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立案者

 「チクワブだって?」


 それに、国王と一緒に旅をしていた? 私は思わず目を見開いた。

「ミケさん、あなたは一体何者なんですか?」


 私の問いかけに、ミケは蓄えた長い髭を揺らしながら、丸っこい目をキュッと細めて見せた。


「ワシが何者かだって? ふむ。言ったじゃろう、ワシはチクワブ様のペットじゃよ」

「庄司の手下なのか?」

 思わず口をついて出た息子の名前にも、ミケはさして興味を示さなかった。


「それは違う。確かにチクワブ様は国王と血の繋がった実の娘じゃが……」

「じゃあ一体……?」

「王国側も一枚岩じゃない、ということじゃよ。今の国王を快く思ってないのは、国民だけじゃないのじゃ」

「…………」


 しばらく沈黙に包まれた部屋の中に、船を動かす魔法の歯車のゴオン、ゴオン……という重低音が響き渡る。細められた猫目の奥の真意を測りかねて、私は口ごもった。出会ったばかりのこの黒猫の話を、一体どこまで信じればいいのだろう?


「……ではあなたは、チクワブは……国王と反発している?」

「そうじゃ。実はの、チクワブ様をお前さんの元に送ったのは、何を隠そうこのワシじゃ」

「あなたが?」

驚く私に、ミケはより一層目を細めて笑った。

「左様。正直に話そう。国王を快く思っていないのはチクワブ様ではない、このワシじゃ」

ミケは目を伏せ、ポツリポツリとその経緯を話してくれた。

「ワシはかつて、里も親も失くしたところを、心優しい幼き頃のチクワブ様に拾ってもらったのじゃ。彼女には返し尽くせない恩がある。だからこそ、彼女をこのまま、乱心した国王の側に置いておきたくない。たとえそれが実の親子だったとしても……じゃ」


 国王の……息子の悪政を何とかするために、そして何より、チクワブにこれ以上悪い影響を与えない様に。この大きな黒猫は、私に白刃の矢を立てたというのだ。私が我慢できずに、こちらの世界に乗り込んでくることを見越して。私の冒険譚は、ミケが仕組んだことだったのだ。


「あなたは、私がこの船に乗ることも見越していた……?」

「そうじゃな……いずれこの世界を旅していれば、どこかの反王政勢力に辿り着くとは思っておった。見ての通り、ワシは特別小柄じゃからな。たとえどこだろうと、忍び込むのは容易い」

「…………」

巨体を揺らしながら、ミケが笑った。

「……お前さんなら、きっと国王と同等か、それ以上の『チート能力』に目覚めるじゃろうと確信しておった。何せあの国王の父親なんじゃから、やはり血は争えんものよのう」

「争えないもなにも……」


 私は首を捻った。普通、逆じゃないだろうか? 私の血が息子に流れてるんだから、息子が私の力を引き継いでいるなら分かるが。私が私の血と争えなくったって、それは当然だ。


 夜が明け、だんだんと光を取り戻してきた部屋の中で、黒猫が深々と頭を下げた。


「頼む。お前さんの力で国王を倒し、チクワブ様を解放してやってくれ! そして混沌極める今のファンタジアに、平和を取り戻してくれまいか」

「でも、私は……」

「試したんじゃろう?あの森で。お前さんの『チート能力』を」


 ミケの目がキラリと光った。あの森……灰色の森での出来事を、私は思い出した。相変わらず外ではゴオン、ゴオン……という音が、耳の奥にずっしりと木霊し続けている。


「目覚めたばかりのその能力……一体どんな力だったんじゃ?お前さん本人は、もう気づいているんじゃないかの?」

「それは……」

「『チート能力者』は、いつだってそうじゃ。説明を聞いてもこっちがチンプンカンプンな能力を、平然と披露してくる。やれ『時間停止』がどうとか、やれ『不老不死』がどうとか……全く、意味不明じゃ。その原理はどうなっとるんじゃ……」


 ミケが理解できない、とでも言いたげに首を降った。私は昨日のことを思い出した。突然現れた、あの黒い光。悲鳴を上げて姿を消した森の妖精。エリィの驚いた表情。様々な場面がフラッシュバックする。まだ私にも確信はないが、あの力は、恐らく……。


「あの剣の黒光は……」

「おい」


 突然、背後から声をかけられた。驚いて振り向くと、そこにリーダー格のディコンが通路を塞ぐように立っていた。初めてこの船に捉えられた日に、私を締め上げたあの男だ。もう一度ベッドに視線を戻すと、いつの間にかミケは煙のように姿を消していた。私をジロリと睨み上げ、オディンが低い声で唸るように言った。


「ツミレ様がお呼びだ。約束通り、今朝は貴様を『転生者狩り』に連れて行ってやるそうだ」

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