神様、怪しい日々
部屋に案内したらセーレが満面の笑みになった。うわぁーって部屋をうろうろしてからベッドにダイビングしてる。
「気に入ったか?」
「素晴らしいお部屋です…ベッドもふかふかで良い匂いがします」
「それなら良かった…スムージーの材料とミキサー持ってこさせようか?」
「あ、お願いします」
ベッドから降りてぺこりと頭を下げるセーレ。
「此処天界だから魔素少ないけど身体は大丈夫か?」
セーレはうーん…と考えて、
「神気で息が少し苦しいですけど大丈夫ですよ」
「まぁ、聖域では無いからなまだマシなのも知んねぇな。それに此処って天界の鬼門らしいし魔界に一応近いみたいだからそれも相まってマシかも知んねぇかも」
「そうですね」
あはははと安心したかの様に笑い出すセーレ。
「そんなにアイツ迫って来んの?」
ちょっとギリギリの線から聞いてみる。
「執拗いですよホントに…サタン様が宥めても気にしないで迫って来るんです。逃げても逃げても追いかけてくるしもうどうしようかと思ってたらペルセポネ様が私天界に帰る頃ですけど一緒に参ります?って一言に一瞬ポカーンてしてしまったんですけど、あんな奴に付き纏われるなら最果てでも天界でも何処でも行こうと思ったくらいですよ」
はははと乾いた笑い声で応えるセーレ。アイツ魔界に堕ちてから質悪くなったな…天界に居た頃はただのナルシストな天使族だったのにな。
「セーレ今シェフ呼ぶわ…『イヴ、客間112にスムージーの材料とミキサー持ってきてくれ』」
『畏まりましたわ。御要望はどんな素材が良いか申されていましたか?』
『柑橘系だったかな?』
『承りました…直ぐに参りますわ』
「セーレ?シェフ来るってさ」
「え?!もう連絡したんですか?」
「勿論。柑橘系で良いんだよな?」
「えぇ。もう作り慣れてるんで♪」
コンコンとドアが鳴る。イヴかな?
「入って良いぞ?イヴだろ?」
カチャリとドアノブを回して入って来たのは案の定イヴだった。
「旦那様コチラにご所望のスムージーの材料と専用のミキサーになります」
カートを押して入ってくるイヴ。へー、スムージー用のミキサーって初めて見たや。氷使って作るのか…
「セーレ様ですわね?コチラとコチラ組み合わせると健康にも肌にも宜しいですわよ」
と果物とケール?とかを見せていってるみたいだ。俺は専門外なのでパス。
暫く話し込んでからセーレの朝食用のスムージーの材料は決まった様だ。
「んじゃ、渡したアクセサリーについて説明すんな?」
と、セーレとブライトに付けた呪具と解呪のアクセサリーの説明をする。
簡単な事なんだけどこれ説明し忘れるとマジで死ぬから危ない。いや、ルシファーなんか死んでくれても良いんだけどさ。質悪いし。
取り敢えず初めに呪具の方の説明をした。ニコイチなのはこれがふたつで反応するからだ…確かカップル用なのが元の呪具だった筈。解呪の方は呪具が作動して赦しても良いと判断した時のみに使用する鍵の様なモノ。事細かにあーだこーだ説明してたらいつの間にか夜になってた。
「セーレ?もう今日は疲れただろ?取り敢えず休んでおけばいいさ。そのアイテムはある意味無敵なんだし」
うつらうつらしていたセーレはそのままベッドにぼふんと倒れ込み、
「そうですね…ロキ様の顔も見れた上に執拗に追ってくるルシファー様も居ないしどっと疲れが来ました」
「そうか」
ベッドに倒れ込んだセーレに寄り添う様にブライトが飛んで顔の近くでキュイと一言鳴いて寝ようとしてる。
「まだ安全とは言い難いけど今日は寝とけ。連日追われて疲れてるんだろ?俺は部屋に戻るから何か遭ったりしたらブライトを通して思念伝達してくれたらいいから…おやすみ」
俺はセーレに別れを告げてルシエラと2人でセーレの客間を出る。
「ルシエラ…お前何か静かだったけど妙案でもあるのか?」
「いえ、ただ面倒な人が居るんだなと呆れてただけですよ?」
パタパタと飛びながら俺と一緒に寝室に向かうルシエラ。
「面倒臭いも面倒臭いよな。アイツ昔そこまで酷くなかった筈なんだけどな」
「何か切っ掛けがあったとかですか?」
「有りうるな。まぁ、今日はゆっくり休もう」
「はい!」
寝室に着いたのでいつも通りルシエラの膝枕ですぐ睡魔が来たのは言うまでもない。
さて、何も起きないまま3日経ちました。どうにもきな臭いんだけど?セーレはゆっくり出来て満足してるみたいなんだけどあのナルシストがここまで大人しいとは思えない。ルシエラの時も執拗かったしな。
一応セーレにルシファーが来たら反応する感知ネックレスは渡してるし俺は俺で管轄してる土地全部に神経を張り巡らせて瞠ってるけど反応はない。
「逆に怪しくね?」
と思ったのは昨日の晩餐の時の事。ルシエラとセーレと食事してた時に意見交換をしてたんだがやっぱりアイツの性格上大人しくしてるのは可笑しいって結論に至ったんだよな。いや、ホントに可笑しいんだよ。
セーレが一言。
「ルシファー様の執拗さは魔界一ですよ…何ですかあの人?蛇の生まれ変わりですか?」
ルシエラが一言。
「あー、私はあまり知らないんですけど無駄に攻撃的な人ってイメージですね」
トマトのポタージュを飲みながらホッとしてるルシエラ。
俺も一言。
「アイツ…セーレが姿消した所で諦めるような奴じゃないと思うぞ?」
その一言で皆大きな溜息を吐く。
「てか、ルシエラはそもそもあんま面識ないんだよなルシファーと…魔界降りた時攻撃されて見えてなかった筈だし」
シュンとしたルシエラが言う。
「そう…ですね。ロキ様が攻撃対象になったのに脊髄反射で反応しただけなのでお姿は見てませんね」
ルシエラは俺の盾でも矛でもあるから護衛しちゃったんだろねあの時多分。すまん、ルシエラ。情けない主人だな俺。
「俺のせいで大怪我させたもんな…ゴメンなルシエラ」
その言葉を聞いたルシエラは首を横にぶんぶんと振る。
「いえ!ロキ様に怪我がないのが私の誇りです!守らさせて下さいこれからも」
満面な笑みを向けてくるルシエラ。ホントにいい子に育ったなー。
「ありがとうルシエラ」
コホンと気まずそうに咳払いするセーレ。
「それよりもこれからどうするんですか?ロキ様?ルシエラ様?」
んーーーっと悩むロキ。いや、来ないとは思ってないけど来ると来るで面倒臭いなぁって顔に出してしまってたのかセーレがびっくりした顔でコチラを見てきた。
「来るのは来ると思ってるんですねロキ様は?」
セーレはそれだけ言うと静かに俯いた。
「十中八九来るだろうさ…ただ、何を考えて間を開けてるのが分かんねぇって所」
「そうですか…おいでブライト」
キュイーと鳴きながらセーレの隣に移ったブライト。喉をキュルキュル鳴らしてる。
「もし…もし来るとしたら対策はボクに任せてくれませんか?バックアップはお願いしたいんですが」
「構わねぇよ?バックアップの内容は?」
「この敷地内全体を限定解除の聖魔結界で覆って下さい」
「あー…了解。ルシエラは俺と見守っておこうな?」
こくこくと頷くルシエラを見遣り食事を終える。