神様、目覚めの刻
此処は…何処?
あれ…?私の名前なんだっけ?
寝惚け眼でふと周りを見回す。見えるのは四角い間取りの部屋にベッドと箪笥と机…至って普通の部屋だ。
何処だろう?この部屋?
頭が働かないので暫くぼーっと部屋を眺めて観察してると足音がコツコツと聞こえて来た。ドアはあったのだけど何となく出て行く気がしなかったのだ。
コンコン。
静かな部屋に響くノックの音。私はまだ働かない頭で取り敢えずドアに目を向ける。
ガチャリとドアを開けて入ってきたのは偉く整った顔の黒髪で蒼い瞳が印象的な黒装束のローブ姿で何かジャラジャラとアクセサリーを沢山付けた知らない男性だった…
多分。
彼の記憶が無いので知り合いなのか何とも言えないからだ。
彼は開口一番にこう言った。
「やっと目覚めたのか?嫁殿」
はい?嫁って私の事?
この部屋には私しか居ないので私の事だと思うのだけど全く分からない。部屋をボーッと眺め彼を見遣るとやっぱり見覚えがある様な無いような…知ってるのはこの人だけなのかな?
色々考えてみたけど全く分からなかった。これって記憶喪失?
床をよく見ると魔法陣みたいなモノが描かれていて青白くキラキラしている。この部屋なんだろう…掃除が行き渡っているのか埃ひとつ無いなぁと朧気に見ていた。
彼は私が起きてるからの安堵感からか微笑んでいる。
何か思い出せそうだけどまだ分からない。私何歳だっけ?分からない…頭に手をやりふるふる振る。それを見た彼は何か察した様で…
「自分の名前は言えるか?」
と聞いてきた。私は頭を横に振る。
「そうか…そうなると俺の事も覚えてないのか?」
その質問に頭を縦に振る。
「記憶障害か…いずれ思い出す」
そう言って彼は満面の笑みで微笑んで言った。彼が、
「喋れなくもなったか?」
と聞いてきたので、
「い…いえ…」
とだけ答えた。
ふむと考え込むように顎に手を当てて私の目をじーっと蒼い透き通った目が私を見つめてくる。私は特に何も考えず見つめ返し彼を観察していた。
これが彼と私の再開。再会では無い再開なのだ。
なんて整った顔なんだろ…身長も高いし黒髪なのに蒼い綺麗な目。この人が私を嫁と言うなら彼は旦那様?と考えてたら、彼が座り込んでる私の手を取り立たせてくれた。
「ぁ…ありがとうございます」
彼は特に気にせずそのまま手を取り部屋の片隅にあった姿鏡の前まで連れて行かされた。
「自分の姿を見ても何も思い出さないか?」
と彼は私を姿鏡の前に立たせてくれた…
「ぇ?」
その姿に自分もビックリしていた。
顔にとか身長にとかじゃなく人間ではないものが背中に生えてたのだ。
黒と白の一対の翼が。
確かに目が覚めた時私は座っていた。人間が気絶するなら寝転んでる筈だ。少し可笑しいと思っていたけど、それよりも記憶が無い方に気を取られていたのだ。
ダメだ…これ以上考えると頭がおかしくなりそうだった。
一旦冷静になろう。