神様、突然の訪問客
ルシエラに仕事の話をしてから何日か経ったある日。
「私にも出来ますか?」
と、働く意識が出てきたのでアトリエからスタートさせる事にした。ココは基本的に上客しか来ないから暇なのだ。
まぁ、今日は確か予約にそんな大層な名前は無かったよな?と顧客管理表を見てたら…
チリンとアトリエの扉が開く音がする。
「うぃっス…ボウズ居るか?」
何でアンタ来てんだよ!明後日の予定だろ!!と思いながらとても早とちりな訪問客が来た。
ルシエラが若干ビビった表情してる…当たり前だよな。先ず、デカいし俺でも見上げるからなぁ。
「あー、ルシエラ。この人は常連でしかもかなりの贔屓さんだ…名前聞くか?」
ルシエラが青ざめてプルプルしてる…兎みたいだ。
「あ?この娘か?バカが嫉妬したとか言う嬢ちゃんて?全然似てねぇじゃねぇか。ガハハハ」
あー。そういえばルシファーの事忘れてたや。
「あー…スマン。一撃で魔界か冥界の方まで落としたな…迷惑だったか?」
「いや、静かになったから助かった!だから礼として聖金貨1000枚くらい使いに来たんじゃ…明日まで待てなかったからケロベロスに跨ってな。ワハハハ」
「毎度あざっす。新作行きますか?アンティーク行きますか?一点物狙いすか?」
「ボウズの目は信じとるから適当にやってくれ。ワシ茶でも貰うわ」
「ルシエラ…茶って言ってるけどブラック無糖で入れてこい。一番上の棚にデカい三叉槍の模様のカップがあるから」
と小声でルシエラにだけ聞こえるように指示を出す。
「ひゃいっ!!」
走って行ったけど声裏返ってんぞ?大丈夫か?
「なぁ、ハーデスのおっちゃん今イイもんあるんすけど…黒かメタルな黒どっち行く?」
「どれじゃ?!」
子供の様に目を輝かせて此方をみてくる冥界の王ハーデス。
「コレ。多分おっちゃんかポセイドンのおっちゃんか爺しか入んない」
体格の良い3兄弟しか入らなさそうなデカい指輪を出す。
「アンティークの質違いか。メタルは今ワシの中で熱いからのぉ…悩む所じゃ」
「両方嵌めてみていいすよ?残ったら展示品にするんで」
ショーケースから取り出して目の前に並べる。
「おぉ…じゃあ、メタルから。うぉぉぉ…中々の重量感に輝きしかも親指サイズとは中々」
「良いっしょ?黒も逆の手に付けて見て見比べてくださいよ…どうぞ」
「黒か…む?コレただの黒か?」
「気付いたすか?アレンジしたっす」
「相変わらず羨ましい能力じゃ…むぅ」
「その黒、蛍光灯と太陽光の下で時間差で見てみてくださいよ」
「ん?こうか?なにじゃと?!太陽の下だと虹が出ておる!!でも冥界は滅多に太陽光はこんからのぅ…きても数回じゃ。蛍光灯じゃとブラックライトみたいな効果か!コレはテンション上がるわい!!」
「そこなんすよ。ペルセポネの姉御にサプライズで魅せたら喜ぶと思って仕込んでおきました」
「考えてやったのか…相変わらずやるのぅ」
うぬぬと唸るハーデス。
「どっちか行くなら贔屓割として三割引しますよ?」
「誠か?!」
「俺が嘘嫌いなのを知ってるでしょが」
んー…ルシエラ遅いなぁ?珈琲切らしてたっけ?おっちゃんが真剣に悩んでる内に来てもらわないと…慣れないぞ?
「お…お待ちしてまひた」
噛んだ。今噛んだよな?ルシエラがカタカタ震えてる。
「あぁ、嬢ちゃんかソコのテーブルにでも置いててくれ」
ハーデスが座っていた席を指して言う。
「畏まりました!!」
ルシエラ脱兎の如くいくなぁ…下がらせるべきか?
「ルシエラ?大丈夫か?」
ボソッと耳打ちする。ルシエラ人見知りだったっけ?
