いざトルキアへ!
俺達は洞窟から出て、東の町『トルキア』へ向かっていた。
「……と言うか、ソイツは一体何なんだ?」
ケビンが、俺の頭の上に乗っているスライム、スラッチって名付けることにした、を指差し怪訝な顔で見てきた。
「コカトリスから逃げる途中に拾ったんです。」
「いや、そうでは無く……」
何の事だろう?まさかあのスライムがとても珍しいモンスターなんて事は無いと思うが。
「そんなモンスター初めて見たからな。」
「ええ!スライムって珍しいんですか!?」
「何言ってンダよぉー!ソイツはどう見てもスライムじゃねぇだろ。」
「ええ!これスライムじゃ無いの!」
マーリアが衝撃の一言を発した。え、こんなプルプルしてて青くてか弱そうな物体がスライムじゃ無くて何がスライムなんだ!
「うむ、ワシ達の知っているスライムはそんな丸っこく無かったぞ。もっと不定形でドロドロしとって、そして何より触ったものを少しづつ溶かしとった。とてもじゃないが頭に乗せる事は出来んはずだわい。」
ええ……スラッチ、お前危険な奴だったんだな。いや、コイツはスライムじゃ無いから違うのか。
「……話に聞いていたスライムにソックリだったので間違えてたみたいです。でも、それならコイツは何なんですかね?」
「だから、それをオレが聞いたんだがな。」
「町でユッカちゃんに聞けば分かるのではないでしょうか。幻獣こそが彼女の専門分野なのですから。」
ユッカちゃん、この人達の恩人みたいなものと言っていた賢者?のことだ。
「ユッカさんってそんなに物知りなんですか?」
キュリアさんがおおげさに頷く。
「それはもう!この世界にいるありとあらゆる幻獣の事を知っているんです。その弱点や生態などなど、その知識のおかげで幻獣被害がかなり減りました。なかでも死者の軍勢が町を襲ってきた時に軍司として戦士達を導いたのが最大の活躍でしよう。」
ユッカさんの事を話しているキュリアさんの目はとても輝いている。このグループの人達はみなユッカさんの事をとても尊敬しているようだ。
「私達もとてもお世話になりました。私が城で回復魔術を教わっていた頃、私は実はとっても落ちこぼれでした。それでも私は人を救いたいと毎日頑張っていたある日、ユッカちゃんに出会ったんです。ユッカちゃんは私に、幻獣の一部や植物などによる魔法以外の治療法についていろいろ教えてくださいました。」
なるほど。魔法が苦手でも出来ることはたくさんあるもんな。俺の世界なんて元々魔法の無い世界なんだし。
「今ではいくらか回復魔術も様になってますし、それに何より研究を重ねて様々な治療道具を発見してきました。これもユッカちゃんのお陰です。最近はこの知識を多くの人々に伝えて回ってるんです。」
「へえー、立派ですね。さっきの解呪の霊薬とかも?」
「はい!私が作りました。竜の唾液や特殊な鉱石によって作られるんです。」
「りゅ……竜ですか。」
「はい。お陰さまで私達はけっこう戦えますから。」
お、おう。まあそのおかげで俺はこうしてまだ生きているんだもんな。もしかしたらここのパーティーはかなり優秀なのかもしれない。
「ユッカに会ったらコカトリスがいきなり出現した理由も聞いてみるか。何か分かるかもしれないからな。」
コカトリス、眼があったものを石にする凶悪な怪物。……あれ?でもなんでケビンは無事なんだろう。
「そう言えばケビンさん。コカトリスと真っ正面から向かってたけど大丈夫なんですか?」
「……ああ。問題ない。」
ケビンさんがそっぽを向いてしまう。その変わりにマーリアが話してくれた。
「ケビンは人見知りだかんねぇー。初対面なら人とも幻獣とも絶対に目を合わせねんだよ。つーか、直視しないんだよな!」
「うるさいぞ。マーリア。」
ハハハ、それで良くコカトリスやら竜やらと戦えますね。てか、人見知りならコカトリスは別に気にしなくていいとも思うんだが。
「そうこう言ってるうちに見えてきたわい。」
ムオーの声に前を向く。そこには、とても広範囲に及ぶ石垣があった。万里の長城を思わせる。その上からは背の高い家の屋根やお城っぽい建物の上部が覗いている。おお、中々に異世界だなぁ。進行方向の先には門のような物があった。おそらくはあそこから町に入るのだろう。
「あの、俺、身分証明出来るもの何も無いけど入れるんですかね?」
「問題は無いと思うぞ。手配犯や魔物達が入ってこないように見張っているだけだからな。それにオレ達は結構、顔が知られている。変に疑われたりはしないはずだ。」
なるほど。やっぱりこの人達は凄い人達だったのかも。何はともあれ、いざ入町!
なんか短い気がしますが、キリがいいのでここまでにしときます。