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ペット

 船に戻ると、狩りの疲れを癒して一休み……とはいかなかった。夕食の準備、後片付け、風呂場の手配にベッドメイキングをエリィと2人で黙々とこなしていく。一緒にベッドに戻れた時には、すでに時計の針は0時を過ぎていた。折角異世界に来たというのに、これじゃ深夜残業しているのと一緒だ。ドロドロにへばりついた汗をシャツごと脱ぎ捨てながら、私はそのまま真新しいシーツへと倒れこんだ。


「おじさん……」


 エリィが上から私の顔を覗き込んだ。私は黙って頷いた。あの灰色の森での出来事から、私達はすぐさま森を出た。船に戻るまでの間、何も説明しなかった私の顔を、エリィはこっそり何度も何度も伺っていた。


「エリィ、分かってる。あの黒い光のことが聞きたいんだろう? 絶対に誰にも言わないって約束してくれるかい?」

「うん。約束するけど……明日も朝7時起きだからね?」

「何だって?」


 私は目を丸くした。エリィが可笑しそうに笑って顔を引っ込める。私はため息をついて、そのまま気絶するように眠りについた。




「おい、起きろ」

「ぐあ……!」


 鋭い刃物で刺されたような痛みを感じ、私は飛び起きた。乱視でボヤけた目を凝らすと、私の鼻先に猫の爪が突き刺さっていた。その爪の持ち主と、私は夜の闇の中で目が合った。巨大な黒猫、ミケだ。その毛色のせいか、もはや暗闇と体が同化しかかっている。


「……もっと紳士的な起こし方はできないんですか?」

「実に猫的だろう?」

「よく分かりませんが……そうだ。それより聞いてください」


 私は昨日灰色の森で起こった一部始終を黒猫に説明した。ミケは私の話に黙って頷き、最後まで聞き終わるとようやくその口を開いた。


「それじゃ。それが所謂異世界転生者の宿す『チート能力』じゃ。お前さんもこの世界に来てやっとその力に目覚めたようじゃな」

「やっぱりか……」


 ミケの言葉に、私は天を仰いだ。この年にもなってまさか、自分が漫画みたいな特殊能力に目覚めることになるなんて。妻や、会社で部長になんと説明すればいいのだろう。電話対応中、突然私がデスクで黒光りし出したりしたら、同僚達からもきっと白い目で見られるに違いない。

「案ずるな。チート能力と行っても、使いこなせる奴は多くない。ほとんどの転生者は内に秘めたる力をこの世界で解放するが、大抵は力の使い方すら分からず死んでいく」

「死……」


 物騒な言葉に、私は息を飲んだ。


「今の国王のおかげで、転生者は大概恨まれておるからな。もし不用意に自分の能力を明かせば、この世界ではたちまち標的にされてしまうじゃろう」

「国王……か」


 私は船の窓から外を眺めた。この船に乗っている船員達だけでも、相当な数がいる。ツミレの言う『転生者狩り』そして『国王暗殺』の賛同者は、世界中にいるに違いない。元々この世界に住む人間にとって、我々は異邦人だった。そして、我々転生者を恨まれるようにしてしまった張本人が、私の息子なのだ。私は唇を噛んだ。


「だったら私は……どうしたらいいんですか?」

「うむ。その件じゃが……ワシに任せてみぬか? こう見てもワシはかつて、国王とともに旅をしたこともある。チクワブ様のために、お前さんを一端のチート能力者にしてやろう」

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