GESU・NOTE (ゲス・ノート)
ネタの新鮮味は、正直ありませんが、(というかほとんど腐った状態かも)そこはどうかご勘弁下さい。
もう少しはやく小説を書いていたらと、悔やまれてなりません。でも、いま現在のドラマで、オマージュなり、パロデイをしようと思いつく素晴らしい名作が私にとって見当たらないのです。
まあ、天才バカボンのオマージュ作品も日本中に、あんなに堂々と放送されているのですから、広い目で見ていただいて、私のささやかな作品をぜひ読んでいただきたいと思います。
GESU・NOTE
竹二・(たけじ)は、行きつけの居酒屋で、仲間たちと呑んでいた。
番組の収録帰りで、後輩たちとの久しぶりの食事会でもあった。
「もう7月も半ばかい・・・? どおりで暑いはずだよ」
「はははは、分かりにくいボケですよ師匠、日付け、ひと月、間違える
なんてのは、」
「それともお姉さん 引っかけるときの‘つかみ‘ですか・・?」
「師匠、今日はまだ、6月の半ばですから、」
後輩たちが、突っ込みを入れる。
「6月、そうか・・ それでこの暑さなら尚のことだよ・・」
「12月なら干物になるぐらい暑いんじゃないかい・・」
「お、そうくると、定番ですね・・はははは、」
たけじは、かなり酔っていた。今日がいつで、今が何時ころなのか
もうほとんど、分かっていないらしかった。
そして、たけじが、後輩たちと、こうして深酒をするようになったのも
今のテレビ業界におけるたけ自身の境遇が、原因のひとつでもあった。
「ああ、もう一度、ブームおこしてえな・・・」
たけじは、そう言って、グラスに半分ほど残った酒を、一気に飲み干した。
10年前、たけじは、ブーツ・たけじ として、確かに、このテレビの画面
の向こう側にいた。
俄かに起きたお笑いブーム、あっというまに、老若男女、あらゆる世帯が
漫才・お笑いに熱を上げた。そして、このブームに運よく乗じた、たけじは、
この時、お笑い番組に、ほぼ毎回のように出演し、業界の中心的な位置で
活躍していた。
この手の仕事をしている為、業界関係者、ファンなどから誤解されがちだったが
根がまじめな、たけじは、まさに、寝る間も惜しんで、お笑いという、天職とも
いえるこの仕事に真剣に取り組んでいた。
楽しい時代だった、確かに、めちゃくちゃに忙しく大変だったが、なんとか若さで、毎日をどうにか乗り切る・・・そんな感じであった。
そして、夢のような時代は過ぎ、大多数のお笑い芸人が、カンブリア紀に突然発生
した、多種多様な生命の如く、やがては、絶滅の運命を辿り、次々とテレビから
消えた。ご多分にもれず、たけじも、そのうちの1人であった。
後輩たちとの食事を終え、千鳥足で、自宅に戻る途中、たけしは、道端に
落ちている1冊のノートを発見した。
「なんだこりゃ・・・」
新品のノートである
「ははん・・・名前を書くと、書かれた相手は、死んじまうっていう、
例のノートじゃねえのか、これ・・・」
たけじは、そのノートを自宅に持ち帰った。
(・・・、もしかしたら・・・本物かな?)
