神様、新たな職業
神龍が嬉々と変化を繰り返しながら神狼と犬神の2体に人体化を教えていっていた。俺は後の事は任せてテレサにお茶のお代わりを注いで貰いながらルシエラを見遣る。神狼と犬神の間でもぞもぞと起き出してきた。
「んう?ロキ様…?何してるんですか?」
「あぁ、起きたかルシエラ?今神狼と犬神が人型になる練習してる所かな?」
「え?この2体は人型になれないのですか?」
「階級が低いからまだ人型になる事が出来ないんだよな。会話も出来ないから思念伝達で話しかけてやってくれ」
「それだと神狼と犬神も変化出来ないのですか?」
「あぁ、そうだが?」
ルシエラはふと美少女化している神龍に目を遣る。
「彼女は…誰ですか?老神龍さんは分かりますけど…」
あぁ、説明してなかったな。
「神龍だぞ?今は美少女になってるけどね」
パァーっと明るくなるルシエラ。
「神龍さん女の子にもなれるんですか!!」
「ルシエラ様おはようございます。ボク訓練してやっと両性になれるようになったので…それで今神狼さんと犬神さんに人体化の変化を教えていたんですよ」
「可愛い…」
ルシエラがぼそっと呟く。
「本当に神龍さんですか?」
「あぁ、こちらの姿を見せたら分かりますかね?」
神龍は銀髪ツインテールの美少女から銀髪の前に見た美少年に変化した。
「わぁ…凄いです!!」
ルシエラが感動している。
「ボク、主の元で接客していた時に臨機応変に対応出来る様に頑張ったんです」
くるくると回る神龍。その周りをパタパタと飛んでいるルシエラ。目覚めたルシエラに合わせてか神狼と犬神が欠伸をしていた。
「でも、神龍さんて変化しなくても中性的な気もしますが?可愛い男の子だからかな?」
「あはは。それは褒めているんですかルシエラ様?ボクは性別を越えて見たかったんですよ…まぁ、主の元でサタンさんを見ていた時に思ったんですけどね?」
ルシエラの表情が変わる。
「あのあほな御方を思ってするなんておかしいですよ?神龍さんは神龍さんらしく居てください」
うん?ルシエラ?お前はアイツの事を認めてるのか認めてないのかどっちなんだ?不思議に思う時があるんだが…
「取り敢えずルシエラ?眠気覚ましに珈琲飲まないか?」
此方の提案に乗ってくるルシエラ。
「テレサさん!ミルクとシロップ沢山でお願いしますね!」
注文するとテレサは珈琲の準備をしに行った。
中庭が老神龍と神龍、神狼と犬神とその番で狭い。なので老神龍と神龍には取り敢えず人型に留まっていて貰う事にした。
そういえば此奴等何食うの?ふと気になった事を老神龍に問いかける。すると老神龍は、
「主よ…今更な事を聞いてきますな。我等は主と同じですよ?」
俺と同じ?魂を喰うのか?昔の伝承とかでも生贄とかの話あるもんな。
「多分…主の思っている事は分かるのですが、我等は生贄など好みませぬぞ?」
ん?じゃあ、何であんな伝承とか残っているんだ?
「俺は不思議に思うんだが…伝承とか残っているのって大概意味あるよな?」
「それはそうですが…アレは勝手に下界の者が勝手に思い込んでやっていた事ですぞ?我等にそんな高々1つの魂で雨乞いやらを望んだりする方がおかしいのですからな」
確かに。神狼と犬神も魂かなぁ?って考えていたら老神龍に見抜かれたのか、
「狼と犬の小僧は違いますぞ?」
「え?!違うのかよ?」
「無論。どの位の者からかは分かりませぬが虎の小僧以下の位の者はそれぞれの動物が喰らう物と同じ物を食べますからな」
ふぉっふぉっふぉっと笑うロマンスグレーな紳士。はぁ…俺もまだ分からない事だらけだな。チャイを一口飲む。
人型になった神龍は性別と衣装も変えながら神狼と犬神に訓練を続けていた。
「そこ違いますよ!!もっとイメージを固めないと直ぐにボロが出てしまうんですから」
と神龍は言う。でも指導が的確なのか神狼と犬神は殆ど人型に近い。耳と尻尾は仕方ないとしてもほぼいけるんじゃないのかって思うくらいだ。
「あと少しですよお二方!!」
そう言えば老神龍も神龍も鳳凰も麒麟も自身の気を衣装に変えてるんだっけ?神狼と犬神が一糸纏わぬ恰好なので思い出した。ルシエラが神狼と犬神と戯れてて見てないのが救いだった。
「神龍?待て。服の具現化も教えないと裸族だぞ此奴ら」
あっ!!と気付いたかの様な顔をした神龍。
「そうでしたね…服のイメージって個人の好みですからねぇ」
神龍が悩んでいる。この2体が人体化出来て耳と尻尾が残ってしまうことに悩んでいるのか気を服に出来ない事に悩んでるのか俺には分からないんだが。神龍は何かいい案は無いかと老神龍に目を見遣る様だが老神龍は首を横に振る。
神龍は思い切って主に聞く事にした。
「主?この2人の役目はなんですか?」
神龍と老神龍には情報収集等の指令がある。それなら彼等にも何か役職が有るだろうと踏んだ神龍。
「この2体のメインは隠密だ。嗅覚や聴覚に優れ俊敏だからな」
成程。と呟いた神龍は、それならとある程度イメージがついたのか自分の気を2体に少し送る。すると狼耳と尻尾の神狼と犬耳と尻尾の犬神が忍装束の様な出で立ちになった。
2人は自分の服をキョロキョロと見て尻尾が横に揺れた。喜んでいるのだろう。
『『主!!姿鏡はないですか?!』』
「お前等…人型になってるんだから思念伝達じゃなくても話せるだろ?」
『『あ!!』』
「あー…あー」
神狼がハスキーな声で発声練習している。
「あきさかな」
犬神も謎な発声練習をし始めた。声は神狼より高めかな?そして2体は見合せて、
「「話す事が出来ます主!!」」
とハモった。そして希望通り姿鏡を見せるためにアトリエに行く事にした。神龍と老神龍も人型のままで付いてくる。
「着いたぞ」
俺はアトリエの扉を開ける。チリンとドアベルが鳴るがルシエラは中庭でお茶をすると言うので、誰も居ない静かな空間がそこにはあった。
「神狼、犬神。鏡はそこだ」
アトリエの隅にある大きな姿鏡を指す。一応コレは全身コーデした時に見る用の鏡だ。結構大きかったりする。
ほぼ人体化している2人は鏡の前でまじまじと姿を見ていた。そしてくるくる回る。
「どうした?不満なのか?」
2人はピタリと止まり此方を見た。
「いいえ!!とても素晴らしいので魅入っておりました!!」
と神狼。
「私もです主!!」
尻尾をブンブン振り回しながら言う犬神。
「神龍?アレってもう馴染んでるのか?」
「えぇ…主。少し気は送りましたが、もう送らなくても馴染んでるので今後変化してもあの姿ですよ?」
「そうか、良くやってくれた。何か褒美は要らないか?」
「とんでもない!!主の命令に従っただけなので!!」
「そうか」
神龍と老神龍は従順だがあまり欲が無い。命令も此方の意図も汲み取ってくれるのは助かるんだがな。何か申し訳無いんだよなぁ…
逆に鳳凰とか麒麟辺りだと見返りが怖くて嫌なんだよな。
隠密姿に染まった2体を横目にアトリエにある書類に目を通す。ふむ。特に急な仕事はなさそうだな…