神様、彼の名
彼はやっぱりかと言う様な顔をしていた。
「自分が何者なのかも分からなかったんだろ?」
私はこくりと頷きまじまじと姿鏡を見る。神秘的な感じがする…自分で思うのもなんだけど。
色々考えているとお腹がぐぅーっと鳴った。
彼はくすりと笑い、
「取り敢えずご飯にでもするか?あぁ、俺の事も分からないんだったよな?俺はロキ、ロキ・グングニール…槍の名前を持つ魔術師だ。運命の人を召喚したら君が来た」
ん?何か引っかかるけど食堂まで歩きながら話を聞く事にした。
私は天使族にも魔族にも人族にも所属していない稀な存在だと言う事。
漆黒の天使ルシファーとの戦いで瀕死状態に陥っていた事。
覚えてないから分からないや。そういえば広いお屋敷だなぁ…まるでお城の様だ。それよりも人の気配がない気がする。
「所で此処には他に人は居ないのですか?」
気になったので聞いてみる。
「居るぞ?逢いたいか?」
居るんだ!それは逢いたい!
「是非!!」
そう言うと彼は、
「それなら玉座の間に行くか」
ん?何で玉座の間に行くの?
「え?逢いに行かないのですか?」
そう問い掛けると彼がここの住人達は基本的に働いてるのもあり喚ばないと集まらないらしいと応えた。
彼について行き玉座の間に着いた。彼が玉座に座り、私は隣に立つ。彼が指をパチンと鳴らすと誰も居なかった所に燕尾服の人とメイド姿の人が5人跪いて居た。その中で年長者でありそうな燕尾服の人が口を開く。
「旦那様、奥方様、此度は何の御用でございますか?」
彼は言う。
「嫁殿の体調が戻ったが…やはり記憶喪失らしい」
「誠でございますか…折角…」
ん?何か気になるけど聞こうと口を開いた。
「あの…私はっ!」
そこまで言うと彼の指が私の口に当たりもごっとなる。
「記憶はいずれ戻るだろう…出来れば今まで以上に優しく接してやって欲しい。皆にも相談なんだが何かきっかけになりそうな事はないか?」
沈黙する広間。暫くするとメイド長だろうか?メイドさんの中で一番歳上であろう女の人が挙手した。
「旦那様。それでしたら晩餐の準備を致しますので試行を凝らしてみます」
彼は納得したかのように、
「それでは任せた」
そう言うとそれが合図かの様に彼女達はすっと消える様に下がって行った。
沈黙が続く。うん、だって話す事ないんだもの。
彼は何処か寂しそうな顔をしていた。見ているとこちらに気付き笑顔になる。
「そういえばいつもの様に甘えて来ないのか?」
「いつもの様に?」
頭に「?」が浮かんできた。すると彼は私の腕を取り引き寄せて耳元で、
「俺からいつもしていた事が聞きたいのか?」
と甘い声を耳元で囁かれて背筋がゾクゾクした…
「済まない、これでも忘れられて辛いんだ。せめてこれくらいは慣れてくれよ」
言い終わると額にキスをされた…つまり私達はバカがつく程のカップルだったのだろう。
私は手で顔を覆いながら赤面し尻すぼみ気味に、
「はぃ…」
と応えた。