新たな仲間、それは
さて、異世界についての話を終えた俺達はケビン一行と話をした。ケビン達四人は『プリニウス調査団』として、世界を周り様々なモンスター案件を片付けているらしい。例えばドラゴンの討伐だったり、謎のモンスター事件の真相究明だったりだ。そういった活動の中でキュリアの治療技術なども広めていっているそうだ。
そんな事が出来るのは戦闘の能力はもちろん、四人がかつてユッカさんと共に冒険し、様々な経験、知識、考え方を得たからだそうだ。いやいや、俺と同じ世界にいたユッカさんがなんでそんな知識もってるんだよ……
そして、今度はこれからの活動についてに話題は変わる。
「西のイヌナッカ村にコカトリスが出たんだ。」
ケビンが深刻そうに言う。
「幸い村人は全員逃げ延びたらしいが、長らく平和だったあの村にコカトリスが現れた原因が気がかりでな……これからはそちらの調査をしてみようと思う。ユッカは何か思うところは無いか?」
「さすがに今の情報だけでは何も分かりませんね……ですが、あのコカトリスが襲撃してきたというのに犠牲者が無しだったのが不思議ですね。あまり言いたくは無いですが、コカトリスという幻獣は不意に現れたときとても脅威です。なんせ、一睨みでアウトですから。奇跡か、もしくはあらかじめ襲撃を察知していたんでしょうか?」
「だよなぁー。」
マーリアが頷いている。ん?そう言えば逃げていった人がなんか言っていたな。
「あ!そう言えば村人が五百年に一度の災厄だとか言って逃げてました!」
あの爺さんめ。五百年平和でも今平和じゃなかったら意味無いじゃん!異世界五分で死ぬところだったよ!
「……なるほど。元々そういった伝承があったんですか。しかしそんな情報があれば、私達に知らせてくれてもおかしくないんですけど……」
「まあ、村の秘密のような物だったのかもしれませんねえ。」
マーリアさんがそう言って目を閉じた。
「……とりあえず、一端イヌナッカに行ってみる。話したくないことは無理に聞きはしなくていいだろう。そういったタブーが新たな災厄を生む場合もある、だったな。」
「……はい。しかし、時に村の秘密、特に怪異関係についてはときに非人道的な物になり得ます。村人が心の何処かで救いを求めているのなら、……時には無理にでも解明して解決するのも必要でしょう。」
「ああ、よく分かってるよ。」
ユッカさんの忠告に同意するケビンさん。その表情は固い。きっとこれまでにも厄介な村の秘密を見てきたのだろう。ファンタジーをあまり知らない俺にはよく分からない。
「ところで、リューヤの迷子問題はどうするんだ?何か分かることはあるか?」
不意にケビンが聞いてきた。確かに。
「はい、どうやらここから南の遺跡に帰り方の秘密があるようなので、私はリューヤさんと二人でそこへ向かうつもりです。」
「えっ、ユッカさんも来てくれるの?」
「当たり前じゃないですか!あなたの帰り方の秘密が分かると言うことは、私にとっても意味のあることなんですよ!」
そ、そうだった。『起きたまま』夢の世界、つまりこの世界に来れるようになりたがっていたんだっけ。
「それに、一人だけでは幻獣のいる場所は危険です。ハンター会からも一人呼んで出発しましょう!」
やっぱり最初よりテンションが高い。自分の興味のある分野だとやけに元気になる、要はユッカさんも一種のオタクと言えるのかもしれない。しかし、ハンター会なんてのがあるのか。ゲームで言うところのギルドなのか、あるいは猟友会のようなものだろうか。
「オレ達も行ければ良かったんだが……」
「いいえ、今のあなた達はヒーローなんですよね?私達の事は気にせず、そっちを全員でなんとかしてくれれば良いんです。」
◆◇◆◇◆◇◆
ってな訳でプリニウス調査団とは別れ、俺、ユッカさん、すらっちの三人でやって来ましたハンター会本部。外から見た分だとここは豪華すぎる城などではなく、普通の、ちょっと広めの施設だ。
「ところで、ハンター会って何なんだ?」
「ハンター会というのは、幻獣との戦闘を生業とするハンター達の集まりです。ゲームとかにも似たようなのがあるでしょう?早い話がそれですね。」
なるほどなあ。『冒険者』のギルドと言うよりは猟友会に近いのかも知れない。ただ、こちらの世界では猛獣よりも厄介なもの達を狩る羽目になるんだろうけどな。
「で、今日は知り合いの凄腕ハンターを雇うので危険な事はそう起こらないと思いますよ。でも幻獣達は人間の常識をはるかに越える存在。心構えはしておいてください。」
そういってドアを開けるユッカさん。さて、中はどうなってるのだろう?やっぱり怖いおっさんとかいるんだろうなあ。俺もユッカさんに続いて、中に入っていく。すると、そこには……たくさんの人外達がいた。トカゲ人間、魚っぽい顔人間、ドラゴンっぽい人間、熊、一目見ただけでファンタジーが過ぎるわ!……うん?というか、今熊がいたぞ!あれは完全にどう見ても普通の熊だったじゃん!?誰かのペットかよ!?
まあ、一見普通の人間っぽいのもいるな。仮面を着けていたり、どう見ても魔女の衣装だったりで、こちらもこちらでかなりいようではあるが……
まあ、やっぱり魔法があるとはいえ普通の人間よりは彼等の方が強いんだろうな。ユッカさん達の話を聞く限り、モンスター達は多くのRPGゲームのようにバンバン倒される雑魚キャラとは言えないようだから。
そんなことを考えながら、辺りをチラチラ見ている内にユッカさんが依頼の受付を終えて帰ってきた。
「終わりました!その人はいつも三時頃来るらしいので、もう少しで会えると思います。」
「ああ、ありがとう。ユッカさん。」
と言った瞬間、辺りの空気が変わった。
「い、今、ユッカって言わなかったか?」
「あ、ああ、俺も聞いた。」
「いやいや、偽者じゃねえか?ユッカ殿はどっかに行っちまったって話じゃねえか。」
「いや、最近この町に帰ってきたって聞いたよ。それに、話に聞く特長と同じだよね。黒髪のショートカット少女。」
……とっても目立ってしまった。まさかこんな目立つやつらばかりの場所で一番目立つ事になろうとは、さすがは大賢者である。
「……誰か本物を見たことある人はいないのかよ?」
「さきちゃん、そうだ!さきちゃんは賢者様と友達だったはずだ!」
「ちきしょう、今何時だ?二時五十八分?ちょうど来る時間じゃねえか!!」
そしてその時、ガチャっとドアが開いた。その場の全員がそちらを向く。
「あれ、ユッカじゃん?どうしたの?」
そこには、赤のコートを着たマスクの女性が立っていた。