとついい事をしたから今回はそれに免じて今回の件は目を瞑ってやる」
『アタシ何かいい事した〜?』
「そいつを雇ってその姿を撮っていたと言う事実だ」
そうてなければ知らずにルシエラを失ってたかもしれない。もっと酷い事になっていたかもしれない。それを未然に防げたのは粘着質なコイツのお陰だからな。豚に話しても分からないだろうからそれはさておき…シトリーの件サタンに言うべきかな?
「ファントム、これ魔界の腐れ縁の奴の所為かも知れねぇんだけど?」
俺の言葉を聞いたファントムは少し考えた後コチラを見て発言する。
「でしたらサタン様に進言するのが良いかと思われますが…」
「だよな?でも何て説明すべきなのか分かんねぇんだよ」
事の経緯をファントムに説明した。その間に老神龍と神龍はアトリエの端でコトリバコの解呪を試みている様だった。
「成程。でも旦那様その様な事が有り得るのでしょうか?」
「そもそもシトリーはドッペルゲンガーの原理を知ってた卑怯者だぞ?自分の保身の為に何か策を立てていたのは有り得る事だろ?」
カウンターの椅子に座り足をぷらぷらさせながら考えていた。
「取り敢えずサタンに電話してみるわ」
携帯を取り出して連絡する。プルルと無機質な音が何回か着信が鳴り暫くとサタンが電話を取った。
『サタン?相談があるんだが…』
電話口のサタンは相談と言う言葉を聞くといつものハイテンションでは無く真剣に話を聞くモードに入った模様。掻い摘んで先程の出来事をサタンに伝える。サタンが、
『それホント?マジのマ?』
「俺がてめぇに嘘情報言っても仕方ないだろ?」
『それはそうだけど闇の狭間にシトリー本体が行ってないって事だよね?』
「そう言う事になるな」
『マジかー…シシリーってシトリーの愛称なんだよね。て事は本体が闇の狭間に行った訳じゃなかったってコト?有り得ないんだけど!?』
「どんまい。俺は見た事無かったから何とも言え無かったけど宴会に現れる時は幼めの姿だったのか?」
『そうだねー…オレも見た目変えれるけどシトリーが本体とドッペルゲンガーを使い分けてたなんて知らなかったよー?』
「今回の件どうするよ?」
俺は気怠げに問い掛ける。
『オレが天界に行っても良いんだけど本体を闇に葬るとしたら魔界の方が良いんだよねーてか、ヴィーナスが意外なとこで役立ったのに驚きだよー』
「それは同意。アイツは知らずに招いたみたいだがな。それなら力ずくで魔界に連れて行くしかないか?」
『出来るの?』
サタンが心配そうに聞いてくる。
「まぁ、少し無茶するけども何とかなるかと思うぞ?まぁ、任せとけ」
『ロキってば頼もしいー♪』
そうとなるとファントムとテレサの出番だな。
「取り敢えず諸悪の根源の豚にその執事に扮したシシリー…いや、シトリーを暗殺・隠密技術のある部下に任せるとするわ。捕まえない事にはどうにもならないし」
『あ、そっか。ロキには隠密部隊と暗殺部隊が付いていたっけ?』
「そういう事。平和ボケしてたけど魔族侮っていたわ…てめぇ含めな」
くつくつと笑うロキ。
『ちょっとロキー?オレってそんなに酷いヤツに見えるー?』
「いや、甦りの件はルシエラの所為だけどさ…見事に儲けの足元掬われたし」
『その分ポラ代あげたじゃんー』
「その件はマジでありがとな乙女」
甘味を含めて囁いてやる。電話口でサタンが悶絶してるのが手に取って分かる。
『一先ず情報だね。現状で分かる限りの事はコッチでもやっとくからロキはロキで頑張ってー』
サタンはそう言うとある程度なら協力を惜しまない約束をしてくれた。向こうの事情は随時報告するって形でだけどそれでいいと言う所で電話を切った。
さて、ファントムとテレサに暗殺手前の捕獲を神狼と犬神に情報収集の隠密活動をして貰わないといけないな。
現段階の作戦を思念伝達で伝える。内容としっかりと。
そんな遣り取りをしていたら老神龍と神龍がコチラを見ていた。
「どうした2人共?」
「呪いが解けた所でこの異物をどうするのかと思いましてな」
老神龍が作業しながら言う。コトリバコの事もあったんだった!
「解呪出来そうなのか?」
「老とボクに掛かれば後5分位で解けると思いますよ主」
神龍が微笑みながら応える。ソレ下界だと飛んでもない法力持ってる奴でも解けない代物なのにか?俺は心の内で感心していた。
「ありがとな2人共。んじゃこっちもその間に片付ける事は片付けとかないとな」
アトリエ内を一通り見て回る。老神龍と神龍はアトリエの端で作業してるからその邪魔をしないように書類に目を通す。神狼と犬神の反応待ちなんだよな今。
数分後。アトリエに神狼と犬神が来たようだ。