神様、帰還
出立の日。
ロキは身支度を済ませてルシエラと共に朝食を取りに行く。大広間に着くとサタンが不貞腐れて机に突っ伏していた。
「もう少し滞在しててもいいじゃんー?てか、また酔い潰れてるヤツだらけだよ」
「てめぇらは相も変わらず…まぁ、ザガンやダンタリオン達に回復薬作りは任せてるから平気だろ。それと、俺の本来の目的は遺跡だぞ?」
「彼らには頑張って貰うよ♪それでもさー…もう少し居てよー?」
「グダグダ言うなよ。また来てやるからさ」
「ホントに?!」
ガバッと起き上がるサタン。そんなに俺の事好きなのかねぇ。
「次はちゃんと来るって約束してやるから…所でサタンは魔石要るのか要らねぇのかどっちだ?結構捌いちまったんだけど」
「あー、あれ。俺は残ってる分全部買い取るつもりだから幾らでもイイんだよね♪」
「俺の分が無くなるだろ?」
「そこは商人の腕の見せ所じゃないの?」
「ちっ…相変わらず足元見るの上手いよな。天界へ戻ったら暫く篭ってすぐ補填するから良いけどよ。んー、300個で良いか?」
「充分!幾ら?」
「サタンは古参だし聖金貨500枚にしとくよ。今回の遺跡の礼も含めてだ。そういえば黒龍はどうしたんだ?」
「彼?彼は今は送還してるよ?何か用?」
「いや、偶にダンタリオンとザガンの稽古相手にと思ったんだが…あれ以上強くするのは禁止だったか」
苦笑いを浮かべるロキ。対してサタンは少し複雑な表情をしていた。
「多分ねー、黒龍と対等に戦えるの彼らか鬼姫と屍鬼くらいなんだよねー」
「あ。鬼姫と屍鬼の初物頂いたの?」
ぶはっと吹き出すサタン。
「まだに決まってるでしょ!!ロキってばもう!!」
「へいへい。悪かったよ王様」
そんな会話をしていたら皆が大広間に集まってきた。アモン、ダンタリオン、ザガン、セーレ、アスモデウス、バフォメットだった。皆顔色が良い。回復薬の効果かな?そうこうしていたら次女達が朝食を運んで来る。円卓は元に戻されていたのは言うまでもない。本当に出来た次女達だよな。ルシエラと席に着き朝食を頂く事にする。前もってマモンには日本食が良いと伝えていたので俺のだけ浮いていた。味噌汁…あー…出汁取れてねぇよコレ。味噌溶いたただの味噌スープだなコレ。イヴの料理が恋しい。白米も炊き加減が微妙な…炒飯向きだよコレ。まぁ、作って貰ったから文句言わずに食うか…
「なぁサタン?そういえば、見送りしてくれるのか?ないなら適当に挨拶済ませたら飛んで行くぞ?」
「見送るに決まってるでしょ!次来る時は連絡くれるんでしょ?」
「アポ無しで来る訳ねぇだろ?ちゃんと連絡入れるわあほ」
「その時にさ手土産欲しいな♪」
「例えば?」
味噌スープを飲みながら聞く。
「何でもイイよ」
満面の笑みでコチラを見るサタン。
「うわ…一番困る返答。まぁ、何か考えておくわ」
食事も終わり、ダンタリオンとザガンに完全回復薬のレシピを追加で渡しておいた。前の戦いみたいにならないようにな。ザガンは一瞬身震いして「私が予備まで作っておきます」と言っていた。セーレにも挨拶をしておく。ブライトに少し力を与えたので直ぐに大きくなるだろう。
後の人達に挨拶は良いか。皆でぞろぞろと玄関先まで向かう。サタンは黒龍と鬼姫と屍鬼、そしてウィル・オ・ウィスプを召喚していた。
「ロキ、ありがとうね。オレ使い魔一気に増えたケド、何か怖いもの無しになったよ」
「それは良かったな」
黒龍が口を開く。
「ヌシのお陰で新しい主、古き友人とも出逢えた。感謝する」
「俺は老神龍を出して提案しただけだけどな」
「それでもだ。ありがとう詫びも含め感謝する」
次は鬼姫と屍鬼が揃えて言う。
「「御前様のお陰で主様とも無事に出逢えたでありんす。ありがとうございます」」
「良いって。それよりも早く手解き受けとけよ?」
「そうでありんすね」
笑う2人。それからウィル・オ・ウィスプを見るとファントムと話してた。久しぶりに逢うんだもんな、最後はそっとしておくか。
話し終わったのを見計らって術を発動させる。
「それじゃあな。また今度来た時に逢えたら逢おう」
