神様、作法
食事は滞りなく進んで空いていった皿を下げていくイヴ。そして食後の飲み物を皆に聞いていたので、それぞれがそれぞれの好きな飲み物を飲んで寛いで居た。食堂の左隣は厨房だが逆の方の部屋は普通にリビングを設置している。そこで各々ソファなり椅子なりに座り飲み物を飲んでいた。ソファに座るセーレに問い掛ける。
「セーレって誰から礼儀作法を学んだんだ?」
俺はリクライニングチェアで遊びながらイヴが焙煎からして入れてくれる珈琲をブラックで飲んでいた。セーレはダージリンティーのホットの様だ。
「ボクですか?そうですね…生まれた時からそれなりに礼儀作法は教わって居たので誰からと言う記憶が無いですね。そういうロキ様はどうなんですか?」
質問に質問が返って来てしまった。俺か…
「俺は本だけかな?見本て奴が居な…あれ?いや、居るわ」
何で忘れてたんだ…と思い出した記憶があった。ファントムだよ俺が礼儀作法を学んだ相手って。何で忘れてたんだ?いや、そもそもAIとゴーレムの掛け合いで出来た1号のファントムが食事の礼儀作法なんか知ってるんだ?元々闇の精霊だから食事も要らないよな?何でだ?疑問に疑問が募る。セーレは不思議そうな顔をして此方を見ていた。
「ちょい待った、俺も考えれば考える程に理由が分かんなくなってきたから本人呼んでみるわ『ファントム?今何処に居る?』」
『今で御座いますか?アトリエにて書類の整理をしていた所、老神龍様と神龍様が手伝いに来て下さった所で御座います』
『2人にある程度任せてもいいから食堂隣のリビングに来てくれねぇ?少し聞きたい事がある』
『分かりました。15分程掛かりますが宜しいでしょうか?』
『ん?影移動したらすぐ来れるだろお前?』
『いえ、任せる書類の説明が必要で御座いますのでその説明をしてから伺います』
『あ…そゆことね。了解、待ってるわ』
いきなり会話を辞めて空を見詰めながら思念伝達をしていたからか又してもセーレが不思議そうな顔をしていた。
「すまんすまん。疑問が膨れ上がっていったからな俺の礼儀作法を教えたであろう人物に思念伝達してたとこなんだわ」
あぁ、そう言う事かとホッとした様な顔をするセーレ。何でだ?
「いきなり空を見ながら無表情になるからどうしたのかと思ったんですから。ふふ」
「悪ぃ。癖なんだわ…え?無表情っていつも通りの顔だろ?俺自分で言うのも何だけど俺って表情筋死んでると思うぞ?」
そう言うとふふっと笑うセーレ。
「ルシエラ様と居らっしゃる時は表情豊かですよロキ様は。一途なのが凄く分かりますよ」
そうなのか?気にしたこと無かった。まぁ、いいか。
「俺の先生は後15分後に来るぞ」
「分かりました。それ迄一息ついておきます…それにしても天界ってぽかぽかしてて良いですね」
「基本的に天界は春の気候だからな…魔界は暗いし寒い事が多いもんな」
「そうなんです…いつもの癖でダージリンティーのホットにしたんですけどぽかぽかしてきてアイスティーでも良かったかなって思ってます」
「時間ある訳だし、別に次イヴ来たらアイス頼めば良いんじゃねぇの?」
「いえ、美容の秘訣として身体を冷やし過ぎるのも駄目なんですよ?」
「って言ってもな、この天候にこの気温ならアイスティーでも身体は冷えないと思うぞ?」
「まぁ、それはそうなんですけどね」
あははと笑うセーレ。まぁ、癖って中々抜けないもんな。
それから15分程。
影にファントムが居るのを察知するロキ。セーレとルシエラは俺について談笑していた。いや、何で俺について語り合ってんの?いいけど。
「俺の先生であろう人が来たから出しても良いか?」
セーレが出すってどういう事なんだろう?とこっちを見て居るが魔界の一件を思い出したのか、
「あ、もしかしてシトリーの件で影から出てきたあの紳士なおじ様ですか?」
と、察して聞いてきた。
「よく覚えてたなそいつだ。ファントム出ていいぞ」
影からファントムが綺麗なお辞儀をして現れた。
「失礼仕ります。何か御用がありとの事で馳せ参じましたが?」
「そうなんだよ…疑問が膨れ上がっていったからお前を呼んだんだよ。俺さお前から礼儀作法を学んだよな?」
ファントムは少し考えて口を開いた。ファントムは口を開く。
「旦那様、それは少し説明が必要で御座いますので先ずは話を遡って話しても宜しいですか?」
ん?単純な話じゃないの?