「ロキ様…この御方」
「冥界の王ハーデスのおっちゃん」
「ヒッ!!」
「どした?」
「いえ…さっき裏の窓から庭に3つ首の黒くてデカくて火を吐く犬が」
それを聞いたロキがハーデスに向かって、
「ちょいおっちゃん!ケロちゃん何処に置いてきた?玄関の先にしてくれって何回も言ったっしょ?」
「あー…急いでたから裏に離しとるよ…むむむ」
裏の庭植え替えだな…出費痛いな。取り敢えず慣れてる誰かに思念伝達を、
『ファントム緊急。裏庭のケロベロスを影で玄関先まで追いやっといて』
そう言うとファントムから『御意』と頼もしい返事か返って来た。
被害最小限にしたい。
「おっちゃん後3分で決めないと原価に戻すよ。はいスタート」
ストップウォッチの電源を入れる。
「今日は急かすなボウズ!待たれよ!!」
「ケロちゃんの被害出たらマイナス言うたじゃないすか」
「分かった!!両方!!両方貰う。まだ釣りは出るじゃろ…」
「そうっすね…コレくらいす」
金額を表示した電卓を見せる。
「ふむ。妥当な値段じゃ…流石じゃの」
「あ、余りで良いモノ見繕ってやりやしょうか?姉御向け的な」
「ホントか?!助かる!!ワシは座って待っておるから」
「あいよ」
ルシエラに耳打ちする。
「ルシエラ?バックヤードに黒い棺型の箱あるから取って来て」
「分かりました」
うん。落ち着いてたみたいだな。
…数分後。
んー…また遅い。おっちゃん専用マグだけど飲み干すぞ?
「すみません…」
何かルシエラの顔色が青白い。
「どした?あぁ、それそれ…ん?」
良く見ると影がふよふよしてる。あ〜…ファントム案件だな。
『ファントム…闇全切り暗転行けるか?ケロベロスは何処だ?』
『たった今玄関先に追いやり込んだ所です…行きます』
ふっと全体が暗くなる影がひとつになりふよふよは消えた。曰く付きたまにあるからなぁ。
「ルシエラよく持てたな…下手したら食われるぞ?」
「あ…はい。多少」
おいおい。だから顔色が青白いのか。
「もう休んでて良いぞ?後で診てやる。裏のソファにでも座って休め」
「はい」
と言うと、ルシエラは力無くバックヤードにパタパタ飛んで行った。
「ハーデスのおっちゃんこれっす!今見てみるすか?お楽しみにするすか?」
ハーデスに黒い棺型の箱を見せる。
「信じとる言うたじゃろ。先に見てはつまらん。ほい聖金貨1000枚とケロベロスの詫び追加じゃ」
「え?おっちゃんケロちゃん玄関先に回したよ?」
ロキはきょとんとして言う。そうするとハーデスか、
「イヤ…さっき窓から裏庭見えての花壇が半壊しておった」
ファントムー!!!間に合わなかったのか!!仕方ない、遠慮なく頂くか。
「では、預からさせて頂きます。会計聖金貨1050枚ですね。ありがとうございます」
営業スマイルで応える。
「ワシいつも思うんだが会計の時だけ敬語と笑顔辞めてくれんか?何か怖いんじゃが…」
「ギャップすよ。ギャップ」
「まぁ、良いわ。また来るの…嬢ちゃんにブラック無糖じゃなくて少し砂糖が入ってたが、ビビらせてスマン言うといての」
そう言いながら買った品を持って帰り支度をするハーデス。
「おけっす。ありがとうございました」
ハーデスのおっちゃんを見送った。
ふぅ…取り敢えずルシエラ診るに行くとしますか。取り敢えず売上は105億か…まぁ、庭の出費余裕だな。
「ルシエラ〜…て、え?」
居ない…でも、気配はする。飲まれた?
『ファントムー!!ごめんもう一度、闇全切り暗転お願い出来るか?ルシエラ飲まれたぽい』
『御意…行きます』
暗くなった…ルシエラ居たコレ俺の力で行けるかなぁ。
一番デカいネックレス外したら行けるか?
「ルシエラ〜?ちょいごめん半分影に埋もれてるけど…」
トンと手刀を首目掛けて落とす。落ちたぽい?取り敢えず引き上げる。
今日は散々だったなー…ルシエラにとって。冥界のおっちゃんが連れて来たんだろな。
「普段はこんな事無いんだぞー?」
すよすよ寝ているルシエラに一応言っておく。