んじゃなと手を挙げたら、しゅんとその場から消えて居なくなるロキ達。サタンはもの寂しげに見送った。
天界への屋敷に着いたロキ達一行。ファントムは直ぐ様テレサと留守の間に何も無かったのかを確認。ルシエラはイヴの所へ。俺は工房に篭もって魔石の補填をする事にした。
帰って来てから1週間程経った。
俺は相変わらず工房で魔石の補填をしていた。偶にルシエラが探しているとファントムから聞いて、その都度サロンやガゼボでお茶をしながらルシエラから何があったか等の定期報告を聞いていた。
そんなこんなで魔石は大量にストック出来た。そして今久しぶりに玉座の間に座っているロキ。
ルシエラは隣で立っている。パチンと指を鳴らすと跪いて待つ住人達。ファントムが先ず口を開く。
「此度は何の御用でございますか?旦那様、奥方様」
「この前の留守で思ってたんだが…定期的に魔力供給しなくてもいい様にコレを各自持たせる事にした」
魔石の入ったポーチをファントムに取り敢えず渡す。刺繍を入れているので誰の物か分かるようにしている。Phantom、Teresa、Eve、Carry、Noir、Mia…各自の名前を確認しそれぞれ好きであろう色と形、便利性を計ったポーチになっている。ファントムの物は黒のシックで書類やペン等も入るくらいの手持ち鞄。テレサは淡い色の肩掛けタイプの鞄。イヴは白のベルトタイプのポーチ。キャリーは浅葱色の一番簡素なポーチ。ノイアーとミアは色違いのパステルカラーのリュック型。
それぞれ中には50個の魔石を詰めているが余裕を持たせるため収納袋の機能も持たせてる。一般的な一軒家くらいなら入るだろ。
「各々良く使う物などを入れて持ち運ぶが良い。魔力が切れかけていたら手足の痺れが来るだろ?その時にコレを割る」
ロキは収納袋から魔石を取り出しパキンと割る。霧散する金色の魔力。ファントム、テレサ、イヴ、キャリー、ノイアー、ミアが身体を見て回る。
「旦那様…コレは素晴らしい」
ファントムが口を開く。鬼姫と屍鬼の魔力供給で得たアイデアなんだよなコレ。一度しか試して無かったからやってなかったんだけど、コレだと俺が留守でも皆が魔力切れになることは無いだろ。
「流石は旦那様でございますわ…私はすぐに魔力が切れやすいので安心致しましたわ」
イヴも言う。イヴは常に料理の仕込みやレシピを覚えたりとファントム級に働いてるからな…殆どルシエラのせいで。
知ってか知らないでかルシエラはそっぽ向く。気付いているなコレは。
「ルシエラ…偶には食事の回数減らせ」
「えー!!何でですか!!」
「イヴを過労死させる気か?」
「うっ…」
俺は偶に食べるだけで済むし食べなくても別に平気なんだが、ルシエラは食べる事が幸せみたいで新しいレシピを見付けてはイヴにおねだりしていたからな。
「イヴにも休息は必要だ。ルシエラには纏めて提供しても構わないからな?」
「畏まりました」
ぺこりとお辞儀するイヴ。ルシエラは膨れている。
「ルシエラ…我慢て言葉覚えような?まだ収納袋に食事あるだろ」
「そうですけど…」
「なら文句言うなよ?後イヴのコレクションの皿は返してやれ」
「はーい」
渋々了承したルシエラ。本当にこの子は…あ、そうだ。
「ファントム?依頼の方はどうだ?」
「優先順位を付けてアトリエに纏めておりますのでご安心ください」
「流石だな」
ふっと微笑むロキ。天界へ戻って来て工房に引き篭ってから出るまでずっと神様状態だったから暫く休みが欲しいがそうはいかないな。アトリエに向かうとするか。手を挙げると皆は下がって行った。
久しぶりの屋敷なので休息したいんだけどなぁと思いながらアトリエに向かうとカウンターの上に思いの外仕事が溜まっていた。
「ファントム〖ある程度〗纏めているんだよな?」
「左様でございますが?」
「それにしてもこの量はないだろ」
溜息吐きながら書類の山を見る。まぁ、乗っかかった船だし仕方ないか。
こっちの書類はまだ余裕があるな。コレは魔界でも見たポセイドンのおっちゃんの奴か…すぐ出来るな。
