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3 昶Ⅰ

 綾子の誕生日の次の日、綾子が登校するとクラスで1番仲の良い友達である梨絵が既に待ち構えていた。

 梨絵のフルネームは沼田梨絵。二宮綾子とは、出席番号順で前後になる。

 入学して最初の座席は出席番号順であり、まだ席替えをしていないので、今も前後の座席だ。

 最初は席が近いから、と話し始めたのだが、気があった。自然と、一緒に過ごす時間が長くなっていった。


「綾子ー!おはよー!あーんど!お誕生日おめでとー!」


 そう言って、梨絵は包装されたものを渡してきた。


「えー!なになにー!綾子ちゃん誕生日なの?」


 梨絵の大きくて通る声を聞き付けたクラスの女子が集まってくる。


「昨日ねー!」


「そうなんだー!おめでとー!あ、お菓子あげるよ」


「私からも!おめでとー!」


「いいの!?ありがとう!」


 綾子の机の上には、お菓子やジュースがいくつも置かれていった。

 一通り盛り上がり、その輪が解散した後、綾子は残っている梨絵に尋ねた。


「これ開けていい?」


「もっちろーん!」


 リボンをほどき、中を覗いてみる。

 そして綾子は顔を輝かせながら、中身を取り出した。


「可愛い~!」


 中から出てきたのは、今流行りのゆるキャラのキーホルダーだった。


「ありがとう!鞄に付けよーっと」


 綾子はさっそく、自分のスクールバッグにキーホルダーを付けた。


「わーい!嬉しいー!可愛いー!」


「いやあ、そんなに喜んでもらえると、あげたかいがあるってもんよ」


 盛り上がっているうちに、チャイムが鳴り、朝の楽しい時間は打ち切られた。



 1時間目が終わった休み時間、綾子は梨絵に聞こうと思っていたことがあることを思い出した。

 体ごと後ろを向き、本来とは反対の座り方で椅子に座る。


「ねえねえ、梨絵って彼氏いないんだよね?」


「そうなのさー。寂しいもんよー」


「じゃあさじゃあさ!この学校で格好良いって思う人って誰!?」


「そりゃあ一ノ瀬くんでしょう!」


「いちのせ……って拓也のこと?」


 梨絵は即答だったが、綾子は信じられない思いであった。


「そう!綾子あんた知り合いなんでしょ?前話してたよね~!いいなあー」


 綾子は納得がいかない。

 たしかに見た目は悪くないと、綾子も思っている。

 しかしそれ以上に


「あいつすんっっっっっごい性格悪いよ!?」


 という面があることを、強調して伝えた。

 しかし梨絵はそう思っていないようで


「この前2人が話してるの聞いてたけどさあ、俺様って感じ?格好良いから様になってるよねえ!」


 という反応だった。

 綾子は、梨絵とは男の趣味は合わないのだろう、と思うことにした。

 拓也のことは十分知っているので置いておくことにし、話を進める。


「拓也以外だったら?」


「んー……あ!一ノ瀬くんと一緒にいる人たちも格好良いよねえ。名前まではわかんないけど。てか2組レベル高いよね!羨ましいわあ」


 それに比べてうちのクラスは……と、梨絵は教室内を見回しながら嘆いた。

 拓也と一緒にいる人というのは、昨日会ったメンバーだろうか。たしかに3人とも格好良かった、と思い返す。


「まだ先輩たちまでは知らないけど。ていうか、何でいきなりこの話?」


「いや、高校生になったんだし、彼氏くらい欲しいなーって。やっぱりイケメンがいいじゃん?」


「まあねぇ」


 梨絵も同意し、頷いている。

 しかし急に反応を変えた。


「いや、あんたには一ノ瀬くんがいるでしょ。随分仲良さそうだったじゃなーい」


 そう言って、右の人差し指で綾子の左頬をぐりぐりと押した。


「いや、拓也とはそんなんじゃないから。ただの幼馴染みってだけ」


「その!「一ノ瀬くんの幼馴染み」ポジションを羨ましく思う女子はこの世の中にどんだけたくさんいることか」


 それは言い過ぎだろう、と綾子は思う。

 結局、梨絵と話してもあまり情報は増えなかった。入学して2ヶ月経つが、昨日会った3人以外に、魅力を感じる人とは出会っていない。

 さてどうしようか。



 善は急げ、ということで、綾子は放課後とりあえず5組に向かってみる。

 綾子が教室の前に着くと同時に、拓也と昶が教室から出てきた。


「何してんのお前」


「別にー!拓也には関係ないでしょ!」


「あっそ」


 拓也はそのまま去ろうとしたが、昶は立ち止まり、綾子に声をかけた。


「綾子ちゃん……その鞄に付いているのってもしかして……!」


 昶が見つけたものは、今朝梨絵から貰い鞄に付けたキーホルダーだった。


「これー?友達に貰ったの!可愛いでしょ!」


「は?それの?どこが?」


「もー!拓也とは話してないんだから黙ってて!引っ込んでろ!」


「拓也くんわかってないなー!可愛いじゃん!」


「だよねー!昶くん、わかってるー!」


 拓也のことなどそっちのけ、綾子と昶は意気投合していた。


「いいなあ。僕もグッズ欲しいんだけどさあ、男が付けるのは変かなーって思って」


「えー!変じゃないよ!」


 そこで綾子は閃いた。これはチャンス!とばかりにさっそく聞いてみる。


「じゃあさじゃあさ!今度一緒に何か買いに行かない!?今さ、駅の近くで、このグッズが買える期間限定のお店やってるの!」


「えっいいの!?」


「なっ……」


「うん!私も行きたかったんだー!けってーい!」


 この話の展開に一番驚いているのは、拓也であった。

 しかし拓也は当事者ではないため、話から置いていかれる。


「昶くんいつ暇ー?私はねー、毎日暇!」


「そーだなー」


 そう言って、昶は自分の予定を思い浮かべる。


「明後日水曜の放課後なら。急すぎ?」


「ぜんぜーん!じゃあ水曜に行こうね!拓也はついてこないでねー」


「言われなくても行かねえよ!おら昶、さっさと行くぞ」


「うん。じゃあ綾子ちゃん、またね」


 綾子は昶に手を振り、見送った。

 綾子の中では「よし!順調順調!」といった思いだった。

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