神様、海の秘宝
ファントムの話が終わりその場はお開きとなった。俺は老神龍と神龍が居るアトリエに向かう事にした。セーレはガゼボでお茶をしに、ルシエラは裁断室に戻るとの事。
ファントムに幾つか質問しながらアトリエに向かうと直ぐに着いた。バックヤード側から入ったのだが気配で老神龍と神龍は気付いていたのかチラリとコチラを一瞬見てから作業を続けていた。
「ファントム俺の仕事は?」
そう言うとファントムはアクセサリーを8点程持ってきた。殆どが贈り物なんだけどそこにひと工夫アレンジする事が俺のアクセサリーの売れる秘訣。
「ファントムー?取り敢えずA-01のアクセサリー出してくれねぇか」
「はい、コチラに」
「太陽の欠片の宝玉のペンダントか…これの依頼主は誰だっけ?」
「コレー様の母君様のデーメーテール様からで御座います」
ん?何か引っかかったので聞き返す。
「え?聞き間違えでは無く?」
「コレー様の母君のデーメーテール様で御座いますよ?」
「コレーの姐さん冬しか天界来れないのに何で春を呼ぶアクセサリーを所望するんだ?」
太陽の欠片の宝玉は念じれば春の期間が延びる仕掛けのあるアクセサリーだ。
「それが注意書きがありまして反展術式を施して欲しいそうです」
「あー?アレンジをそう使うか…コレは違う商品にするべきだ。Luna series 555取ってくれ」
マスターキーをファントムに渡す。ファントムは直ぐにショーウィンドウから商品を取り出して献上してくる。
「コレは月の欠片の宝玉。まぁ、簡単に言うと太陽の欠片の宝玉の真反対効果のある奴」
ふむふむと理解してるファントム。
「コレだけでさっきの、太陽の欠片の宝玉は必要ないって事。まぁ、デーメーテールさん余っ程コレーの姐さんと少しでも居たいんだろな」
「それが親の情というものですか旦那様?」
「俺親居ねぇから分かんないけどな」
はははと笑うロキ。
「そうで御座いましたね…我々が親の役目を果たそうとしたくらいに孤独を感じていらしてましたしルシエラ様が居らしても虚無の様な複雑な状態でございましたから私共には到底理解の出来ない領域に居たのだと察しておりました」
それは違うなとファントムに言う。
「俺はガキの頃はファントムとテレサが息づいているの知った時は感涙したんだけどな。偽りだとしても父親のファントム、母親のテレサ、姉の様な妹の様なイヴやキャリー、ミアとノイアーが息をした時は本当に感動したんだ…照れくさいんだけど爺よりも父親って感じがしてて嬉しかったんだぜ?」
「恐悦至極で御座います。それよりも作業は推測でどれ程掛かりますか?」
「んー?書類と照らし合わせて無意味な要望はさっきみたいに違うのを勧める様にするだけだな」
「畏まりました」
ファントムはお辞儀して窓際の席で書類仕事を再開した。
「ある程度の依頼は終わりと。後は…げ!またかぁ」
書類をひらひらさせながら机に突っ伏す。爺の書類があった。第一夫人の貢物に何かチョイスしてくれって内容。
「爺も懲りないよなぁ…」
椅子の背もたれにもたれかかって伸びをする。まぁ、前の機嫌取りか何かだろ。そもそも第一夫人は着飾るのがそんなに苦手なのに貢ぐ必要性あるか?良いんだけどさ。
「ファントムの意見も聞きたいんだが爺のセンスはボロボロだから第一夫人に似合うものって何だと思う?」
「私共には計り知れません。旦那様がお選びにならないのですか?」
「俺のチョイスだとあからさまに裏があるって思われてるんだよな」
「そうですか…難しい問題ですね」
コレは後に回そう。他のに取り掛かりますかね。取り敢えず爺の依頼は後回し。その前にポセイドンのおっちゃんの海の秘宝でも手直しするかな。
