ウサギの家 (箱物語17)
森の奥。
オオカミはエモノを探してうろついていました。
――うん?
エモノのニオイです。
オオカミはニンマリして、エモノのニオイのする谷間に向かって進みました。
オオカミは谷間までやってきました。
どうやらウサギのようです。
――おっ、あれだな。
オオカミは小さな家を見つけました。
窓からウサギが顔をのぞかせています。
――出てこい、早く出てこい。
心の中でさけびました。
――ゴチソウのウサギ、早く出ておいで。
その思いがつうじたのか……。
ドアが開いて、ウサギがノコノコと外に出てきました。
ソロリ、ソロリ……。
オオカミはそうっと近づきました。
そうともしらず、ウサギはわき目もふらずにニンジンを食べています。
――えいっ!
オオカミは今だとばかりにとびかかりました。
が、あとちょっとのところ.
ウサギがピョンとはね、家の中に逃げこまれてしまいました。
ドアを開けようとしましたが、中からカギをかけられたのか、どうしても開きません。
「ねえ、ウサギさん。おいらは遊びに来たんだよ。なあ、ドアを開けておくれよ」
「ダメだよ。ボクを食べるつもりなんでしょ」
ウサギの声が返ってきます。
「きみを食べるなんて、とんでもないことだ」
「でもね。それを信じたばかりに、食べられてしまった仲間がたくさんいるんだよ」
「それは昔の話だよ。おいらはね、きみと遊びたいだけなんだから」
「ほんとに?」
「もちろんさ。おいら、そんな悪いヤツに見えるかい?」
オオカミは窓辺に行って、せいいっぱいの笑顔を作ってみせました。
「そうだね。じゃあ、開けるよ」
こうして……。
まんまとウサギをだましたオオカミでした。
入り口のドアが開きます。
「失礼しますよ」
オオカミは体を丸めて中に入ると、すぐさまウサギめがけてとびかかりました。
だがまたしても。
あと一歩のところで外に逃げられてしまいました。
――くそー!
反対側にもうひとつドアがあったです。
ウサギを追って、オオカミはそのドアを抜けようとしました。ところがせまくて、小さく体を丸めても通り抜けられません。
と、そのとき、頭の上で声がしました。
「よくやったぞ。さあ、ほうびのニンジンだ」
それは人間の声でした。
――逃げなきゃ!
オオカミはあわてて外へ出ようとしました。ところが、さっき入ったばかりのドアが開きません。
猟師は、ウサギの家――ワナの木箱を背おいました。
その猟師の足もと。
ウサギがニンジンをかかえ、ピョンピョンととびはねています。
猟師はウサギを連れて森へとやってきました。その背中には、今日もワナの木箱がありました。
「どうじゃ、オオカミはおらんか?」
ウサギが鼻をヒクヒクさせます。
――うん?
エモノのニオイです。
ウサギはニンマリして、オオカミのニオイのする谷間に向かって進みました。