「構わないがどうしてだ?」
「それは旦那様の生い立ちや思想、育った環境が普通とは異なるからで御座います」
まぁ、確かに。子供で親元(爺)の元を離れて放浪の旅の時にファントムの素となる闇の精霊と契約して今のファントムが居るんだもんな。
「お前が話しやすい事でいいし、別に掻い摘んで話してくれても良いから話してくれ」
「畏まりました。先ずは旦那様は7歳の時にゼウス神様の元から去り旅に出ました。拠点となるここの屋敷に到達する前に私は旦那様と出逢い旦那様についてある程度聞き付いて参りました。まだ7歳でしたが大人びていたと…いうより大人でしたあの頃の旦那様は。聖霊であるルシエラ様と居らっしゃったからか考える事などが発達していたのだと思われます。そして拠点である此処でアトリエを開きました。その時はまだ10歳でしたが旦那様は経営者になったのです」
「そうだが、それが礼儀作法の話に関係あるのか?」
「勿論御座います。経営者になった旦那様を見ていて思ったのです。この方は下界で言う義務教育を受けてないと」
「あー、それもそうだったな」
セーレとルシエラはソファに腰掛けながら真剣に聞いてる。
「でしたら誰が旦那様に教育を行うのかと思ったのですが旦那様は優秀で在られました。1を聞けば10を知る…そう言う方でした。それならば私は知識を集め経営者としても神としても立派な方にしよう、誰にも引けを劣らない方にしようと試行錯誤していたので御座います」
「そうなのか…すまん。俺の力量不足だなそこは」
「いいえ旦那様?貴方は異常過ぎる程大人よりも完璧で神よりも神らしい存在でした」
「は?」
ポカーンとしてしまった。ルシエラとセーレが此方を見ている。
「でも、俺ってお前から礼儀作法を学んだんだよな?」
「えぇ、教えたのはひとつ。食事の礼儀作法のみです。そこから旦那様は10の事を学んだと言う事になります」
今度はルシエラとセーレがポカーンとしてしまった。え?どゆこと?
「え?何?俺ファントムから学んだのって食事の礼儀作法だけなの?」
「左様で御座います」
ファントムはそこでお辞儀をする。
「ロキ様規格外過ぎます」
とルシエラ。
「流石ロキ様と言うかロキ様だからそうなのかって納得もしてしまいますね」
とセーレ。
「ですのでロキ様の優雅かつ優美な所作は生まれ持った才能も相まった物で御座います」
「は?マジかよ…」
俺は溜息を吐いてしまう。つまりなんだ?俺はファントムから食事の礼儀作法だけ学んでその他はそれを基準に身に付けた礼儀作法って事だよな?それが周りを魅了してしまう程洗練されたものだって事だろ?
「才能ってスゴいですねロキ様…」
セーレが言う。ルシエラも続けて、
「ロキ様?私それ見倣うの無理ですよ」
顔の前で手を横にふるふると振ってる。
「まぁ、ルシエラにはテレサ辺りに礼儀作法の先生になってもらうように計らうから逃げるなよ?」
そうルシエラをウィンクを投げ掛けると涙目で項垂れていった。