「ファントムー?老神龍が持って帰ってきた海の秘宝は何処だ?」
「それでしたらコチラに」
老神龍が持って帰って来たままの梱包された箱を渡してきた。これこれ…えーっとコレは確かブルーダイヤとアクアマリンと海の秘宝で合成された球体がポセイドンのおっちゃんの三叉槍の先に付いてる奴を外して来たものだな。コレは海の気候を操れる様になっている魔道具だ。
箱を開けるとヒビが入った海の秘宝。おっちゃん無理やらかしたんだな…
「ファントム?コレは少しヒビが入っただけだから俺の手に掛かれば30分で直せるよ」
「畏まりました。他の案件も見ていますので旦那様は其方を優先なさって下さい」
許可がおりたので作業モードに切り替える。鼻歌混じりに海の秘宝を融解から凝固させたら直ぐに完成。
「ファントム、俺ちょっと商品の完成度見る為に裏庭に居るから何かあったら直ぐに呼んでくれ」
ひらひらと手を振りながらアトリエの扉をチリンと鳴らし開けて裏庭に回る。裏庭側のガゼボに着いた。球体を簡易的に付けた杖を天に翳して唱える。
「【汝応えよ。渇き大地に雨の恵みを…】」
杖を掲げる。するとパラパラと雨が降ってきた。あれ?確か中庭のガゼボにセーレとブライトが一休みしてるって言ってたような…思念伝達でセーレに問い掛ける。
『セーレ?そっち雨降ってるか?』
『あ、ロキ様!今パラパラとなら降って来ましたね』
『あ、じゃあ成功だなコレ』
『何かなさったのですか?成功って?』
『ポセイドンのおっちゃんの海の秘宝の試運転』
『そんな伝説級の代物まで扱われてるとはロキ様は凄いですね』
『伝説級なのかは分かんねぇけど爺…あ、ゼウス神な?あの人が使ってる杖も俺特製だぞ?』
『流石ロキ様ですね…もう感嘆の声しか出ませんよ』
『まぁ、サンキュー』
試運転は終わりと…アトリエ戻るか。アトリエの扉の鈴がチリンと鳴るとファントムはコチラを見遣る。
「ポセイドンのおっちゃんの海の秘宝は成功作だ」
「左様で御座いますか。流石は旦那様です」
「褒めてもなんも出ねぇぞ?」
「滅相もない。仕えてるだけで恐悦至極で御座います」
「そうか」
次は何に手を出そうかな。依頼にあったポセイドンのおっちゃん関係のメデューサの姐さんの貢物でも考えるか。
「ポセイドンのおっちゃん何が好きだったかな?てか、ポセイドンのおっちゃんにも正妻居なかったけ?」
少し頭に疑問符が飛び交う。ポセイドンのおっちゃんに嫁って居たっけ?記憶を探る…ハーデスのおっちゃんと違って嫁自慢しないからなポセイドンのおっちゃん。
「なぁファントム?ポセイドンのおっちゃんに嫁って居たっけ?」
「奥方様はご存命で御座いますよ?アムピトリーテー様で御座います」
「あ!あの人か!」
記憶にヒットした人を思い出す。
「居たわ…思い出した。何なら息子さん達の事も思い出したわ」
いや、妻帯者(子持ち)に貢ぐメデューサの姐さん大丈夫なの?いや、ハーデスのおっちゃんもエキドナの姐さんに狙われてるって言ってたけども…いや、エキドナの姐さんタルタロス行きにされたっけ。何?皆嫁GETした上にモテ期続いてる訳?
「なんか俺切なくなってきたんだけど…」
ファントムは不思議そうな顔でコチラを伺っていた。
「旦那様もルシエラ様とご結婚なされましたら…いえ、今現在でもモテて居らっしゃるので切なくなる要素がありませんが?」
え?モテてんの俺?
「俺ってモテてるのか?」
「昔から今現在に至って進行形含めモテて居らっしゃると思いますが?」
「それってサタンとか入れてるのかもしかしなくとも?」
「最上級の古参の顧客であんなにも分かりやすい方は居らっしゃらないと思いますよ?愛の女神のヴィーナス様も然りです」
アレもカウントすんのかよ。俺ルシエラ居てくれて良かったわ。