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vs口裂け女

「……」


さきちゃんの動きが止まる。やったか?


「なんだ、それは?」


「……え?口裂け女が逃げ出すおまじないです。」


「……そんなもの……知らんぞッ!!」


さきちゃんがまた鎌を投げてきた!何故!?いや、ひょっとするとおまじないが間違いだったのか?そう言えば確かに言っている途中でなんか違和感があったんだ。……でも、今一瞬だけ元のさきちゃん、つまり殺る気満々口裂け女状態じゃないさきちゃんに戻らなかったか?俺があまりに変な事を言ったからなのだろうか?


だとすると、ある程度彼女に衝撃を与えればさきちゃんは正気に戻ってくれるのではないか?


「スラー!!」


「うおっ!」


その時袋からいきなりスラっちが飛び出てきた。


「スラっち!!大丈夫だったのか!?」


「スーラー!」


スラっちは元気そうに定位置、俺の頭上に乗ってしまう。そしてごきげんな人が口笛でも吹くかのように、口から炎を吹き出した。どうやらスラっちは結構タフな……!?


あれ?今スラっちが新たな一面を見せた気がするぞ?


「ス、スラっちくん?ちょっと今のもう1回やってみてくれ。」


「スラー!!」


と気合いの入った返事をしながら……スラっちが今度は三発連続で火の玉を口から放ったぞ!!すげえ!

とか、してる間も口裂け女は攻撃の手を休めることは無い。鎌がバンバン襲ってくる。そのためじっとしている訳にはいかないが、走り回りながらも状況を確認しておこう。


「君って元々火の玉吹けたの?」


「スラァ?」


これは多分否定だな。恐らく本当にレベルアップ的な成長をしたのかもしれない。戦いのさなかに成長する主人公の鑑である。しかし、この世界の事はまだ全然分からないから何とも言えないが、現実にレベルなんてシステム存在しうるのだろうか?よく分からない。


「まだ火の玉たくさん吹ける?」


「スラスラー!!」


お、これは肯定だな。しかもまだまだ余裕そうだ。それなら力を貸してもらうぜ!


「スラっち!分かってるかもしれないが、今からあの口裂け女に火の玉攻撃をバンバン繰り出してくれ!俺は攻撃を避けるのに専念する!」


「スラ!」


俺が叫ぶと、頭上から口裂け女に向かって炎がビュンビュン飛んでいくようになった。なかなか不思議な光景。なんだかオートでレーザーを放つシューティングゲームの戦闘機になった気分だ。しかし、この視界の違和感に目を回してはいけない。俺はしっかり、確実に口裂け女の鎌をかわし続ける必要がある。


正直、ムリな動きの負荷であちこちが痛いが、おかげで何とか全ての攻撃は回避できている。だが、やはり相手も素早いだけあって、こちらの炎攻撃もちっとも当たらない。


「スラっち!火の玉はまだ持ちそうか?」


「スラスラー!!」


もうかなりの量の炎を吹いているので聞いてみたが、ほう、驚いた事にスラっちはまだまだ全然元気だ。スタミナ切れや魔力?切れも起こしそうにないな。ならば、ここからはもっとごり押しさせてもらうぞ!


俺は投げられた数本の鎌に向かって走っていき、鎌と接触する距離までくるとうまいことその間を縫って口裂け女に肉薄する。さっきもやった『接近用逃げ足』だ。しかしこれは相手も一度見た技、読んでいたらしく、瞬間で鎌を降り下ろそうとしてきた!


しかし、その鎌はスピードもなく、見当違いな場所に降り下ろされることになった。何故なら接近した時もスラっちはしっかり炎をはき続けていたため、その超至近距離からの攻撃を交わすので精一杯だったのだ。そのため口裂け女は一端俺から離れる他無い。だが俺、というかスラっちはここぞとばかりに攻撃する。それを口裂け女は何とか避けているが、相手のペースを乱したことによって今やもう防御に精一杯のようだ。


そしてついに一発の火の玉が見事命中した!


「ッ!!」


そしてその一発が契機となり、さらに数発見事命中!