「ええと、今はちょうど、夜中の12時だな・・・」
そう呟いて、たけじは、すぐさま、ノートに、日付、時間、相方の
恭司の名前、さらに生年月日を書いてみた。
数分後、たけしは、ポケットから携帯を取り出すときょうじの電話番号
を押した。
「はい、・・・」
「おい、きょうじ・・? おれだよ、おれ・・・」
「なんだい、おれ・おれ 詐欺? あいにく一文無しでね・・」
「じゃ、そういうことで・・・」
きょうじが、電話をきろうとすると・・
「違うよ、おれ・・・たけじだよ、判ってるくせに、この・・ 」
「なんだ、たけちゃんかい・・マジで判らなかった、どうしたの・・・?」
相方のきょうじも酔っ払っているようだった。
「おい、きょうじ」
「なんだい」
「からだ、なんともないか?」
「からだ・・・?」
「最近は、ヒマで、ヒマで、十分過ぎるほどいたわってるよ。」
「そうかい、痛いところとかないか、 心臓とか・・・・」
「ああ、ないよ・・・なんだよ、急に?」
「ふん、そうかい・・・じゃあな・・」
プツ・・・ツーツー
きょうじの体がまったく無事なのを知るとたけじは乱暴に電話を切った。
「なんだよ、たけじの奴・・・変な電話・・よこしやがって」
きょうじのほうも、何が何だが、一向に判らず、違和感だけが辺りにくぐもっていた。
「なんだ、ただのノートか・・・」
「そりゃそうだよな・・・へんっ、ばからしい」
そういって、たけじは、ノートを放り投げ、ソファーに寝転がると、そのまま部屋
で眠ってしまった。
ひと月後、彼らふたりに、テレビの仕事が入った。
日曜日・お昼の生番組で、ロケのレポーターをするというものだった。地元の
海産物の紹介や食レポを行い、最後に波止から海へ飛び込むというありきたりの
ベタな企画ではあったが、久しぶりの仕事ということもあり、リハーサルから、
ふたりはかなり入れ込んでいた。
「本番行きます、5秒前、3,2・・・1」
二人の前で、キューの合図が、ADから出された。
まさにその時である
相方のきょうじが、おもむろにズボンを下げたかと思うと、いきなり、下半身
を露出したのだ。
たけじは、茫然とした、余りに突然のことで、カメラ、スタッフとも、事態の
把握にしばらく時間がかかった。そのせいで、日曜のまっ昼間にきょうじの
アレが、全国のお茶の間に、数秒間放送されてしまった。
「バカ、この野郎、てめえのなまこ いきなり出すんじゃない・・・」
とっさの、たけじのツッコミも、もはや手遅れだった。
この事件が元で、もともと影の薄かったきょうじは、完全にテレビから姿を消した。
アイドルグループと違って、たけじが、連帯責任をなんとか免れたのは、不幸中の
幸いとでもいうべきか・・・。
しかし、きょうじの相方ということで、たけじに対する、番組スポンサーや、
業界の目は厳しく、たけじの方も結局、仕事を干されるような格好になった。
半年がたった。
自宅にいる時間が多くなったたけじは、蒸し暑い部屋で、今日も暇そうにテレビを
見ていた。
茶菓子を取ろうとした左手の指ににあのノートがカツンと触れた。
たけじは、ノートを取ると、最初のページを開いた。
相方・ブーツ・きょうじ、(本名 羽田恭司)生年月日、などが、なぐり書きしてあった。
当時ベロベロに酔っていたせいもあり、自分が、きょうじの名前を書いたことも
たけじは、すっかり忘れていた。
たけじは、はっとした。
このノートを拾ったのは・・久しぶりの仕事が入って、後輩と飲みにいった日だから
(たしか・・・6月の・・)
たけしは、部屋の隅に置きっぱなしになっているその時の番組の台本を見た。
6月14日 ちょうど半年ぐらいまえだ。
「書いたのが6月、事件がたしかそのあとだから・・・」
「・・・まさか・・」
(まさか、このノートに書いたから、きょうじが、死んだ(業界から消えた)
っていうのか・・?)
このノートに書いた奴は、本当に死ぬんじゃなくて、業界から消えるってこと・・?
すぐに、たけじは、そのノートに、今人気の芸能人を思いつくまま片っぱしから
ノートに書き綴った。
本名や、生年月日などは、おなじ業界人ということもあり、簡単に手に入った。
案の定、ゲス事件はつぎつぎと起こった。
隠すべきお盆を、うっかり滑らせてしまったり、温泉番組の収録で、編集
すべきところにスタッフが、モザイクを入れ忘れたり、はたまた、ゲス・不倫
をスクープされるなどして、名だたる芸能人が次々に、テレビ界から姿を消した。
ノートの真実を、まのあたりにした たけじは、その威力のすごさに驚いた。
同時に、悪魔的ともいえる、よこしまな野心に、不覚にも、取りつかれて
しまっていた。
(このノートで、もう一度、もう一度、頂点に登ってやる・・)
彼の眼は、まさに悪魔の如く血走っていた。
それからさらに半年が過ぎた。
満を持して、自分へのオファーを待っているたけじだったが、一向にそれらしい
連絡がこなかった。
(なんだ、どういうこった・・・?)
有名どころは随分消したんだから、そろそろ自分にお鉢が、回って来てもいいころ
なんだが・・・?
