神様、終宴
サタンが酔いが回復したから呑み直すと言うので、ロキも自身にも酒精を抜く魔法を掛けておいた。すると遠い席からちょこちょこ飛んで近付いて来た者が居た。確かシトリーだっけ?
「ロキ様…勝負素晴らしかったです。相手を思い遣り介抱までなさるとはホントに出来たお方ですね。ボク驚きました」
ん?何か妙に懐いてくるなコイツ。セーレがジトーと見ている。
「それはどうも。お前らの主がみっともない姿を晒してたらこっちが気分悪いだろ?」
「優しいお方なんですね…あ、ボクはシトリー。アスモデウスさんまでは及びませんが色欲を満たす魔族です」
「分かってるよ。俺は聞いたら忘れねぇんだから」
「そうだったんですか?!素晴らしい!!」
キラキラしてる美少年。
「これどうぞ」
とクッキーの缶を出してくる…ルシエラがピクンと反応した。
「クッキーか…普通のクッキーだよな?」
「勿論!何も盛ってませんよ」
ルシエラが物凄く見てきている。
「ルシエラ要るか?」
「料理に飽きていたので頂きます」
ルシエラが受け取り開けて食べている。シトリーの目に陰りが見えたが気にしない。シトリーは常に甘い物を持っているらしい。
「ボクは貴方達に興味が湧いたので話しかけに来たんです…素晴らしい容姿、記憶力、昨日はダンタリオンさんに打ち勝ち今日はサタン様に勝つなんて…万能過ぎて惹かれちゃいました」
えへへと笑うシトリー。セーレと違い裏表は無いみたいだな。セーレの方を見ると俯いている。シトリーの邪魔でもすると思ったんだがな…何でだ?
「あの、ボクも一緒に呑んで良いですか?」
あー、隣はルシエラでその隣にはザガン何だが…
「ルシエラ?俺の膝に座れ。シトリーはルシエラの席に座れよ」
「良いんですか?!やった!」
嬉しそうに微笑む美少年。ルシエラはパタパタと飛んでロキの膝にちょこんと座りながらクッキーを喰っている、セーレの耳にも聞こえたのか凄い顔して睨んでるんだが…まぁ、良いか。
「ロキ様は魔法とかにも長けてると聞きましたが…ホントですか?」
「あぁ、そんな話もう回ってるのか。一応な?そこに居るザガンやダンタリオンにも教えたぞ」
「例えばどう言った魔法があるのですか?」
んー…と考えて、
「さっきサタンにもした酒精とか睡魔抜く魔法とか…後は…シトリー手を出してみろ」
きょとんとして右手を出してくる。
「これとかも教えた」
シトリーに魔力を流してやる。
「『っ?!』」
ビクッとするシトリー。手を離しマジマジと見ている。
「さっきのは一体…?」
「あぁ、魔力の応用だよ。足りない魔力を補うな」
へーっと感心しているシトリー。シトリーは意外と魔力量が多いな…ダンタリオンより少し上かな。
「じゃあ、ボクも魔法とか使えるんですか?」
キラキラとこちらを伺う美少年。
「使えると思うぜ?意外と魔力量多いみたいだしな」
ルシエラの頬に付いた食べカスを拭いながら応える。
「何か教えて頂けませんか?」
きゅるんとしてる美少年。
「おいおい。此処大広間だぞ?宴会中に魔法ぶっぱなしてどうする?」
「では簡単なモノを見せて頂けませんか」
人差し指を立ててその指先に火種を灯す。
「うわぁー…無詠唱ですか?」
「イメージさえあれば詠唱なんぞ要らん」
それを見ていたサタンが真似をする。
「ロキー!オレも出来た♪」
流石王様だな…説明なしで出来たのか。パシャンと水を出して掛けてやる。
「あー!!ロキ酷くないー?」
「ボヤ起こす前に消しただけだ」
くつくつと笑うロキ。マモンがタオルでサタンの手を拭いている。シトリーはボソッと、
「イメージが大切…」
と零していた。
「1つ試してみたい事があるのでロキ様を観察してもいいですか?」
「別に良いが?何で俺なんだ?まぁいいけど」
マジマジと見ているシトリー…何の魔法使うつもりだ?
