第一章 第三話 新世界より
異世界『ユグトラル』
この世界は、俺が生きていた『現界』の地球とは全く異なった世界だ。
どうせ転生するなら、以前読んだラノベの様な世界が良いと言ったらノエルが様々な世界を見繕ってくれた、その中でも最も穏やかな世界。
中世ヨーロッパ程度の文明度で、もちろん魔法もある。
もっと『剣と魔法と冒険の世界』も勧められたが、基本的に平和博愛主義な俺は辞退した。
まぁ平和博愛主義というのは方便で、二十代までなら喜んで冒険世界に飛び込んでいただろうが、正直この歳でそういうのはキツい。
・・・体力的にも精神的にもだ。
『ユグトラル』は三大大陸に分かれていて、地球の地図とは似ても似つかない分布になっている。
この世界は三大大陸に一つずつ国家があり、それぞれに多数派を占める種族が統治する国家がある。
そう、この世界の知的生命体は人間だけではない。
先ずは『人族』が治める『ハイベッケン王国』
中世ヨーロッパ的な文明度を持った国家。
政治状況は絶対王政で、大まかに分けると王族・貴族・平民・そして奴隷階級に分かれる。
石炭や鉱山の採掘や鉄工業が主産業で、奴隷階級と言うのも専ら鉱山奴隷だ。
次に『獣人族』の大陸で『キリベル獣人連邦』
国家というよりも部族連合に近い状態で、鳥人族・猫人族・犬人族・熊人族などなど、各地域に分かれて生活する20以上の部族毎に代表を選出して、合議制で運営されているらしい。
主な産業は漁業と観光産業。
最後が『魔族』が統治する、『リンデマン魔族連合』。
魔族の国というと禍々しい、怖いイメージだが意外な事に肥沃な大地と温暖な気候で主産業は農耕と牧畜。
王様、言うなれば『魔王』がいるんだが、政治体系は五大魔族長によって統治され、魔王様は専ら国事行為などに勤しんでいるらしい。
と、まぁこんな感じの『ユグトラル』に転生したんだ俺だが、ノエルと転生設定する時についつい調子に乗って妙な事になっちまったんだよな。
「せっかくなんですから、人族以外はどうですか〜?」
「いや、慣れ親しんだ人族で良いだろ・・・そこは」
「いえいえ、一度しかない人生なんですから、ちょっとは冒険してみましょうよ〜」
なんて口車に乗せられて、ノリと勢いで狼人族なんて選んじゃったんだよなぁ、おっさんの狼耳に狼尻尾なんて需要あんのかな?
最初は猫人族とか虎人族も候補に挙がってたけど、狼人族にして良かった。
あんまり後悔してなかったりするけどな!
転生開始にしても、赤ん坊からやり直すのも手間だし、死んだ時と同じ年齢にして貰った。
今更、オムツして母乳飲むとか勘弁してくれ、俺はそういうプレイの趣味は無い!
断じて無い!
大事なトコだから二回言ったぞ。
転生特典は幅広く魔法が使える様にして貰った。
間違っても、前世で三十歳までチェリーボーイだったとかじゃないぞ!
絶対違うからな!
これも大事なトコだから二回言った!
そうそう、魔法に関してはノエルから特別に一つ、俺だけの魔法を授けて貰った。
「ところで、榊さんの御職業『監察医』ってどういうお仕事なんですか?」
俺の前世での話の流れからノエルが興味を持ってきた。
「う〜ん、死因の解明とか死に至る過程の究明とか・・・簡単に言うと『死者との最後の対話』とでも言うのかな?」
「凄い!それカッコいいです!それは是非、来世でも役立てて欲しいです!」
ってな訳で、俺固有の魔法として『死者対話』なるスキルが付いていた。
なんかカッコいいけど、別に来世でも死者に関わりたいとは思わなかったんだよなぁ・・・
死者と関係持つのも前世で充分だったからな。
来世はまったりと、それこそ前世で読んでたラノベみたいに居酒屋でもして、ゆったりと余生を過ごしたいんだけどなぁ・・・あ~、あれは転生じゃなくて異世界と現世を行き来する設定だったけか。
妙なフラグが立った気もしないでもないが、気にしないことにする。
細かい事気にしてハゲるのも嫌だからな、ハゲの虎人族とか想像もしたくない。
そんな事を考えながら、辺りを見回す。
転生した先は、リンデマン魔族連合のちょっと僻地寄りの森。
木漏れ日が眩しい森と平原の境目だった。
なんで獣人族大陸じゃないのかと言うと、折角の異世界だから色んな土地を旅してみたかったからだ、色々見て回った上で気に入った土地があればそこに定住しようと思う。
「さすがは『運命の神ノエル』だな」
他人に目撃されないちょうど良い場所に送ってくれたみたいだ。
いきなり虎人のおっさんが湧いてきたら驚くもんな。
傍らのリュックっぽい布袋に目をやる、ランタンやナイフ、保存食に寝袋代わりの毛布等‥アウトドアに必要な物が一揃い入っているのを確認する。
いきなり身体一つで異世界に放り出されても困るからな、これもノエルからの『初回特典』だそうだ。
いよいよMMORPGっぽいな、コレ。
「さて・・・新しい人生の第一歩だな」
気を取り直してリュックを背負い、俺は目の前に伸びる街道を歩き始める。