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R童話-やんわり-情景童話

巣立ちを迎えた一人の少女-

作者: RYUITI

 夜風になびく私の髪の毛が、

とても気持ち良さそうに流れているように感じられる今の時間、

今までお世話になった家や周辺を、

思い出に沿うようにゆっくりと歩きながら確かめていく。


一人で遊んでいたら近所の動物に追い掛け回されて逃げ込んだ小さな倉庫。

焚き火をするにはちょうどいい範囲の空き地。

お母さんと喧嘩した時によくお母さんが連れて行ってくれたパン屋さん。

本を読みながら帰っているとお店から逃げ出したウサギがレンガ路を疾走していたこともあったなあ。

季節の花を見ながら休憩しやすいようにと色々なところに置かれたベンチ。

外で聞こえるネコの鳴き声を辿ってみたら隠し通路を見つけたり。

お父さんが亡くなった後、

恥ずかしそうに、だけど誇らしげに話をするお母さんとベンチに座ってお花見したこともあったっけ。



思い出に揺られてふと気がつくと、

ずいぶんと家から離れてしまっていたみたいで、

足に少しだけ痛みを感じたので近くにベンチか休憩出来る場所を探していたら、


眼線の先に、

見覚えと思い出のあるライラックの大木が見えたので、

私はその大木にゆっくりと身体を預けることにしたのでした。


大木に身体を預けると、

優しい木の匂いと固い感触が私の身体にするりとつたわっていくようなそんな気がしたりして、


私があのヒトにあったのは、

今日と同じような日だったなあ……なんて。


じわりじわりと浮かんでくる思い出に懐かしい暖かさが灯るのを感じて、

あの頃のようにゆっくりと、

だけどあの時のように悲しくは無くて、

むしろ静かな風に揺れる木々のような。


そんな穏やかな気持ちで空に眼を移すと、

視界の中には満天の星空が広がっていて。


この街を離れようとしているこんなときまで、

懐かしい思い出にそっくりな瞬間に、

少しだけ微笑んでしまったり。


しみじみと思い出に浸っていると、


視界に映らない真っ暗な道の先から、

こっちに向かってコツコツ、コツコツと足音が響いて来た。


だけど私は大木に身体を預けて、

星空を見たままで、

動こうなんて思ったりはしなかった。


なんだか懐かしい感じがしていたから。


次第に足音が小さくなって、

やがて聴こえなくなったとき。

不意に「やあ、お嬢さん。

こんな夜更けに穏やかな顔をしてどうしたのかな?

」なんて声をかけられてしまった。


さっきよりは視界が冴えてきたといっても、

今は夜中やっぱり驚いてしまう。


私が改めて声のする方をじっと見ていると、

そこに居たのは、

スーツ姿で肩には数枚の鳥の羽が乗っている、

長い黒髪にスラりとした身体を持つ緑色の眼をした一人の女性でした。


私に声をかけたと思われるその女性は、

大木に腰を降ろしている私の隣にゆっくりと腰を降ろして。

「ふう――改めましてこんばんはお嬢さん。

今日も良い星空だね。

こんな夜更けに君はいったいどうしたのかな?」

と私に質問をしてきました。


そう質問する女性は穏やかで優しそうな表情をしていたので、

私は、少しだけ恥ずかしくなりながら、

「今日は、大事な友人に逢えたんです。

その友人は私が不安で淋しい時に私の進む場所を自分の翼で導いてくれていて。

でも、私にはそんな翼が無いから、

友人が旅に出てからは、

友人が今何処を飛んでいるのかもわからなくて。

それでも友人が旅立った後、

少しでもいつか彼女に胸を張れるように自分なりに真剣に生きてきて――」


そう口にした私はいつのまにか女性に抱き締められていて。


私はとてもびっくりしていたのに。

いやな気持ちはしなくて。


抱き締めている女性の身体は、

優しくて、懐かしくて、とても暖かかった。


暖かかったのは身体だけじゃなくて。


心の中も暖かい気持ちでいっぱいでした。


私が抱き締められている間、

女性の身体はなんだか少しずつ、少しずつ震えていて。


こんな夜更けの寒さが身に染みているからなのか、

いつかと同じような状況が胸を熱くさせているからなのか。


そんな事は今はどうでもいいのかもしれないね。


だから私は、

彼女と同じくらいに成長した身体についている両手で、彼女の背中を優しくさすって、


少しだけ長めに言葉を口にした。

「大丈夫だよ。

確かに辛いこともあったけど、

あなたが言ってくれた言葉のお陰で、

あなたと過ごした日常のお蔭で、今の私が居ます。

たくさんある翼の中で、

私は今日確かに、

一番大きなあなたの翼をちゃんと見付けられたよ。

だから……ねえ、涙を拭いて私と一緒に空を見てみよう ?」と。

いつかの彼女が言っていた言葉を真似て。


言いたい事を言えた私の心の中は、

とてもすーっとしていたけれど、

それからは静かな時間が流れて過ぎていく。


聴こえているのは、

虫の涼しげな羽音と大木の葉がそわさわと揺れる音。


心地よい流れが辺りを包んでいたそんな時、

いきなり一際強い風が吹いて、眼が霞む。


その強い風に合わせるように、

彼女は私を抱き締める力を緩めて、

少しだけ赤みの残った眼を隠すように上をゆっくりと向いて星空を見ようとしていて。


白い息を吐きながら、

彼女が空の方をしっかりと向いた時、


いつかと同じように。


私たちの視線の先に、

とっても大きな輝きをみせる一筋の流れ星がスッと流れた。


流れ星を見た私は、

自然と「きれいだね 」と言葉が出てしまった後、何も会話をしないまま、

眼をずっと開けてじっと次の流れ星を待った。



しばらくすると、

いくつもの流れ星が何度も星空をしゅんと駆けて行って。


その度に私はドキドキしながら力いっぱい眼を見開いて、

ワクワクしながら過ぎて行く流れ星を眺める。



流れ星が過ぎ去り、

星空の空が静かに輝き始めた頃。


横に居た彼女は穏やかな顔つきのまま静かに口を開いて、

「君は今回は眼を瞑らなかったみたいだね。

 瞑ってしまったのは私のほうだった。」といってきたので、


あなたは何をお願いしたの――と聞いてみたら。


彼女は少し恥ずかしそうに私から顔を逸らして――

「そんな大層なことじゃないけれど、

あの小さな子をしっかりと見守ってくれた事に、

友達として君のお父さんに感謝をしただけさ。」なんて言われた。


大きな恥ずかしさを抱えた気がする。


だけどじんわりと暖かい気持ちになった私は、

「ありがとう……あの、

今からもっと寒くなってくるから、風邪引いちゃうのもいけないし、

よかったら一緒に温かいものでも……一緒に食べに行ったりしない?

長い時間まで開いてるお店いくつかある、から。」なんて言ってしまっていて。


自分でも何を言ってしまっているんだろうと思ってドキドキして彼女の顔を見てみれば、

にこにことしながら呆れた声で、

「仕方ないな。

本当に仕方ない。 」と言いつつ私の手を取って歩き始めた。



彼女の歩く速さを見る限り、

どうやら、お店を決めるのは少し長くかかるかもしれないなあと思ったので、



今度は彼女の昔話でも聞きながら、

ゆっくり歩いて行ってもいいかもしれないなあ。



お互いが風邪を引かない程度に。


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