「観察完了です。ではイメージしてみますね」
ぽやーっと何かを型どっているシトリー。
ぶはっと吹いてしまった。
「おい、シトリー。何で俺を創り上げてるんだ?」
「好きなモノを思い描いて作れるか試してみました」
「だからって俺はないだろ!!」
溜息をついていると、サタンが興奮気味に近付いて来た。
「シトリー!凄い完成度じゃん!何これー!!」
「ドッペルゲンガーの原理ですよサタン様」
「シトリー…それ、サタンには教えるなよ?」
「え?何故ですか?」
「慰みものにされるのが目に見えてるんだよ!」
シトリーは純粋な悪だった。セーレが手を出さないのも分かるわ。善悪が分かるんじゃ無くて欲のままに動くのがシトリーなんだ。
キレさせたりしたらヤバいんだろな…多分。コレどうするんだろ…俺の分身体。
「シトリー?コレどうするんだ?」
「ボクのコレクションに加えます」
ニッコリ微笑む美少年…いや、悪魔。
「「コレクション?」」
サタンとハモってしまった。
「えぇ、美しいモノは手元に置いておきたいのですよボク」
ロキは愕然とした…とんでもねぇヤツだ!!
「『逆巻け円環』」
ロキがそう唱えるとロキの分身体がサラサラと消えてなくなった。
「あっ!!」
とシトリーが叫ぶ。
「俺はルシエラ以外に愛でられる趣味はねぇよ」
残念そうにしていたシトリーだったが、
「それなら仕方ないですね」
と微笑み返してきた。
コイツもやべぇよ!!魔界まともなヤツ少な過ぎたろ!!ザガンとダンタリオンがマトモで良かったわ…疲れた。
宴会も佳境に入っていった。
サタンが呑み直すと言って数時間経った…昨日と同じ状況じゃねぇかよ!!酔い潰れて倒れている魔界の住人達…正に死屍累々。アモンはまだ意識があるみたいだった。
「アモン…明日は大丈夫なのか?」
「主様は貴方から頂いたポーションがあるから平気でしょう。私も平気です…今日は主様に挨拶しなくて結構ですよ」
「OK。俺らは部屋で寝ておくよ…朝の時間は同じなんだろ?」
「えぇ…ロキ殿、ルシエラ殿お疲れ様です」
「あいよ。ルシエラ来い」
「あ、はい」
ルシエラをお姫様抱っこして転移魔法で飛んでいく。部屋に着くとファントムが書類と睨めっこしていた。
「ファントム、宴会終わったぞ」
此方に気付いてお辞儀をしながら、
「左様でございますか…旦那様は御休みになられますか?」
「いや?先に湯浴みをする…ルシエラ先に入るか?」
「そうしますー」
着替えを持ちパタパタ飛んでいくルシエラ。
「作業は捗ったかファントム?」
「左様ですね…難しい案件が幾らか残っているだけです」
「どれだ?」
書類を受け取る。ポセイドンのおっちゃんが杖の先の宝玉にヒビが入ったから代替品を求めるか…あれなんて宝玉だったかな。
あぁ、海の秘宝だ。サファイアと海の雫の合作だったな。
「コレはすぐ出来る…他は?」
「後は何故か武器の注文が何点か…」
「武器?聖戦までまだ先だろう?」
注文用紙を見ると…ザガンからだった。そんなにレベル上げしたいのか。
「ついでに経験値漏れしないアクセサリーも付けてやると書いておけ」
「畏まりました」
何か顧客増えたなぁ…まぁ、天界にまで買いに来るモノ好きはサタン位だろ。流石にセーレが来たら何か対処しよう。後、シトリーも。
その時、コンコンとノックの音が響く。
誰だ?マモンの訳ねぇしな。そう考えていると扉の向こうの主が問い掛けてきた。
「ロキ様?此方の部屋にいらっしゃるんですよね?」
ロキはピシッと止まった。シトリーだ…何で来てんだよ。
「そうだが何か用か?」
扉越しに言う。
「挨拶もせずに飛んで行かれたので…来てしまいました」
物静かな声が扉越しに響く。待て待て…何で部屋まで来る必要がある?!
ファントムが警戒態勢に入ったが目配せして解かせる。
「今ルシエラが湯浴み中だから部屋に入れる事出来ねぇんだわ…用件だけ聞く」
「そうですか…いえ、挨拶がしたかっただけですので失礼しますよ」
コツンコツンと足音が遠ざかって行く。なんだよアイツ…怖ぇわ。
この時シトリーの手には小さなロキの分身体が抱きしめられている事をロキは知らないままであった。
「ロキ様かぁ…あの見目麗しいお姿。サタン様より先に頂いても良いですよね?」
くすりと微笑みながら小さなロキの分身体にキスをするシトリー。
魔族は欲に忠実なのだ…欲しいモノは手に入れる。
関心のあるモノにしか惹かれない。魔族の王ですら手順を踏むのに新参者であるシトリーはそんな事を考えない。そう言う面でセーレはシトリーが大の苦手だったから何も言わなかったのだ。