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せんたくもの

「フハハハハハアーッ!分かる!俺にはお前が何をしようとしているか何もかも分かるぞ!」

「…………」

「フン……『切ったものを無に還す』能力か……そんなもので俺の『全知全能』に勝てるとでも!?」

「…………」

「俺の『全知全能』は!このファンタジアを支配する神にも匹敵する!最強の能力だァアア!」

「………」

「ククク……思い出作りに一太刀だけもらってやろう。さあ来い、己の無力を思い知るがいい!」

「……それじゃ遠慮なく」


 バンガロー小屋の一番奥の部屋で、椅子に座って踏ん反り返っている10代の若者に、私はツカツカと歩み寄った。彼の前で剣を振り下ろすと、空気を切ったそのキレ筋から黒い光が迸り、彼の胸部へと突き刺さった。


「ふ……」

「…………」

「ふ…フハハハハアーッ!」


 光に貫かれた少年は、特に何事もなかったかのように勝ち誇った。

「効かん! 全く効かん! お前の能力など、『全知』の前で全てお見通し! 『全能』の前では全く無意味! お前が何をするかも、視えていたぞ!神は何でもできるんだあ!!」

「ああ……できるんだろうな」

「あ?」

「ふー……。なあ、坊主。できることがあっても……やらなかったら意味ないよな?夏休みの宿題と同じだ」

 久しぶりに、私は煙草に火をつけた。ファンタジア産の安物だが、エリィがこっそり他の船員達から失敬してきてくれたのだ。


「今お前の……『やる気』を金輪際断ち切った」

「何……?」


 動揺する全知全能の少年に、私は丁寧に説明してやった。哀れこの全能神は、私の能力と攻撃する意思を見通して、勝手に私の黒光りで自分が無に還されるものだと思い込んでしまったのだ。知識だけ豊富でも、まだまだ知恵が足りない。


「もうお前が『チート能力』を使いたいと思うことはない」

「…………!!」


 目を見開く少年に、私はもう一度剣を構える。このままこの『無能力者』を放置しても、ツミレ達に嬲り殺しにされてしまうだけだろう。せめてもの哀れみに、と私は先ほど手に入れた光で彼を包み込んだ。


「礼を言うよ。実は私にも、この光がどんな能力か分かってなかったんだが……」

「……やだ、やめろ、やめ……!」

「お前のおかげで知ることができた」

「……ックショオオオオ!!」


 美しい山脈を背景に、神を騙る少年の断末魔が響き渡った。



「なるほど、『切ったものを無に還す』能力か」

「ミケさん」


 山を降りていると、どこからともなく足元に黒猫がすり寄ってきた。


「ふむ。無に還すというより……概念や、考え方まで、断ち切りゼロに『戻す』能力」

「それが私の……」

「さすが国王の父親と言ったところか……息子に似ているな」


 長い髭を揺らしながら、猫はニヤリと笑った。私は苦笑いした。普通、逆じゃないだろうか。私が息子に似ているんじゃなくて、息子が私に似ているのだ。


「国王の『無知無能』も、全てを無にするチート能力じゃ」

「…………」

「しかし、これが本当に……奇々怪界な能力じゃった。考えてもみい、最初から’無い’ものを、どうやって倒す? いかにして断ち切れというのじゃ?」

「無い……というのは」


 黒猫が切り株の上にちょこんと腰を下ろし、私もまた近くの木に背中を預けた。元々無いものを切る。トンチか、無理問答みたいな話だ。


「理解しがたい話ですね。庄司に体はあるのでしょう?」

「もちろん、ある。だが奴はたとえどんな魔法を受けても、それすらなかったことになってしまう」

「攻撃が効かない能力……ですか?だったら何故庄司は、呪いなんか受けてるんです?」

「……あれはな。国王の母親……つまりお前さんの奥方を治すために、国王自ら受け入れたんじゃ。能力を使って拒絶することもできた。だが国王は、呪いを受けることを選んだんじゃ」

「庄司が……」


 ぽつりと話し始めた黒猫の言葉に、私は涼子さんの話を思い出していた。自らの生命力と寿命を対価に、庄司は呪いを受けている……確か彼女はそう言った。母親のため、自ら防げた呪いを受け入れる……だとしたら庄司も、まだ少しは人の心が残っているのかもしれない。


「あの呪いを国王が受けているおかげで、お前さんの奥方は今も救われている」

「ということは……私が庄司を倒せば、どうなるんですか?」

「もし……国王を倒せば、呪いを断ち切れば。その治癒力は失われ……お前さんの奥方は命を落とすじゃろうな」

「何ですって!?」


 顔を上げると、木々の隙間からぽつりぽつりと細かい雨粒が降ってきていた。雨粒はだんだんと勢いを増し、やがて乾いた地面が瞬く間に潤っていく。船に戻ろうと腰をあげる私に、静かに、だがしっかりと目を見て、黒猫が呟いた。


「できるかの?お前さんに」

「…………」


 私は黙ったまま立ち尽くしていた。事態は思っていたより、複雑になってきた。長い髭から水を滴らせ、黒猫が私の目を覗き込んだ。

「できたとしても……やれるかの? 実の息子と奥方……どちらかを選び、断ち切ることが」

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