「クソがクソがクソがッ!!」


口裂け女は炎が回らないように体を振るったり手ではたいたりしているが、不意に


「クソッ!!……?うおっ、熱ッ!?」


雰囲気が変わった。


「ってあれ?私、もしかして、また暴れていたのか?」


どうやら……正気に戻っているようだな。


「まあ、大分暴れてましたね……」


「スラー!!」


スラっちも「おこ」のようだな。


「しかし、ともなると、お前が私を止めたと言うことか?……なるほど。」


まあ、俺というかかなりの部分でスラっちが助けてくれたからなんだけど……

話していると、向こうから誰かが走ってやって来た。ドク会長とユッカさんと、……ええと、ムキムキのオヤジだ。ドクの言っていた助っ人なのだろう。いやあ、遅いっすよ。


「リューヤさーん!!死なないでくださーい!!」


ユッカさんがこっちに向かって叫んでいる。


「いや、見ての通り生きてるよ!まあ死にそうだったかも知れないけど!?」


「おお、それなら何も問題ないわい。めでたしめでたしじゃ。」


「いや!死にそうだったって言ってるじゃないすか!これは会長の責任問題だー!!」


「ガハハ、若者。暴走さきちゃん相手に戦ってそこまで元気とはたいしたもんだ!」


マッチョおじさんがなんか言っているが


「いや!全然元気じゃ無いですからね!体のあちこちが痛いんですって!」


さて、訓練試合も終わったし、みたいな雰囲気を出しているといきなり、


「おい、もう少し戦うぞ。まだしっかり決着がついていないからな。」


さきちゃんが言い出した。


「え、いやいや。暴走前に負けでいいや的な事言ってましたよ!?」


「しかし、お前は危険な時の私を無力化した。そんなお前とは、ちゃんとした決着がつくまで戦った方がいいだろう。」


「いやいやいや、もうくたくたなんですよ!」


「それなら素直に峰打ちされて負ければいいだろう?」


理不尽!そんななに言ってるんだ?みたいな顔されても騙されないぞ!間違いなくそんなの理不尽だッ!!


「まあいい、行くぞ!」


そう言うとさきちゃんがこちらに走ってきた。一応手加減してくれているのか、あるいは向こうも疲れてきたのか、スピードは大分落ちている。しかし、俺の方はもはやそんな攻撃すらかわすのがきついほどには体がもうボロボロだ。……しかし、実は俺には一つ考えがあった。


いやあ、脳というものは不思議で必死になって思い出そうとしている時には全く思い出せないことも、思い出そうとするのを忘れた頃に不意に思い出したりする。ああ、思い出したんだ。口裂け女封じの必殺おまじないを!!では、今度こそ行くぜ!

大きく吸ってせーのっ


「ポマード、ポマード、ポマーーードオォォォーーー!!!」


「残念ながらそれは克服済みだ。」


あれ?さきちゃん何ともないぞ?てか、俺の方が何故か動けなくなってしまったぞ?俺が何とか動こうとして困っているのを見て、さきちゃんは走るのをやめて歩いてこちらに来た。


「ちょっとした修行をしたんだ。今では私にそのまじないは逆効果。」


逆効果?


「それは私が説明しましょう!」


なんか知らんがユッカさんの実況が始まったぞ。


「幻獣、妖怪、モンスターというものは普通の動物と違って、人の口から口へ、または文字によって存在が広がっていくのが一般的です。そのため、普通の動物ではありえない変化が起こることがあるんです。」


はあ


「例えば普通の動物、猫は、独特な目を持つ、ある程度高いところから落ちても平気、自由気まま、みたいな特徴があります。こんな猫がいきなり高いところに弱くなったり、自由を嫌ったりすることはあまり無いですし、あったとしても自然な流れでは無いです。」


猫にも色々いると思うけどなあ。……多分そういう話じゃ無いのかも?


「何故なら私達普通の動物の法則に則ると、反対の性質っていうものは普通に遠いものだからです。しかし、幻獣達の法則ではそうはなりません。例え真逆の性質であろうと、その性質の名前が出た時点でその性質は近いものなんです。何故なら、幻獣達は伝聞によってその存在を広げていくんですから。そのため弱点がパワーアップポイントになったり、対抗手段がタブーになったりするのです!!」


……?

なに言ってるのかよく分からんが何となく俺なりに解釈すると、要は怪物、妖怪達は実在しないため、人の噂話や昔話によってしかその生態を把握出来ない。そして、その「話」の文脈が伝言ゲームの要領で変わってしまうと「○○が好き」が一気に「○○が苦手」になってしまったりする、ということだろうか。……まあ、この世界は現実に怪物が実在するのが難しいところだか。


「つまり、口裂け女から逃げるためのおまじないが口裂け女の前で言ってはいけない禁句になったってことか?」


俺はなんとか口だけ動かせたので、推論を述べてみる。


「その通りッ!!」


というさきちゃんの声とともに、俺の頭に鎌が降り下ろされるのを見たのを最後に、俺の意識は暗く……沈んで……



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