仮
俺は鍛冶屋のテツさんに『ロクでもない道具』の注文を出した後、昨日の現場へとやって来た。
俺が嘘で言った現場付近には、うず高く白い可憐な花が手向けられていた。
俺は一瞥し、心の中でトリカと村のみんなにすまないと詫びる。
そして、周囲に人影がない事を確認して『本当の事件現場』へと足を運んだ。
「やっぱり・・・ないよな」
俺がここへ戻って来た理由は、野盗供・・・つまりは今回の『犯人』の居場所を突き止める為だった。
もしも、この野盗供が行き当たりばったりの謂わゆる『流し』の犯行だったとしたら、今後の動きは厄介になる。しかしその恐れは無さそうだった。
俺が探していたのは、トリカが担いでいたはずの酒樽だった。
トリカは隣村へ酒を買いに行った帰りに襲われた、その事は最初にトリカを探しに行った村人が確認している。
つまり、物盗りにしろトリカ目当てだったにしろトリカの遺体周辺には酒樽もしくは酒樽の残骸がなければおかしい。
ところが、この道中にもこの現場にも酒樽は見当たらないし、壊れて残骸となった痕跡もない。
俺の鼻にアルコールの匂いが引っかからない。
呑み屋兼宿屋で出す量、しかも酒樽一個分ともなるとちょっとやそっとの匂いではない。
その匂いがしないという事は、この周辺に酒はない事になる。
『流し』の野盗が嵩張るだけの酒樽を担いで逃げるとは考えられない。
酒樽かトリカか、どちらが目当てだったにしろ野盗供は近くに根城を構えているはずだ。
犯行現場は大木が倒れて出来た広場の様な場所で、雑草が30センチ程に伸びている。
そしてその広場の真ん中あたりだけが歪に凹んでいた。
トリカが息絶えていた場所だ、下草は折れた訳ではなく倒されているだけなので、何日かすれば周囲と同じになってしまうだろう。
俺はまだ倒れたままの下草の、倒れた向きと倒れ方をよく観察する。
「ホシは三人か・・・ありがたいな」
足跡の数や大きさの種類から俺は犯行グループの人数を割り出す、三人なら各個撃破でなんとか出来そうな人数だ、二桁とか言われたら寝込みを襲って広域魔法で吹き飛ばすしか手はないもんな。
犯行現場を離れ足跡を辿り森の中を進む、街道へ出入りする為によく使っているのか、下草は踏み倒され獣道が出来ている。
(見失わないのは良いが、無用心な連中だな)
獣道は途切れることも枝分かれすることもなく一直線に続いている、そんな獣道を十分くらい進んだ頃だった。
俺の嗅覚にアルコール臭が引っかかった、俺は気配を消し慎重に森の中を進む。
更に五分程進んだ所で、森が途切れて草地が広がっているのが見えた。
「ははは、それにしてもツイてねぇな」
「ホントっすね、最初のエモノが小娘一人ってのは無いですよオカシラ」
「オカシラとアニキはまだ良いですよ、お楽しみがあったんですから」
草地にどっかり腰を据え酒樽を真ん中に置いて酒盛りをやっている鬼人族の男が三人、まだ夕暮れ前と言うのに半分出来上がっていた。
俺は奴等に気取られないように一層気配を消して、文字通り聞き耳を立てた。
「ちょっとばっかり王都で暴れ過ぎたかなぁ、ガハハハ」
「まさか王都親衛隊が襲ってくるとは思いませんでしたからね」
野盗共はどうやら王都とか言うところで派手に暴れ過ぎた、そしてその所為で討伐が編成され追われたらしい。
「100人を超える盗賊団を率いていたこの俺が、今や三人で娘っ子一人襲って酒盛りとはな」
「それにしても、何の因果でしょうねぇ・・・逃げ落ちた場所がオカシラと最初に隊商を襲ったタバスの村はずれとは」
「おう、あの時は綺麗さっぱり皆殺しにして結構な稼ぎになったんだがよぉ」
俺の見立て通り、野盗の数は三人。
今目の前にいる鬼人族の三人だけらしい。
上座にどっかりと腰を下ろして、トイカから奪ったであろう酒を茶碗でガブ呑みしているのがオカシラと呼ばれている鬼人だ、体格は他の二人よりも一回り以上大きく直径20センチ、長さが2メートル近いトゲの付いた鉄棒を傍らに置いていた。
アニキと呼ばれている鬼人は焚火で焼いた獣の
それにしても・・・聞き捨てならない話をしていたな。
それからも野盗供はくだらない武勇伝をしながら酒を煽り続けていた。
日も暮れはじめていたし、俺は物音をたてないよう注意を払いながら元来た獣道を戻って行った。
街道に出てからは、特に急ぐ事もなく少し考え事をしながらタバス村へと帰り着いた。
ちょうど夕暮れ時になっていたので、鍛冶屋のテツさんのところへ顔を出した。
「よぉ、そろそろ来る頃だと思ってたぜ」
テツさんの手には俺が注文した通りのモノが握られていた。
「ありったけの玉鋼を使った逸品だぜ、こいつで・・・いや、これ以上は言うまい」
どうやらテツさんは、ほぼお見通しの様だ。
俺は財布代わりの皮袋から代金として1000ゴルを支払う。
「テツさん、この事は他言無用に願います」
テツさんの性格からして、吹聴する様な事はないだろうが、念押ししておく。
「おう、俺はお前さんの注文通りのモノを拵えた。そしてその代金を頂いた・・・それだけだ」
この話はお終いだ、と言わんばかりにテツさんは再び