ルシエラが不思議そうに此方を見ていた。
「どしたルシエラ?」
「そんなにひょいひょいと仕事って分類出来るモノなんですか?」
「そんなことないぞ?難しいのはマジ勘弁て感じのもある」
「私に出来る事ありますか?」
「今の所ファントムと俺で捌けるから平気だ」
「そうですか…お茶でも注れてきますね」
パタパタとバックヤードに飛んでいくルシエラ。書類に目を通していく。
「流石だなファントム。仕事が完璧だ」
すると紅茶を持って来たルシエラ。
「ロキ様程々にしてくださいよ?疲れて倒れても知りませんから」
「心配してくれてありがとな…すぐ終わらせる」
書類に目を通して早速仕事を始める。先ずは風牙と雷牙の贈り物用の指輪だな。次にポセイドンのおっちゃんの海の秘宝か。まぁ、すぐ出来るだろう。ファントムに話しかける。
「ファントム。風牙と雷牙の来店はいつだ?」
「帰って参りましてから直ぐに連絡致しましたので直ぐに参りますかと」
そうか、そうなるとルナとアルテミスも連れてくるのか?あの2人来たことないからサイズ分かんねぇし。
「此方からも連絡してみる」
「御意」
兄の方の風牙に連絡するか…どうせ雷牙と一緒に居るんだろうし。携帯を出して連絡する。
プルルと無機質な音が何回が鳴るとカチャッと取ってくれた。
「もしもし?風牙か?雷牙も一緒に居るんだろ?こっちいつ来れそうなんだ?後、ルナとアルテミスも連れてくるんだよな?」
『あ、ロキさんお久しぶりです。随分と質問攻めですね。今雷牙と居ますよ?勿論ルナとアルテミスの予定が空いている日…明日の昼に伺う予定です』
「そうか。プロポーズはしたのか?」
『ちょ!!恥ずかしいので聞かないでくださいよ…ちゃんとしましたよ。それでロキさんの所の指輪を贈るって言ったら、それは大変喜んでましたよ』
「どっちがどっちにプロポーズしたんだ?」
『僕がルナを雷牙がアルテミスをです』
「つーか、付き合ってたの知らなかったわ」
『ライバルの多い御二方なので伏せていたんですよ…』
「俺にくらい言ってくれてもいいじゃん…まぁ、明日の昼ね。了解」
『あ、シンプルかつ豪華なモノを頼んでも良いですか?』
「お前発言矛盾してんぞ?まぁ、大体サンプル画書くから選んで貰う式にしてもらうけど」
『ありがとうございます。流石ロキさんですね。此方も奮発しますので宜しくお願いします』
「はいよ」
プツッと携帯の終話ボタンを押す。次はポセイドンのおっちゃんか…海だと携帯繋がんないからなぁ。使い魔を取り出す。ペンギンみたいな可愛らしい使い魔だ。使い魔がピーピーと鳴く。すると何回か鳴いた後におっちゃんの声がする。
『小僧か?』
「俺の使い魔なんだから俺しか居ないっしょ」
『それもそうだな…して何用じゃ?』
「いや…おっちゃんが用あるんだろ?ボケたのか?海の秘宝がヒビいったとかなんとか」
『そうじゃそうじゃ。この前酔って陸地で振り回したら割れたんじゃ…そのせいで海も荒れて周りの騒動が止まらんのじゃ』
「おっちゃん酒癖悪ぃもんな…俺の神獣に現物取りに行かせても平気?」
『秘宝が割れたせいで多少海が荒れるだろうが構わんよ。して、どの神獣が来るのかね?』
「おっちゃんも顔見た事ある老神龍だよ」
『アイツか…うむ、了承した』
「明日にでも向かわせるからおっちゃん呑まないでくれよ?」
『分かっておるわ』
「じゃーねー」
ペンギンがスリープモードになった。コレで後は明日に備えるだけだな。ルシエラは此方を伺っていた。
「どした?ルシエラ」
「ロキ様…なんでそんなに使い魔居るんですか?私知りませんでしたよ!」
「ルシエラって興味無いモノには無関心じゃん?普通に今まで居たよ?」
「むー」
ルシエラが膨れっ面になる。
「ルシエラも使い魔か神獣遣わせてみるか?結構便利だぞ」
「私に出来ますかー?」
「いけるいける!取り敢えず今日はもう寝よう…疲れたわ」
「そうですね。湯浴みして寝ましょう」
ルシエラに促されるまま浴場に行き夜着に着替えて寝る。相変わらずルシエラの膝枕は気持ちが良い…すぐ睡魔が来た。