神様、ぶつける想いと覚悟
ルシエラはグッと胸に手をやり思いの丈を吐き出す。
「た…確かにショック受けたよ!何で知識豊富なのに記憶障害なのかとか翼が生えてるのとか眼とか髪の色も珍しいのとか衝撃だらけだよ!!」
そう言うと何故か涙がぽろぽろ流れて来て彼が泣きじゃくる私の涙をハンカチで拭う。
「でもなんで?なんで貴方の事お慕いしているのかが分からないの…なんでこんなに衝撃的な事だらけなのに貴方を信じれるの?創造主だからなの?」
ひたすら泣きじゃくりながら無駄だと分かっても彼の胸をぽかぽかと力無く叩く。
彼は何も言わずにぎゅっと抱きしめてくれた。
私が少し落ち着いたのを見計らって彼は言葉を紡ぐ。
「確かに創造主だから反抗は出来ないのかもしれない…でも、俺はお前がお前のままで居られる様にそこまで手を加えてない。ルシエラ…賢いお前なら名前の意味が分かるんじゃないか?」
見据える様に向かい合う。
「ルシ…エラ…の意味?名前?ルシ…贄?でも、ルシには他の意味もあった様な…もし漆黒の天使ルシファー様からだとしたら、今は堕天して魔界の王かその側近だよね?」
「流石…俺の全てを捧げた最高傑作だな。ほぼ当たりだ。昔にルシファーがルシフェルの頃に羽根を抜く悪戯をした事があるんだよ。ルシフェルは天界でも随一の美しい天使だった。だが魔に堕ちし者。アイツは男だったから興味なかったんだ。だがある時、ホムンクルスを作ろうとおもった時にふと魔界に落ちたアイツの羽根に疑問を思ってな…そこから研究と引きこもりだ」
ルシエラはそこで疑問点が出た。
「でも、私は天使族でも魔族でもないんでしょ?ルシフェル様の遺伝子情報なら天使族になるんじゃ?」
その言葉を聞いて彼が、
「良いとこに目が付いたな。そこは俺の全てを捧げたって言っただろう?神はほぼ不死身なんだよ。大抵の傷はすぐ塞がる」
私がぽかんとしてると彼が言う。
「『だからルシエラ…お前はぼぼ俺でもある』この言葉の意味が分かるか?」
言われて私は気付いてしまった…彼とほぼ同じその意味に。
「遺伝子情報を殆ど弄ってるとしても主体性は貴方…だからなの?」
ほぼ正解とでも言う様に頭を撫でてくれた。
優しく撫でてくれるこの手を知っているような…そんな気もした。衝撃的な事があったけど、彼の言う事なら信じられる。例えどんな事があってもそう思える気がした。何かで繋がってるようなそんな感じ。
すると、彼が話の続きをしてくれた。
「そのせいでお前の記憶障害が起きる事件が起こったんだがな…ルシファーが気付いたんだよ。似せてねぇのに鼻が利く奴だ。アイツは少しばかり力があるだけ厄介だったんだ。瀕死のお前を救うのにいっぱいいっぱいだった。回復部屋に置いて何ヶ月もかかったくらいにな。だが、それと同時にやっとこれが出来た」
彼はローブの下の帯に付けてる魔法収納袋から錠剤と回復薬の瓶の様な物を出した。
「ルシファーの事だから記憶操作くらい容易いだろうと予想してた。お前の様子を見ながら合間に作ってた…コレを飲めば記憶は戻る。でも、ルシファーとの戦いの記憶の辛さと苦痛も思い出すかも知れない…だからお前が言うまでは置いておこうと思った自然治癒に任せようかと…でも、俺が辛くて耐えれそうに無いんだ」
彼はそう言うと私を抱き寄せた。彼との忘れてる記憶…
ルシファー様との戦いの辛さと苦痛…
忘れられる存在の意味。
彼は自分と自分自身でもあるような私の記憶の無い二重苦なんだ…
「…それ飲みます。私だけ知らないなんて嫌です」
そう言うと彼が一瞬だけ苦渋に満ちた顔をしたが直ぐにいつもの笑顔で「そうか…」と抱きしめてくれた。
「苦しかったら俺の肩を思い切り噛み付いておけ。抑えててやるから」
私はコクっと頷き錠剤を貰った。回復薬は彼が様子を見ながらタイミングで飲ませるのだと言う事らしい。
怖い…でも、好きな人の寂しい顔なんて見たくない。
腹を括った。ルシエラは受け取った錠剤をグイッと飲む。
すると飲んで直ぐに頭が割れる様な激しい痛みが襲いかかる。
そして身体中に痛みが走る!!
「うぅ!!…うぁ!!ごめんなさいぃ!!」
と泣きながら口を当てていた肩に思い切り噛み付く。
凄く痛い!!頭をかち割りたい!!全身に激痛が走る!!でも彼も噛み付かれて痛い筈なのに抱きしめて抑えてくれてる。
耐えなくちゃ…!!耐えなくちゃ…!!
何分…
何十分…
何時間経っただろう意識が朦朧としながら微かに痛みが引き、ルシエラの噛み付く力が抜けたのをロキは見逃しはしなかった。
ロキは直ぐに回復薬の瓶の蓋を開け口に含んでルシエラに口移しする。
回復薬の量は少なくないので一度では無く二度三度と根気強く飲ませる。
ルシエラが薄ら目を開けて…
「ロ…キ様…思い出しました…全部…全部…旅に出でた頃も培養液の中で会話してた頃からの記憶も…全て全部」
そう言い終えるとぐったりと倒れかかってきた。
「ありがとうルシエラ…」
と言うと一筋の涙がロキの頬を伝いルシエラの顔にポタリと落ちた。
泣かずの神の初めての涙だった。
その日はロキの部屋で寝る事にした。肩の傷は燕尾服の執事ファントムに魔法を掛けさせてメイド長のテレサにはルシエラの身体を拭かせたり着替えさせて貰い、用が終われば出て行かせた。
今はルシエラと居たい。
それだけだ。
以前まで普通に此処で2人で寝ていたのだ。独りでは広すぎるベッド…でも、もうルシエラが隣に居る。ルシエラは座って寝るのでロキはいつも膝枕で寝ていた…何ヶ月振りだろうか。
いつもの様に膝に頭を乗せると直ぐに睡魔が来た。ルシエラが回復部屋にいた数ヶ月は薬作りに必死だったから久しぶりの深い睡眠に落ちる。