たけじは、いつものように、自分の部屋で新聞のテレビ欄を見た。
「ありゃあ、そういうことかい・・・」
顛末を理解したたけじは苦笑いをした。そこには、いわゆる、お笑い番組が一切
消えていて、素人が参加するクイズ番組や、料理番組が軒を連ね、芸人たちが
かろうじて出演している旅番組などが番組欄を埋めていた。
たけじは、がっくりと肩を落とすと、リモコンをテレビに投げつけた。
陰鬱な空気が周囲を囲み、たけじは、これまでにない絶望感を感じた。
「・・・・」
「あ、そういやあ、・・・・」
たけじは、なにか思い出したように呟いた。
「これが、本物のノートだとしたら、ほら、あの、あいつ・・・」
「デュークだかリュークだか言うあの死神・・・」
「あいつ、出てこなきゃいけないだろう・・・?」
「いるよ・・・ここに、ずうっと・・」
たけじはびっくりして振り向いた。
たけじのすぐ後ろ2メートルほど上に、窮屈そうに天井にへばりつく死神がいた。
「わあ、あんたかい?死神って・・・いつからそこに・・・?」
「決まってるだろう、去年の6月14日 あんたが、そのノートを拾ったときからだよ」
「なんだ、いたのか、いるんなら、ちょっとぐらい声掛けてくれても・・
「よく言うぜ、1年ものあいだ、オレ様の存在すら気付いてなかったくせに」
「そうかい、あのドラマ 実はよく知らなくてさ・・」
「あ、でも、再放送で最近見たもんで・・おかしいな・・と思って・・」
「へっ・・今更、どうだっていいけどな・・」
死神は不機嫌そうに、たけじに言った。
「あ、このノート、返すよ、もう、必要ないから・・」
「そうか・・おまえ、このノートの所有権を放棄するんだな・・」
「ああ、そうだ」
そう言ってたけじは死神にノートを返した。
「じゃあ、オレ様はこれで失礼するぜ・・あばよ」
「あ、ちょっと」
「・・・なんだ・・?」
「最後にひとつ教えてくれないかい・・?」
「・・・・?」
「ブーツきょうじ、俺の相方なんだけど」
「ほかの芸人は、このノートに書いた日付どおりに、時間も正確にゲスな事件
を起こして業界から消えたのに・・・」
「あいつだけなんで、すぐに、日付どおりに事件を起こさなかったんだ?
「ああっ・・・? ちゃんと起こしたじゃねえか・・目の前で見たろう?」
「いや、夜中に、電話で確かめたけど・・・あいつ酒飲んでたぜ」
「死神はウソをつかない・・ノートを見てみろよ」
たけじは、そっと 最初のページをのぞいた。
そこには、7月14日の日付、12時という時間がしっかりと
書きこまれていた。
「7月・・・? えっ」
「おまえが、酔っ払って、日付をひと月間違えて書いたんだよ・・・」
「それに12時ってのは夜中じゃないぜ、夜中は、0時だからな」
「じゃあ、・・・・あばよ」
ルルルル
死神が消えた直後に、携帯が鳴り、たけじはびっくりした。
「はい、・・・」
「あ、たけちゃん・・・? おれだよおれ・・おれおれ詐欺じゃないよ」
「はははは」
「分かってるよ、きょうじ、久しぶりだな・・どうした?」
たけじは、嬉しそうに聞き返した。
「いまさ、たけちゃんの近所で呑んでるんだけど、どう・・久しぶりに」
「・・・・」
「ひまなんだろ・・来いよ・・」
「・・・そうだな、・・・一杯やるか、ツマミにいい話聞かせてやるよ」
「そりゃ 楽しみだ、じゃ、待ってるぜ」
たけじはいつもの飲み屋へ向かった。
「あいつ、おれのせいで、業界追い出されたって知ったら、どんな顔するかな・・?
自転車をこぎながら、たけじは思わず笑いが込み上げてきた。
外の空気は、夜中にも関わらず、何だが蒸し暑かった。
おわり
小説を書き終えると、すごく肩が凝ってしまいます。書かないでいると、気分の方が凝ってしまいます。
私にとって、どちらがましなのか、よくよく考えてみますと、やはり肩が凝ってしまっても、小説を書くという方に辿りついてしまうのです。くだらない小説を読んで、ひどく肩が凝ったと言われないように
誠意をこめて精進したいと思います。